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アフリカマイマイ、触ったらダメな理由 カタツムリに潜むリスクとは
大きなカタツムリを見かけても「絶対触ったらダメ!」――。海外在住というアカウントの注意喚起のSNS投稿が話題になりましたが、なぜ触ってはいけないのでしょうか? 専門家を取材すると、実は日本国内でも注意が必要だと分かりました。カタツムリと寄生虫の関係、感染症の予防法を取材しました。
「雨が降ったら出現するこの馬鹿でかいカタツムリ、絶対触ったらダメ!ゼッタイ!!なんですよ。 まじで死ぬよ」
こんなツイッターでの投稿に対し、「タイにもいる」「これ沖縄もです」など、多くのリプライが寄せられ話題になりました。
琉球大学大学院医学研究科の當眞弘准教授によると、話題になっていた大型のカタツムリは「アフリカマイマイ」と見られるそうです。
タイやシンガポールといった温かい地域に生息しており、日本でも沖縄を中心にした南西諸島や小笠原諸島で生息が確認されています。
農林水産省によると、アフリカマイマイは農作物を食害することから、日本では植物防疫法により検疫有害動植物に指定されています。
成長すると殻部分の直径は4~5㎝、高さ10㎝ほどにもなります。
通常、5月と10月に産卵のピークを迎え、1回当たり100~400個ほどの卵を産みます。
普段は日陰の湿った場所に身を隠し、主に夜に活動しますが、雨や曇りの日には昼間でも食事に出てくるそうです。
アフリカマイマイに限らず、子どもの頃に「カタツムリに触ったら手を洗いなさい」と言われた経験がある人も多いはず。そもそも、なぜ触ってはいけないのでしょうか。
當眞さんは「野生のカタツムリの仲間には、ある寄生虫がいる可能性があるからです」と話します。
當眞さんは1枚の写真を見せてくれました。「見た目は色鮮やかで、美しいと感じる人もいると思います」
顕微鏡で拡大された体長2~3㎝の糸状の体をよく見ると、白と赤の2つのラインがらせんを描いているのが透けて見えます。
當眞さんはこの独特の姿を「色の組み合わせは違いますが、まるで『床屋の看板』」と表現します。
寄生虫の正体は「広東住血線虫」。戦前に中国で発見された経緯から名前に「広東」と付いていますが、実際には東南アジアや太平洋諸島、北米地域など世界中に分布しているそうです。
ネズミの肺の血管をすみかにする寄生虫で、糞と共に排出された幼虫をカタツムリやナメクジなどの軟体動物が体内に取り込み、それをさらにネズミが食べるというサイクルを繰り返すことで生息域を広げます。淡水に住むエビやカエルの体内に潜んでいることもあるそうです。
「カタツムリやナメクジを触った後に手を洗わず食事を取るなどした場合、人間にも感染することがあります」
人間に感染した場合、血管を通じて脊髄や脳、視神経などに侵入し、平均で2週間ほどの潜伏期間を経た後、頭痛や発熱、吐き気などの症状が現れると言います。
体内に入った寄生虫の数が多いと症状が重くなる傾向があり、後遺症が残ったり、死に至ったりすることもあるそうです。
2018年には、生のナメクジを食べて広東住血線虫に感染したオーストラリアの男性が、8年間の闘病の末に亡くなったというニュースもありました。
當眞さんによると、日本では75例の感染例が確認されており、そのうち約7割がアフリカマイマイの生息地である沖縄で発生しているとのことです。
比較的軽症で済む事例が多いとされていますが、2000年には沖縄県で7歳の女児が死亡する事例もありました。
一方で、広東住血線虫はアフリカマイマイ以外のカタツムリにも寄生しており、「アフリカマイマイのいない本州や北海道などでも症例が確認されています。全国的にカタツムリなどにさわったあとには注意が必要です」と指摘します。
また、2000年には沖縄県内で、同時期に10人ほどの感染者が出たことがありましたが、當眞さんは「全員、カタツムリには触っていなかったのです」と言います。
當眞さんたち研究者グループで、感染者に共通する行動がないかを調べたところ、複数人が同じ飲食店で食事をしていたことを突き止めました。
「サラダなどの生野菜が原因になった可能性がある」と當眞さんは分析しています。
以前から、カタツムリやナメクジによって広東住血線虫に汚染された生野菜から感染するケースがあることは知られており、洗浄が不十分だった可能性があるということです。
「ボウルなどに貯めた水に野菜を浸して洗う方法だと、せっかく洗い流した寄生虫が再び野菜に付着してしまう可能性があります。野菜を生で食べる際には、蛇口から出る流水で表面をよく洗い流した方が、より安全だと思います」
厄介者に思われるアフリカマイマイと広東住血線虫ですが、彼らが日本にやってきたのは「人間の都合によるもの」だそうです。
元々、戦前に食用として日本に持ち込まれたアフリカマイマイ。広東住血線虫も、船の積み荷に紛れ込んだネズミなどによって日本に定着した経緯があるといいます。
寒さに弱いアフリカマイマイは本州などの地域では越冬できないため、生息域は温かい地域に限られていました。しかし今後、温暖化が進み、アフリカマイマイが持ち込まれれば、今まで確認されていなかった地域でも定着する可能性があるということです。
広東住血線虫の場合も、これまで本州などでは港のある沿岸部での報告が中心でした。今後、内陸部にまで定着が進む可能性もあり、注意が必要だと言います。
アフリカマイマイは国内の未発生地域へのまん延を防ぐために移動禁止の対象となっており、農林水産省では未発生地域への侵入がないかを把握するための「侵入調査」を続けています。同省の担当者は、「もしもアフリカマイマイを見かけた場合は素手で触ろうとせず、最寄りの農林水産省植物防疫所や都道府県の病害虫防除所に連絡して欲しい」と話しています。
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