連載
#73 「きょうも回してる?」
生命感あふれるカエル、ほぼ実物大 「よくぞ…」研究者称賛のガチャ
会社の場所は、渓谷もある東京・あきる野市。
研究者も注目する、生物系のガチャガチャを生み出すメーカーがあります。そのこだわりについて、ガチャガチャ評論家のおまつさんが取材しました。
ガチャガチャ業界は、コロナ禍で専門店の出店ラッシュが相次ぎ、現在も増え続けています。業界全体が活性化し、22年度の市場規は、初の600億円になりました。
メーカーの新規参入の勢いが止まりません。約10年前、メーカーの数は10社もいかないほどでしたが、現時点で約40社にもなり、ここ10年で4倍増えたことになります。
専門店という売り場が増えたことで、アニメやマンガなどのキャラクター商品を扱うメーカーにとっては、売れ筋商品の受注数は増える一方、オリジナル商品に力を入れているメーカーにとっては、新規参入のメーカーが増えたことで、売り場の取り合いになり、厳しい状況です。まさに、戦国時代の群雄割拠な時代に突入しています。
この厳しい戦いに生き残っていくため、いかに差別化を打ち出すことができるかが、ますます重要になってきます。
この差別化を上手く図っているメーカーがあります。オリジナルで自然科学や芸術をモチーフにガチャガチャを作っているメーカーの「いきもん」です。いきもんは、2014年にキタンクラブの生物フィギュアシリーズ「ネイチャーテクニカラー」のブランド業務を引き継ぎ、設立されました。
代表の佐藤純也さんは、漫画家を経て、ユージン(現:タカラトミーアーツ)に入社。ユージン時代では、生き物たちの姿をリアルに再現した原色図鑑シリーズ等を担当し、キタンクラブで自然科学や生物ジャンルのネイチャーテクニカラーで上質な商品を作り続けたあと、自分の会社を立ち上げました。
いきもんの名前の由来について、佐藤さんは「語感を大事にし、会社名で商品の雰囲気がわかるようにつけました」と話します。
ガチャガチャメーカーのほとんどが東京23区に拠点を構える中、この会社は東京のあきる野市にあります。あきる野市と言えば、秋川渓谷など自然豊かな場所であり、いきもんの事務所から徒歩2~3分歩くと、透き通った川が流れ、釣りをしている人や川で遊んでいる子どもたちが大勢いました。
いきもんの魅力は、とことん商品にこだわる点だと、私は考えます。商品のこだわりについて尋ねると、佐藤さんは「買っていただいたお客様ががっかりしないように、原型師さんや作家さんが作ってくれたものに対して、しっかりと再現したい思いがあります。雑には作りたくありません。デコレーションマスター(※彩色見本をして製作されたフィギュア)にできるだけ近づけるように、丁寧な商品作りと丁寧な生産が、いききもんの強みです」と教えてくれました。そして、佐藤さんは原型師さんとの信頼関係を築くことが重要だと話してくれました。
ただ、最近では、各メーカーの悩みでもある為替の円安と材料費の高騰も佐藤さんにとって大きな悩みになっています。
「これまでもコストぎりぎりで商品を作っていました。ただ、今の円安状態では、バラエティーに富んだ商品作りが難しく、商品にかけられるコストはさらに減ってきています 。昔はフィギアの『型』となる金型の数を何度作り直しても気にしませんでしたが、今はやりすぎてしまうと、商品のコストが上がり販売できません。いかに金型や工程数を減らしても良いものを作れるかで、いつも悩んでいます」(佐藤さん)
良いものを作りたい思いと生産コストのバランスで戦っている佐藤さんのジレンマが垣間見えました。
今回は厳しい環境のなか、いきもんの真骨頂を発揮した「ネイチャーテクニカラー」シリーズの「大きなヒキガエル」を紹介します。7月下旬に発売したばかりです。
企画総指揮が佐藤さんで、原型制作はKOWさん。原型師のKOWさんは、原色図鑑シリーズから、ネイチャーテクニカラーの台座付きシリーズをほぼ全て手がけています。ネイチャーテクニカラーの歴史を築き上げたといってもいいくらい、生物造形の最高峰の原型師と言えます。
特長は何といっても、ボリューム感があるカエルのサイズです。ネイチャーテクニカラーシリーズ最大級の全長113ミリ。ほぼ1分の1サイズでヒキガエルを再現したものです。子どもが身近な自然でヒキガエルを取って喜ぶ顔がイメージできるほど、生命感溢れる姿になっています。
佐藤さんは、大きなヒキガエルについて「コスト面ではぎりぎり。何よりもヒキガエルの大きさが特長で、手に持った時のちょうど良いサイズになっています」と話します。
また、ヒキガエルの造形美もさることながら、「塗り」が恐ろしく丁寧です。
工場からのサンプルを見たときに、佐藤さんは納得が行くまで何度も直しを入れたため、工場の人から「もうやめてくれ」と 言われてしまったそうです。佐藤さんの丁寧なものづくりへの想いがひしひしと伝わってきました。
ガチャガチャのDP(ディスプレイポップ)でも、いきもんのこだわりがあります。図鑑の表紙のイメージで作っているとのことです 。
佐藤さんは「商品の価格帯でデザインのルールを決めています。最近では、生物系のフィギュアは、まるで生きているかのように見せるため、生息地に近い環境で撮影をします。周りに里山があるので近所で撮影したりします。海で撮らなくていけないときには、海に行きます」と教えてくれましたが、これ、ガチャガチャのDPの話です。
このような佐藤さんのこだわりが、研究者の方に好評で「よくぞ出してくれた」と喜ばれることが多いそうです。
佐藤さんは「いきもんのガチャガチャで未来の研究者や芸術家たちに気づきのチャンスを与えたいと思っています」と言います。
今回、佐藤さんのお話を聞いているなかで、印象的な言葉がありました。
「ガチャガチャは、生きるために必要なものではなく、極論、ゴミかもしれません。そうである以上、しっかりと作って捨てられないような商品を作っていきたいです」
20年以上ガチャガチャを作り続けてきたからこそ生まれた佐藤さんの言葉だと思いました。
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大きなヒキガエルは、アズマヒキガエル(茶)、アズマヒキガエル(黄)、アズマヒキガエル(赤)、アズマヒキガエル(黒)の4種類。1回500円
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