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名物は「リンゴ潰し」 ムキムキ館長が爬虫類館で伝えたいこと

取り合いになるかと思いきや、交互にエサのリンゴをかじるリクガメたち
取り合いになるかと思いきや、交互にエサのリンゴをかじるリクガメたち 出典: 朝日新聞社

目次

動物たちに与えられるエサのリンゴは、館長がつぶします――。そんな投稿で注目が集まっている「深谷爬虫類館」(埼玉県深谷市)。生き物系YouTuberの鰐さん(32)が、今年春にオープンさせました。なぜそんなパフォーマンスを? 鰐さんに会いにいくと、「爬虫類館の展示を通して伝えたいことがある」と話します。(朝日新聞デジタル企画報道部・武田啓亮)

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リンゴを潰します 週一でスイカも

「では、行きますよ。ふっ!……」
日焼けした腕に力が入り、浮き出る血管。真っ赤なリンゴに指が食い込み、果汁があふれ出します。

館長の鰐さんが右手に力を込めると、鈍い音を立ててリンゴが砕けました。
館長の鰐さんが右手に力を込めると、鈍い音を立ててリンゴが砕けました。 出典: 朝日新聞社

リンゴが少し歪んだように見えた次の瞬間、「ボクッ」という鈍い音を立てて、リンゴが砕け散りました。
「トングでつかんで食べさせてあげて下さい」
鰐さんはそう言って笑います。砕いたリンゴを待っているのは、正面入り口の左右に設けられた囲いの中で、ひなたぼっこをしていた体長20~30センチほどのリクガメたち。

記者がリンゴが入ったプラスチックのカップを持っていると、こちらに気づいたのか、リクガメたちが懸命に手足を動かして、のしのしと近寄ってきます。
「甘い物が好きなので、喜んで食べると思いますよ」

エサの中でも特にリンゴはカメたちのお気に入りで、カップを持っていると近づいてくるそうです。
エサの中でも特にリンゴはカメたちのお気に入りで、カップを持っていると近づいてくるそうです。 出典: 朝日新聞社

深谷爬虫類館では、500円でカメたちの餌やりを体験できます。購入したリンゴは、館長の鰐さんが「サービス」でカメたちが食べやすい大きさに片手で砕いてくれるのです。
「週に一回は素手でスイカ割りもやっています」

週1回限定なのは、水分の多いスイカを頻繁に与えすぎると、カメたちがお腹を壊してしまうからだそうです。

カメ、ワニ、ヘビ、爬虫類たちを集めた夢の城

館内に入ると、水槽からじっとこちらを見つめる南米原産のワニ「メガネカイマン」や、まるで岩のように水底でじっとしている「ワニガメ」の姿が目を引きます。

館内の室温は約30度に設定されています。人間にとっては少し暑いですが、変温動物の爬虫類にとっては、ちょうど良い温度なのだといいます。

ワニガメは嚙む力が強く、人間の指程度は簡単に食いちぎってしまうそう。成長すると体重100キロほどになることもあるそうです。
ワニガメは嚙む力が強く、人間の指程度は簡単に食いちぎってしまうそう。成長すると体重100キロほどになることもあるそうです。 出典: 朝日新聞社

「子どもの頃、ゴジラやガメラなどの怪獣映画が大好きでした。ウルトラマンはそうでもなかったかな。最後には怪獣たちがやられてしまうので」
それが、鰐さんが爬虫類好きになるルーツだったと言います。

小学生の頃から生き物が大好きでした。
ただ、実家では爬虫類はもちろん犬や猫などのペットも禁止。

唯一両親から飼育の許可が下りたのが、小学生でも比較的世話が容易な魚類でした。
初めて飼育したのは、小学2年生の時、夏祭りの金魚すくいでとった「和金」でした。

「最後まで、自分の手で面倒を見ること」。それが、生き物を飼う上で両親と交わした約束だったといいます。

一度はあきらめた夢

生き物好きが高じて、大学では、水産学部に進んだ鰐さん。

「漠然と、生き物に関わる仕事がしたいと思っていました」

ただ、進路を決めるために情報収集をする過程で、その道は容易ではないと思い知らされたといいます。

動物園や水族館の飼育員は人気職種の上に、採用数も少ない狭き門で、募集が無い年もありました。
「ペットショップの店員なども考えましたが、非正規雇用であることも多く、店長クラスになっても月収は15万円ほどというケースもあると知りました」

これでは将来が見通せないと、警備会社に就職した鰐さん。転機となったのは、爬虫類好きの同僚との出会いでした。

それまで、「爬虫類を飼育するには、具体的な知識や細かなノウハウが必要で手間もかかる」と自分で飼うことをあきらめていました。

ライトの光で「ひなたぼっこ」をするカメたち。健康の維持に欠かせないそうです。
ライトの光で「ひなたぼっこ」をするカメたち。健康の維持に欠かせないそうです。 出典: 朝日新聞社

同僚から具体的な飼育方法や世話のコツを教わり、「これなら自分にもできる」と、長年の夢だったカメやヘビといった動物たちの飼育を始めました。

「爬虫類の魅力を発信したい」と感じるようになり、飼育している動物たちの様子を見てもらおうとユーチューブに動画投稿を始めました。
「あくまで動物たちが主役で、自分が人気者になろうとか、再生数を稼ごうというつもりはありませんでした」という鰐さん。

ところが、思いもよらず人気を呼び、再生数やチャンネル登録者が急増。動画の広告収入も得られるようになります。
「もしかしたら、『生き物に関わる仕事をする』という夢を叶えられるかもしれない」
鰐さんは、入社5年目で会社を辞め、生き物系ユーチューバーになる決心をしました。

元空手部の本領発揮

その後、だんだんと飼育する動物の数は増えていきました。
現在、その数は100種類以上。

爬虫類館をオープンしたのも、展示は二の次で、広い飼育場所を確保するためだといいます。
「動物たちに快適に過ごしてもらうのが一番の目的」と話します。

爬虫類館内には、カメたちのために小さな池も作りました。
爬虫類館内には、カメたちのために小さな池も作りました。 出典: 朝日新聞社

リンゴ潰しやスイカ割りの「サービス」を始めたのは、学生時代に打ち込んだ空手がきっかけでした。
「仲間内で、よくリンゴ潰しを披露していたんです。目の前でリンゴを潰したら、切ったリンゴを渡す餌やり体験よりも、お客さんに楽しんでもらえるんじゃないかと思いついて」

アウトレットモールが近いこともあり、爬虫類館には鰐さんのファンだけでなく、家族連れも多く訪れるそう。
「子どもたちが生き物とふれ合える場にしたい」と、常設展示に加え、イベントや体験教室なども企画していきたいと考えています。

楽しいだけじゃない、生き物と接する上で大切なこと

ひんやり、すべすべ、ごつごつ――。

珍しい生き物たちとのふれ合いは、楽しい経験になります。
一方で、鰐さんは「可愛い、面白いだけではすまない、生き物を飼う上での責任についても知ってほしい」と話します。

爬虫類の多くは、犬や猫といった一般的なペットよりも、温度や湿度の管理が重要だといいます。
生きた魚や冷凍したマウスといった、特別なエサが必要な種類もあります。

爬虫類館でも人気の一匹、ボールパイソン。エサは、主に冷凍したマウスだそうです。
爬虫類館でも人気の一匹、ボールパイソン。エサは、主に冷凍したマウスだそうです。 出典: 朝日新聞社

人間よりも長く生きるリクガメや、飼えなくなったからと野外に放ってしまうと生態系を破壊するワニガメのような生き物もいます。飼育に行政の許可が必要な種類もいます。

展示している生き物の中には、「飼育できなくなった」という飼い主から引き取った個体もいるそうです。
「ただ可愛がるだけではなく、命を扱うことの責任についても学んでほしいんです」と話しています。

深谷爬虫類館へのアクセスは秩父鉄道秩父本線のふかや花園駅から徒歩25分、車で10分。営業時間は10:00~17:00。月曜定休。入館料は人間用の飲み物とリクガメのエサがついて1時間2千円。幼稚園児以下は入場料無料。

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