「つけるだけ」で健康に効果
アクティビティ・トラッカー(以下、トラッカー)とは、体に身につけると各種センサーが「運動量」を測定してくれるガジェット。メーカーや種類により、歩数や心拍数、消費カロリー、睡眠状態、ジョギングやサイクリングの走行距離などを測定することができます。
健康管理の役に立つだけでなく、スポーツ愛好家やアスリートの日々の運動のサポートにも活用されているものです。
この言葉になじみがなくても、Apple Watchのようなスマート・ウォッチには同様の機能が搭載されています。FitbitやGarminなどこの分野で有名なメーカーからは、安価なモデルでは、1万円台のものも販売されています。
例えば記者の週末の1日であれば、消費カロリーは基礎代謝では2028kcal、運動では729kcal。睡眠時間は6時間15分と短めでしたが、深い睡眠がそのうち1時間26分といつもより長めだった――といったことがわかります。
さて、こうしたトラッカーに「実際に健康になる効果があるか」は、近年、医学的な研究が進んでいます。そして、そのような39の研究をシステマチック・レビューとメタ分析した研究(n=163992)結果(※1)が2022年に発表され、そこではトラッカーを「つけるだけ」で人はより体を動かすようになり、健康に効果があると示されたのです。
The Lancet Digital Healthに掲載されたこの研究によれば、トラッカーは身体活動量、体組成、フィットネスレベルを改善しました。これは1日1800歩の歩数の増加、40分以上のウォーキング時間の増加、1kgの体重の減少に相当するということです。
他にも、中強度から高強度の運動の時間が6分増加した他、最大酸素摂取量の上昇、収縮期(上の)血圧の低下がわかりました。ただし、拡張期(下の)血圧、コレステロール、HbA1c、空腹時の血糖値などには、大きな変化がなかったということです。
歩数の増加を分析すると、効果は4〜6カ月後まで多い状態が続き、効果は徐々に小さくなったものの、最大で4年後まで増加していました。
この研究結果から、研究者たちは「活動量計は、性別や持病の有無に関わりなく、さまざまな年齢の人たちの運動量を増やし、体重を減らすために有効」としています。
※1. Effectiveness of wearable activity trackers to increase physical activity and improve health: a systematic review of systematic reviews and meta-analyses - Lancet Digit Health. 2022 Aug;4(8):e615-e626.
古くて新しい「レコーディング」
これは「食事の内容をノートに記録していく」というシンプルな方法。日本でも著名人が取り組んだことで、2000年代から特に注目されています。そして、このレコーディングダイエット法に効果があることは、医学的にも検証されているのです。
例えばアメリカ肥満学会の2019年の調査(※2)では、142人がレコーディングダイエットに参加。その結果、「自分の食べ物を少なくとも1日2回記録した人は、1回しか記録しなかった人よりも、より多くの体重を減らすことに成功」し、さらに「1日に3回記録した人は、最も成功率が高かった」ことがわかっています。
レコーディングダイエットのポイントは、まず記録することで、客観的に自分の生活習慣を確認できること、そして「なぜ食べたのか」「食べて満足か/後悔していないか」など、自分自身に向き合うことができること。
これは運動についても同様であるとみられ、トラッカーでも自分の運動の状況を客観的に確認でき、自分自身に向き合える、そのためトラッカーに健康への効果があると考えることができます。
一方、ネックになるのが「レコーディング」という行為そのものです。前述の調査では、記録のための時間は当初1日あたり平均23分で、6カ月目になると14.6分に短縮されたということですが、それでも1日15分は正直に言って面倒。
そこでもトラッカーは有利で、ほとんどの場合、トラッカーはアプリと連動しており、自動的にアプリに「レコーディング」されます。同期さえしていれば、放っておいても記録されていくのです。
レコーディングダイエットも、今は食事管理アプリなども種類が豊富で、食事の写真を撮ってアップするだけで、メニューや成分、カロリーが自動入力されるなど、ずいぶん手間が少なくなっています。
今はトラッカーなど、身近なテクノロジーの力を借りることで、健康に近づきやすい時代であるとも言えそうです。
※2. Log Often, Lose More: Electronic Dietary Self-Monitoring for Weight Loss - Obesity (Silver Spring). 2019 Mar;27(3):380-384.

【連載】「健康にいい」の落とし穴
世の中で「健康にいい」と言われていることや、イメージされることは、よく考え直してみたり、正しい知識を持ったりすると、実は“そうでもない”ばかりか、かえって健康から遠のいてしまうことも――。身近なトピックをフカボリします。