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#4 ナカムラクニオの美術放浪記

岡本太郎が見た12年に一度の秘祭 イザイホーを追って沖縄の離島へ

ナカムラクニオの美術放浪記

《太陽の塔》で知られる芸術家、岡本太郎(1911-1996)。ナカムラクニオさんが最も影響を受けた人のひとりといいます
《太陽の塔》で知られる芸術家、岡本太郎(1911-1996)。ナカムラクニオさんが最も影響を受けた人のひとりといいます 出典: イラストはいずれもナカムラクニオ
【ナカムラクニオの美術放浪記】 文・イラスト:ナカムラクニオ
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「旅は、爆発だ!」

近年、気がつくと岡本太郎が愛した土地に呼び寄せられ、同じように感動してしまうことが多い。

太郎は芸術だけでなく、遊びにも全力でスキーや温泉が大好きだった。長野の野沢温泉、伊豆の天城温泉、山形の蔵王温泉スキー場にも長く通っていた。

太郎は、自分の人生において最も影響を受けている一人だと思っている。

思い起こせば、子どもの頃からなぜか岡本太郎が大好きだった。

テレビから流れてくる「芸術は爆発だ!」とか「グラスの底に顔があってもいいじゃないか」という熱い言葉が幼心に深く刻まれた。

芸術は爆発していた

小学5年生の頃、JR大森駅近くに住む友達の家に遊びに行く途中で、岡本太郎が設計したフラワーデザイン学校「マミ会館(現在は、老朽化のため解体)」を偶然見つけ、震えたのを今でもはっきりと覚えている。

巨大な青いツノが生えたような斬新な建物だったが、おそらく人生で最初に出会った芸術作品だったと思う。

子どもながらに「本当に芸術は、爆発なんだな」と感心した。

《太陽の塔》で知られる芸術家、岡本太郎(1911-1996)
《太陽の塔》で知られる芸術家、岡本太郎(1911-1996)

高校生になると「岡本太郎みたいなすごい作品を作る芸術家になりたい」と思うようになった。そして、向かったのは青山にある太郎の自宅だった。

住所も知らなかったが学校の帰り道に探して歩いていたら、高い壁に囲まれ、大きなバナナの樹が生えている奇妙な家を見つけた。

中をのぞくと庭に太郎がデザインした「座ることを拒否する椅子」が置いてあった。

「ここだ!」。もしかしたら本人に会えるかもしれないと、ドキドキしながら少しだけ待ってみたが、誰も出てこなかった。

(現在、太郎が42年間住み続けたこの青山のアトリエは「岡本太郎記念館」として公開されているが、初めて中に入った時、痺れるように感動したのを今でもはっきり覚えている)

日本の「信仰」の源流を探して

太郎はいつだって、民族学的な視点から、その土地に暮らす人々や文化を見つめているところも興味深い。「世界ととけあうこと、それが旅である」だと言っている。

中でも沖縄の久高島に通って、12年に1度、4日間にわたり執り行われていた秘祭イザイホーの取材をしていたことに惹かれた。

白い着物に白鉢巻きをした巫女たちが、手拍子や合唱をしながら輪になって踊るイザイホーは、日本古来の祭祀の原型を留めているとして注目されていた。

久高島は沖縄本島の東にある周囲約8kmの島
久高島は沖縄本島の東にある周囲約8kmの島

イザイホーは、琉球王国の時代から600年以上続いてきた伝統の祭り。しかし、後を継ぐ人手がいないため1978年を最後に現在まで行われていない。

実は、僕も太郎と同じように15年ほど前から久高島には10回以上通って取材している。島の日常的な祭りはすべて旧暦で行われ、収穫祭、大漁祈願など、年間を通して30回以上行われている。

この島に初めて来た頃は、いつか「久高島の映画を作ろう!」と計画していたが、いつの間にか中断し、大量の収録素材だけが手元に眠っている。

最後のイザイホーに参加したおばぁに話を聞いたり、島に伝わる歌を撮影させてもらったりもした。イザイホーではないが何度も日々の祭りにも参加した。

1978年に開催された最後の「イザイホー」
1978年に開催された最後の「イザイホー」

しかし、「久高島の酋長」と呼ばれ、貴重な島の歌を伝えていた西銘徳夫さんも数年前に亡くなってしまった。

もし次回があるとしたら、2026年だ。2014年も、もしや開催されるのでは?と思ったが人材不足のため実現されなかった。

語る人が途絶えれば、伝承が途絶える。次が実現しないなら、直接、イザイホーを知っている人からの伝承は最後となるかもしれない。

祭の復活を祈りつつ、「天国にいる太郎なら、どうするだろうか?」としみじみ考えてしまった。

 

ナカムラクニオ
6次元主宰/美術家、東京都生まれ。画家、金継ぎ作家として活動し、山形ビエンナーレや東京ビエンナーレにも参加。著書は『金継ぎ手帖』『古美術手帖』『描いてわかる西洋絵画の教科書』『洋画家の美術史』『こじらせ美術館』『こじらせ恋愛美術館』など多数。

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