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ゆううつな皿洗いが「くすっと」 ヤギが羊に…“泡”いかすスポンジ
ヤギがもこもこな羊に変身する――。そんな遊び心をもとにした食器用スポンジのデザインが話題になりました。産みの親はアイデアクリエイターのいしかわかずやさん(32)。スポンジの他にも、付箋や消しゴム、画びょうなど生活雑貨のアイデアをツイッターで投稿してきました。アイデアの原点を聞きました。(朝日新聞デジタル企画報道部・高室杏子)
5月下旬、「ひつじになる山羊のスポンジ考えました。」というコメントとともにツイッターに2枚の画像が投稿されました。
かわいいヤギのスポンジが、洗剤を泡立てるともこもこな羊に大変身。ツイートには「発想がかわいい」「どこで売っていますか?」といったコメントが寄せられ、17万近い「いいね」がついています。
スポンジのアイデアが浮かんだのは、いしかわさんが皿を洗おうとしたとき。「ちょっとでも楽しくなるような工夫ができないかな」と考えて、泡がついたスポンジを見ているうちに思いついたといいます。「泡がついてイメージが大きく変わるもの」を思案しているうちに「ヤギがもこもこになったらまるで羊だ」と気づいたそうです。
流し台を背景にしたスポンジの画像は、実は写真やいしかわさんが描いた絵をもとに作ったイメージ図で、現在は商品化に向けてスポンジ製造企業とやりとりを重ねているそうです。
これまでに100個以上のアイデアを投稿してきたいしかわさん。デザイナーとして大手IT企業に所属しながらアイデアクリエイターの活動を進めてきました。
掲示物がきらめくようにヘッド部分がトランプのダイヤのマークになっている画びょう。
広辞苑など分厚い本に貼ると繁華街の風景が広がる店の看板をモチーフにした付箋。
転がらないように四角く巻いたガムテープ。
使い続けると丸みのあるアザラシに変身する消しゴム――。
アイデアの投稿だけでなく、デザインコンペに参加したり、企業向けにアイデアの企画・提案や商品のコンサルティングをしたり、同じデザイナーやクリエーターを目指す人向けのオンラインコミュニティを開いたり……。大学1年生のときに学内のデザインコンテストで選ばれた経験を皮切りに、アイデアを柱にした活動を広げてきました。
発想の原点は何なのでしょうか。いしかわさんに尋ねると、「当たり前を疑うこと」だといいます。
「『当たり前を疑う』のは子どもの頃からあまり変わらないようです」と続けます。いしかわさんが母からよく聞くのは、小学校1年生のときの授業参観のエピソードです。
算数の時間、円や三角形、四角形などの図形が描かれた模造紙が黒板に貼り出され、先生が「直角はいくつかな?」とクラスに向けて尋ねました。
クラスメートたちが図形の直角をそれぞれ答えて、回答が落ち着いた頃。いしかわさんは「まだあと4つあるんじゃないですか」。着目したのは模造紙の4つの隅でした。
「先生からは『今はそこ問題じゃない』って言われたみたいですが、他の人が気づきにくい発想はこれからも大事にしたいです」
「ただ、便利と思えて『あったらいいな』というものを考えるのではなく、『なぜこの雑貨はこの形なのか』『なぜこの使い方なのか』とか疑問を持ってみる。ヤギのスポンジなら『なんでスポンジは四角なんだろう』とか。それが日常にくすっと笑える一瞬を与える雑貨のアイデアにつながるんだと思います」
いしかわさんが日々の生活のなかでアイデアをひらめいたときに、大事にしている習慣があります。
思い浮かんだアイデアをスマホのメモに書き留めることです。そして、その日のうちにイメージ画像を作るなど「形に残すことが大事」といいます。「思いついた瞬間は興奮もあって一番心がおどる。でも、時間が経つと冷めちゃうので。発想を大事にすることは形に残すことでもあります」
スポンジを含めて商品化を進めて、もうすぐ文字どおり形になるアイデアもあります。
オンラインコミュニティで自身のアイデアを発想する方法を紹介したり、アイデアを考えて商品化を目指すプロジェクトを立ち上げたりしている理由も「アイデアを発想することは楽しいこと。難しく考えてしまうのはちょっともったいなくて、できるだけそのハードルを下げたい」からだそうです。
日常でくすっと笑える一瞬をくれるアイデアを日々ひらめいて、紹介して、さらに実現していこうとしているいしかわさん。今後のアイデアにも注目です。
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