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連載

#11 「健康にいい」の落とし穴

ついに「睡眠」に参入、ポケモンスリープ ヘルスケアとゲームの相性

2023年7月20日よりリリース開始(日本国内)された『Pokémon Sleep(ポケモンスリープ)』。©2023 Pokémon. ©1995-2023 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc. Developed by SELECT BUTTON inc.
2023年7月20日よりリリース開始(日本国内)された『Pokémon Sleep(ポケモンスリープ)』。©2023 Pokémon. ©1995-2023 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc. Developed by SELECT BUTTON inc.

目次

配信がスタートし、大きな注目を集める『ポケモンスリープ』。睡眠データをもとにプレイするスマホアプリゲームで、「朝起きるのが楽しみになる睡眠ゲームアプリ」とうたわれています。同じポケモンを題材にしたゲームには、社会現象にもなった『ポケモンGO』がありますが、近年はこうしたアプリにゲームファンだけでなく、医学などの専門家も注目しています。なぜなのでしょうか。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)

睡眠改善でポケモンの寝顔が

7月20日、ポケモン社がAndroid/iOS用睡眠ゲームアプリ『ポケモンスリープ』の配信を開始しました。基本プレイは無料、アプリ内課金があり、「朝起きるのが楽しみになる睡眠ゲームアプリ」「睡眠リズムを整えよう!」とうたわれています。

ゲームタイトルにもあるように、「睡眠」をテーマにしたアプリです。アプリでは枕元にスマートフォンを置くだけで睡眠が計測され、睡眠データを記録。記録されるデータは「睡眠時間」「寝つくまでにかかった時間」「うとうと/すやすや/ぐっすりの時間」など多岐にわたります。

睡眠時間の「規則正しさ」と「長さ」がアプリ内で評価され、そのデータをもとに、その日の睡眠タイプを診断。「うとうと」「すやすや」「ぐっすり」「特徴なし」のどれかに分類されます。

ゲーム内では、同じような睡眠パターンを持つポケモンたちが、今回フィーチャーされているポケモン・カビゴンの周りに集まってきます。ポケモンの寝顔を調査して「寝顔図鑑」を完成させたり、集まってきたポケモンたちを仲間にしたりすることが目的のゲームです。

ユーザーがよく眠るほど、翌朝たくさんのポケモンが集まってくるというゲーム要素によって、ユーザーには自分の睡眠を改善しようとするインセンティブが働くことに。他にも、ポケモンならではの音楽が流れる睡眠導入BGM、睡眠グラフの浅いステージで起こしてくれるスマートアラームなどで、睡眠をサポートするとされます。

配信前から大きな注目を集めており、配信後は、チュートリアルで最初にプレゼントされる相棒のピカチュウと一緒に「1時間30分以上の睡眠」を取らないと先へ進めないことが「鬼仕様」「無理すぎて草」などとして、SNSでさらに反響を呼んでいました。

同じポケモンを題材にしたゲームには、社会現象にもなった『ポケモンGO』があります。ポケモンGOは位置情報を利用したゲームで、プレイには「歩行」「移動」が必要。そのため、健康にいい影響があるのではないかと、専門家からも注目されていました。

今回も、ヘルスケアのデータを利用するということで、その健康への影響に新たな関心が向いています。ではなぜ、専門家がポケモンGOやポケモンスリープに注目しているのでしょうか。
 

「運動」を「趣味」に変えたポケゴー

社会疫学という医学の分野では、健康は学歴や所得、職業、人とのつながり、さらには国や地域の政策や文化、景気動向や所得格差の影響を受けることがわかっています。つまり、運動をしていない人は運動をするための時間的、経済的、精神的な余裕がないとも言え、「運動をした方がいい」と勧めるだけでは効果に乏しいのです。

そこで近年、注目されているのが「ナッジ理論」。「ナッジ」とは提唱者であるリチャード・セイラーさんがノーベル経済学賞をとったことで有名になった「そっと後押しする」ことを意味する行動経済学の言葉です。社会疫学では「本人に自覚がなくてもいつの間にか健康になっている状態」を目指す取り組みのことを指します。

例えば「距離は短いが歩道がなく危険なので、車で移動せざるを得ない道」があるとします。そこに歩道を整備すれば「歩こう」というインセンティブになり、これをハード面でのナッジと呼びます。道路のようなインフラの形を変えてしまえば、どんなに運動が面倒くさくても、人は行動を変えざるを得ないのです。

ナッジのいいところは、学歴や所得などの社会経済状況に関係なく、みんなが自然と行動を変えて健康になることです。学歴や所得があってもなくても、その方が便利であれば、前述の道を歩くでしょう。とはいえ、道のようなインフラの例=ハード面のナッジは、個人レベルでは容易に生活に取り入れられません。

そこで近年、注目されるようになったのが、ソフト面のナッジ。その最たるものが、2016年頃から流行している『ポケモンGO』なのです。

ポケモンGOでは、前述したように、ゲームのプレイ要素の中に「歩行」「移動」が盛り込まれています。このゲームが楽しくて好きになればなるほど、人は自然と歩くようになり、健康にもいい影響があると言えます。これがソフト面のナッジの例です。

特にゲームは、「ゲーミフィケーション(ゲーム化)」という概念があるように、それ自体が楽しいので、健康にいい行動を習慣にする効果が大きいものです。「夜中までゲームをしてしまった」があり得るように「昨日はポケゴー(ポケモンGO)のために20kmも歩いた」があり得ます。

健康にいい行動につなげる上で、「ゲーム化」によって「趣味」になるというのは、とても効果的なことです。

ポケモンは睡眠にどう影響するか

『ポケモンスリープ』は、「運動」とともに大きく健康に関わる「睡眠」においても、ナッジになり得るポテンシャルがあります。

公式サイトには、筑波大学の国際統合睡眠医科学研究機構機のトップを務め、睡眠医学の専門家である柳沢正史さん監修の記事が並んでいます。アプリのローンチを記念し開催された「FUN SLEEP SUMMIT」にも柳沢さんが登壇。専門家もこのアプリに注目していることがわかります。

アプリの仕様で目標の就寝時間を守るようになること、またSNSには「寝ると決めたらスマホ触らなくなった」といった声もあり、より入眠しやすいルーティンが形成されることにもつながる可能性があります。

一方で、悩みも多い、人によってはセンシティブな睡眠という生活習慣において、ゲーム化がその質を本当に高めるかはまだわかりません。「XX時までに寝なければいけない」「スマホをいじらない」と考えれば考えるほど、寝つけなくなる、スマホが気になるといった経験は、誰しもあるはずです。

また、睡眠を計測するデバイスは数多くありますが、Apple Watchのような手首に装着するウェアラブル端末でも、その精度は頭にセンサーをつけて脳波を測定するタイプよりは劣ることが指摘されています。今回、ポケモンスリープは体から離れたスマホを使った測定ということで、その精度は必ずしも高くないことが前提になります。

さらに、睡眠のようなヘルスケアデータは、プライバシーに関わる個人情報でもあります。歩数や移動の履歴も同様で、非常に個人的な情報を使ったゲームであることは、意識しておく方がいいでしょう。適切に扱われているか、目を向ける必要があります。

とはいえ、あくまでゲームなので、楽しいという気持ちが一番です。ポケモンスリープがポケモンGOのように生活に取り入れられ、結果的に人々の健康に影響するか、今は見守っていくべきでしょう。

また、ポケモンGOとポケモンスリープの連動も発表されました。7月14日に発売されたスマホ用デバイス「Pokémon GO Plus +」と連動すると、アプリを起動せずに計測が可能になるほか、ピカチュウの声であらかじめ設定した寝る時間や起きる時間をお知らせしてくれるということです。

公式サイトには「街の中、夢の中、すべてが冒険の舞台になる」というキャッチコピーが。ヘルスケアビジネスとしてみたときに、「運動」「睡眠」という重要な生活習慣に容易くアプローチできる、ポケモンという圧倒的人気を持つコンテンツのある種の凄みを感じさせます。
 
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世の中で「健康にいい」と言われていることや、イメージされることは、よく考え直してみたり、正しい知識を持ったりすると、実は“そうでもない”ばかりか、かえって健康から遠のいてしまうことも――。身近なトピックをフカボリします。

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