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連載

#21 「健康にいい」の落とし穴

実は〝最も身近な医療機器〟のApple Watch 今できること

Appleが日本でも導入したApple Watchの心電図機能(ECG)の使用中画面(2021年)
Appleが日本でも導入したApple Watchの心電図機能(ECG)の使用中画面(2021年) 出典: 同社提供

目次

米Apple社は9月12日(現地時間)にApple Watchの新型「Apple Watch Series 9」「Apple Watch Ultra 2」を発表。今後、医療やヘルスケアに関連する機能のさらなる強化が見込まれます。実はこの数年、健康との結びつきを深め、日本でも医療機器として認証されるまでになったApple Watch。今、何ができて、何ができないのか、紹介します。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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最新のOSで可能になること

米Apple社は9月12日(現地時間)の新製品発表会で、Apple Watchの新ラインナップを発表しました。新型Apple Watchの発売に先駆け、「watchOS 10」を9月19日に提供開始することも予告されました。

watchOSはApple Watchのオペレーティングシステムで、iPhoneのiOSと連携するもの。このwatchOS 10では、Apple Watchの医療・ヘルスケア関連の機能がさらに強化されています。

特徴的なのが「心の健康」にフォーカスしているところ。「心の状態を知ることが、立ち直る力や健康状態の向上に。」とうたい、心の状態を記録する機能を提供。

自分の心の状態や日光の下で過ごした時間、睡眠、エクササイズ、心を落ち着かせたマインドフル時間など、「生活要因との関連性を、iPhoneまたはiPadのヘルスケアアプリでチェックできます」としています。

また、スマートデバイスとの関連がある「目の健康」にも注目。「子どもに屋外でもっと長い時間を過ごさせると、近視のリスクが軽減することも明らかになってきました」として、Apple Watchの環境光センサーにより、前述の「日光の下で過ごした時間」を測定できるように。

後述する服薬管理機能では、服用の記録がないときに、フォローアップのリマインダーを受け取ったり、リマインダーを重大な通知として設定できたり、といった機能が追加されました。

また、「サイクリング」や「ハイキング」では、各アクティビティのより詳細なデータを取得できるようになっています。

なぜ“医療機器”が普通に販売?

この数年間で、Apple Watchは医療やヘルスケアと結びつきを深めています。

2020年9月、Apple Watchの「不規則な心拍の通知」プログラムが、日本でも医療機器として承認されました。この認証により、2021年1月にApple Watchの「心電図(ECG)」アプリおよび同プログラムが国内でも利用可能になり、Apple Watchはある意味で“世界でもっとも身近な医療機器”になったのです。

「心電図」アプリでは、利用者がApple Watchのデジタルクラウンに30秒、指を当てることで心電図情報を取得できます。そして、その結果を「問題のない波形」「心房細動(不整脈の一種)など注意が必要な波形」「低・高心拍数」「判定不能」のいずれかに分類します。

心房細動は血栓を生じさせ、血管が詰まることで、脳梗塞などの病気の原因になることがある体の異常。「不規則な心拍の通知」プログラムでは、Apple Watchが測定している心拍リズムから、心房細動の兆候がある不規則な心拍を検出し、通知します。

本来、心電計のような医療機器は、検査だけでなく、販売にも免許や資格が必要なもの。一方、Apple Watchはアップルストアや家電量販店、ECサイトなどで普通に販売されています。Apple社はデバイスとプログラムを切り分け、プログラムについてのみ医療機器申請することによって、これを可能にしています。

Apple Watchは初期のシリーズから心拍数を測定できますが、それは主に、一般的なアクティビティ・トラッカーのようなエクササイズ目的でした。しかし、この機能がきっかけで心臓の病気が発見される例が続き、心拍リズムも測定できるように。

Apple社がスタンフォード大学と共同で起ち上げ、40万人が参加した研究「アップル・ハート・スタディ(Apple Heart Study)」を経て、世界で医療機器として認められるようになったのです。

一方、Apple Watchの医療関係の機能を利用するときに、専門家が介在しないことには注意も必要です。

早期発見につなげることで、深刻な状態になることを予防できる可能性がありますが、健康状態を自己判断してしまう危険性を指摘する専門家もいます。

診断などの医療行為ができるのは専門家だけ。身近ではあるものの、専門家なしには医療機器として成立しないというのが、現時点でのApple Watchの医療関係の機能の限界=できないことと言えるでしょう。あくまで補助的に、医療につなげる目的で使うのがよさそうです。
 

Apple Watchに今、できること

Apple Watchではさまざまなヘルスケアデータが測定できます。watchOS 7で追加された睡眠、歩数、移動距離やカロリーなどです。

watchOS 9ではさらに、心房細動と診断された利用者に対し、「心房細動履歴」機能を一部の地域に提供しています。心拍リズムの中に、心房細動の兆候が現れた場合、その頻度を大まかに確認できる機能です。

例えば、Apple Watchを7日間のうち5日間(1日12時間)以上装着している場合、月曜日に「この1週間のうちの4%、あなたの心拍は心房細動の兆候を示していました」などと通知が来る仕組みです。

「ヘルスケア」アプリでは、心房細動に影響を及ぼす可能性がある睡眠、アルコール摂取量、運動などの生活習慣関連因子を含む詳細な履歴も合わせて確認できるように。Apple Watchユーザーはこれらの情報が記載されたPDFをダウンロードし、医療者に共有できるようになっています。

また、watchOS 9からは、Apple Watchで服薬管理もできます。利用者はApple WatchとiPhoneで服薬リストを作成し、服用スケジュールとリマインダーを設定。薬の情報を「ヘルスケア」アプリで確認することによって、薬、ビタミン、サプリメントの管理と記録が可能になりました。

一部の国や地域に限定した機能ですが、利用者が「ヘルスケア」アプリに追加した薬の間で重大な相互作用を引き起こす可能性がある場合、通知を受け取ることができるようになりました。

Apple社によれば、「ヘルスケア」アプリにある健康とフィットネスのデータは、メディカルIDを除いてすべて暗号化されるそうです。個人情報の保護にも注意している、としています。

ヘルスケア関連では、watchOS 9から、「睡眠」アプリに「睡眠ステージ」が追加されました。アップルウォッチは加速度センサーと心拍数センサーからの信号を使い、利用者がレム睡眠、コア睡眠、深い睡眠の状態にあることを検知、記録します。

「ワークアウト」アプリにもアップデートがなされました。デジタルクラウンを回してワークアウト表示を切り替えたり、心拍数ゾーンの範囲を設定できるように。カスタムワークアウトでは「ペース」「パワー」「心拍数」「ケイデンス(自転車の回転数)」などの新しい要素が盛り込まれています。

このように、Apple Watchは今や、病気の心配を抱える高齢者から、トライアスロンなどの競技に打ち込むアスリートまでをターゲットにした、総合的な医療・ヘルスケア・ワークアウトのデバイスになっているのです。
 
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