連載
#161 ○○の世論
自転車のヘルメット努力義務化、着用してる?「かぶるべき」多数でも
世論調査を分析
今年度から、自転車を乗るときにはヘルメットをかぶる努力が義務づけられました。その法改正から3カ月。みなさんの街のながめは変わりましたか。世論調査の結果や、専門家の話などから、自転車とヘルメット着用について探りました。(朝日新聞記者・斎藤恭之)
4月1日からは、自転車利用者のヘルメット着用が「努力義務」になりました。
それまでは、自転車のヘルメット着用は子どもに対してだけの「努力義務」だったのですが、自転車に乗るすべての人がヘルメットをかぶることに努めなければならなくなりました。
一方で、電動キックボードをご存じですか。ハンドルと小さなタイヤがついた、地面をけって進む乗り物で、モーターを搭載して自走可能にしたものが電動キックボードです。
7月1日に改正道路交通法が施行され、その電動キックボードの法律上の扱いが変わりました。
それまでは原付きバイクと同じ扱いで、免許が必要。車道通行(歩道走行不可)などが義務づけられていましたが、「自転車並み」の位置づけとなりました。
最高速度が時速20キロを超えない車体は16歳以上であれば運転免許不要で、車道の左側や自転車レーンを走行できます。最高速度が時速6キロ以下に抑えられた車体は、自転車通行可の歩道も走行できます。
ヘルメット着用は、これまでの「義務」から「努力義務」に緩められました。自民党の議連などが電動キックボードの普及に向けて規制緩和を求めてきました。
街中ではまだ、電動キックボードはあまり見かけませんが、自転車に乗っている人はたくさんいます。
自転車政策を研究している木内秀行弁護士に、「自転車のヘルメット着用の努力義務化」について尋ねたところ、「努力義務では、(ヘルメットを)かぶらなくても刑事上の罰則はありません。しかし、自転車に乗っている人がヘルメットをかぶらずに事故にあったとき、不利益に判断され、民事上の損害賠償額が減額される可能性があります」とのことでした。
みなさん、自転車のヘルメット着用についてどう思っているのでしょうか。
朝日新聞社の4月の全国世論調査(電話)では、自転車のヘルメット着用について聞いています。
「あなたは、大人でも自転車に乗る時は、ヘルメットをかぶるべきだと思いますか。そうは思いませんか」と聞いたところ、「かぶるべきだ」が68%、「そうは思わない」が28%と多くの人が「かぶるべきだ」と思っていることがわかりました。
この調査では、「ふだん自転車に乗っていますか。乗っていませんか」も聞いており、「乗っている」が27%で、「乗っていない」が73%でした。
性別でみると、「乗っている」は男性が32%で、女性が23%と男性の方が高くなっています。
自転車に乗っている人と乗らない人で、ヘルメットを「かぶるべきだ」には違いがありました。乗っている人では「かぶるべきだ」が60%ですが、乗っていない人は71%と高くなっています。
また、年代別にみると「かぶるべきだ」は30代が最も低い50%ですが、年代が上がるにつれて高くなり、70歳以上では78%になります。
警察庁が今年2月から3月にかけて13都府県の駅周辺などで調べたところ、ヘルメットの着用率は4%でした。
4月以降、ヘルメット着用率は上がっているかもしれませんが、街を見渡せばロードバイクなどスポーツ自転車に乗っている人でヘルメットをかぶっている人は多いものの、日常生活で使うシティサイクルに乗っている人でヘルメットかぶっている人はあまり見かけません。
自転車のヘルメットを「かぶるべきだ」と思っている人は多いものの、実際にかぶっている人は少ないのが現状でしょうか。
警察庁のホームページには、2018~2022年の自転車乗用中の交通事故での死傷者数に占める死者数の割合(致死率)が出ています。それによると、ヘルメットを着用していなかった人の致死率は、着用していた人のおよそ倍の高さでした。
自転車政策に詳しい鈴木美緒・東海大学准教授はこう指摘しています。
「ヘルメットは死亡率を減らす効果はあるが、事故が減るわけではありません。死亡者をもっと減らすには、自転車の事故を根本的に減らさなくてはなりません。そのためには、歩行者、自転車、車が接触しないように、三つの走行空間の道路インフラをどうするか、行政も市民もしっかり考えていく必要があります」
1/77枚