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自由研究におすすめ〝ヤドカリのグラビア〟制作者の「生きもの観察」

殻を脱ぐと……

でんかさんが撮影した殻の中から顔を出すソメンヤドカリ
でんかさんが撮影した殻の中から顔を出すソメンヤドカリ 出典: 「ヤドカリのグラビア」から

目次

夏休み、「自由研究」が課題になっている人もいるのではないでしょうか?ヤドカリやウミウシ、貝類などの海の生きものを観察・採集し、その魅力をSNSなどで発信してきたでんかさん(28)。学生時代に、ヤドカリの鮮やかな姿に骨抜きになり「ヤドカリのグラビア」を3冊にわたって出版してきました。自由研究のおすすめも〝生きもの観察〟。方法と注意点を聞きました。(朝日新聞デジタル企画報道部・高室杏子)

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「ヤドカリのグラビア」って?出版の経緯は

「ヤドカリ」と聞くと、貝殻を背負って浜辺などを歩くイメージですが、そんなヤドカリが貝殻を脱いだ姿を美しい写真とともに紹介するのが「ヤドカリのグラビア」です。でんかさんが東京海洋大学の3年生のときから3巻にわたって刊行しています。

でんかさんによると、ヤドカリは国内に300種類以上、世界にも1200種類以上が確認されています。でんかさんは、大学に入学してすぐに色とりどりのヤドカリの種類に魅了されました。「地味で貝を背負っているイメージしかなかったのですが、国内だけでもこの鮮やかさ。この触角のバリエーション。目を奪われました」と振り返ります。

1巻では沖縄などに生息している約30種類を紹介しました。殻を脱いだヤドカリは、尾の部分が丸まっており、貝殻で隠れていた腹や尾の部分には柔らかさを感じます。

「ヤドカリのグラビア」初巻の表紙
「ヤドカリのグラビア」初巻の表紙 出典:でんかさん提供

「グラビア」の撮影にあたって、でんかさんは採取したヤドカリの殻を割りました。 殻を割ると普段見られない部分まで詳細な観察ができるようになります。殻を割るということはヤドカリを危険にさらすことでもありますが、ヤドカリの生態を知るために必要なこと。ヤドカリの体まで壊さないように細心の注意を払います。「殻のない姿のまま標本にして、その後の活動にいかして命を無駄にはしないようにしています」

現在、3巻まで出版しており、2巻は本州の浅瀬にいる種類に焦点をあて、3巻はカラフルな種類について詳しく解説しました。1巻は電子書籍としても販売しています。

〝生きもの観察〟ポイントは

長く海辺の生きものを観察・採集してきたでんかさん。具体的に、写真や動画を撮る以外ではどんなことをしているのでしょうか?

でんかさんは、「ただ見て終わり、写真を撮って満足ではなくて、ヤドカリなら脚の付き方や、目の構造、他の種とは異なる部位を探し、とにかく細部まで見ます。他の生物でも、毒がないと図鑑で確認できたら、手で触れてみたり顕微鏡で観察したり。その場でしかできない自分の体験を大事にしています」と話します。

生きものは水中はもちろん、岩かげや浜辺や海底の砂中などあちこちにいます。でんかさんは日常的に、シュノーケリング(酸素ボンベを使わない素潜り)とビーチコーミング(漂着物の収集や観察)などで生きものや生きものの痕跡を見つけています。

生体を採集して、その場で観察した後はたいていもともと居た場所に帰すか、興味がある生物は家に持って帰ります。家では飼育して何を食べるかを調べたり、繁殖に挑戦したり、スケッチしたり、標本をつくったり。

「スケッチでは対象をよく観察する必要があるため、結果的に生きものの体の構造を覚えることにつながります。満足いくスケッチができたら額縁に入れて部屋に飾ったりしています」とでんかさん。

でんかさんによるイシガニのスケッチ。額縁に入れて「カニの好きなところ」を回答した人にプレゼントした
でんかさんによるイシガニのスケッチ。額縁に入れて「カニの好きなところ」を回答した人にプレゼントした 出典: でんかさんの「X(旧ツイッター)」での投稿から

海水浴場など海に行く機会があれば、「ぜひ見てほしい」というのが「潮だまり」。「潮の満ち引きで潮が引いているときに、くぼみに海水が残っている部分にいる生きものは捕獲しやすく、観察もしやすいです」

一方、観察する生きものを探す場所は、必ずしも海に行く必要はないといいます。

「スーパーの魚売り場にある、さばかれる前の魚介類も観察の対象になります。イカの体表を観察したり、さばいて内臓の位置を見てみたり、どういう役割の部位なのか図鑑で調べたり……」

「例えば、よく口にするクルマエビのことはどれぐらいご存知でしょうか。口はどこ?足は何本?どこに卵を持つのだろう?いつもは食卓に並んでいるものを別の見方で見てみるのも楽しいと思います。旅行先で鮮魚コーナーを見るとふだん目にしないその地域の特産生物と出会えておもしろいです」

海辺で気をつけてほしいこと

海に出る際はけがをしたり、浅瀬であっても溺れたりといった水辺の事故にも注意が必要です。観察する生きものに毒があったり、うっかり「密漁」してしまう……なんてことも。

でんかさんは、水辺の事故を防ぐために、ライフジャケットとマリンシューズ、手袋の着用は必須といいます。長袖を着て肌の露出を控えるだけでかなり安全性が上がります。

「磯の岩場はフジツボなどで足を切ってしまうこともあります。カキなどの殻も踏むとけがをします。ビーチサンダルは滑ったり、脱げたりしてしまうので浜辺を歩くときだけ。岩場に行くときは脱げにくくて、足全体を守ってくれるものをはいてください」と話しています。

また、カツオノエボシやクラゲ、カサゴなど毒がある生きものに手などで触れて腫れたり、刺されたりするけがにも気をつけてほしいといいます。

浜辺で見つかったカツオノエボシ
浜辺で見つかったカツオノエボシ 出典: 朝日新聞

海に入るのは、岸辺にカツオノエボシなど有毒のクラゲが打ち上がっていないかを確認をしてからの方が良いです。それらが打ち上がっている海には海中にいる間に刺される危険があります。

クラゲに刺された場合の対処方法は、クラゲの種類によって異なるので事前に調べておくこともおすすめだといいます。ほかの有毒生物も同様で、皮膚科で医師に診てもらうときは、何に刺されたかを可能な限り伝えることが大事です。

密漁にならないかどうかも重要なポイントです。海水浴場などの近くには看板でアワビやナマコ、サザエなど「その場所で採ってはいけない生きもの」の名前が示されていることがあります。それ以外にも採ってはいけない生物が定められていることがあるため、事前に知っておくことがおすすめです。

千葉県館山市の海辺に設置された看板、高室杏子撮影
千葉県館山市の海辺に設置された看板、高室杏子撮影

「もし、採ってはいけない生物を見つけてたら、写真で撮ったり、目で見て特徴を観察するだけに留めて、ルールのなかで、生きものの観察を楽しんでほしい」とでんかさん。

「夏休みの自由研究、難しく考えてしまうかもしれませんが、自分の好きなものについて知っていることを増やせる機会です。安全に楽しみながらできるものを選んでみてください」

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