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テレビ「80年代フォーマット」リバイバルの理由 〝懐古意識〟背景

ビートたけしさん=2017年9月19日撮影
ビートたけしさん=2017年9月19日撮影 出典: 朝日新聞社

目次

4月から『風雲!たけし城』(Amazon Prime Video)の配信が開始され、『オールナイトフジコ』(フジテレビ系)が放送されるなど、1980年代の番組の復活が目立っている。世代ギャップをテーマとするクイズ番組も当時を想起させる風潮だ。なぜ今、1980年代なのか。その背景を考える。(ライター・鈴木旭)
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『たけし城』はネット配信での復活

まず取り上げたいのが、前月21日から全世界で順次配信されているAmazon Prime Videoのオリジナル番組『風雲!たけし城』だ。

昭和版の『痛快なりゆき番組 風雲!たけし城』(TBS系)は『SASUKE』(同)や『VS魂』(フジテレビ系)など、スポーツおよびゲームバラエティーの原点とも言える番組である。1986年~1989年にかけてレギュラー放送されていたもので、100人以上の一般参加者が、難攻不落のたけし城を攻め落とそうと、体を張って様々な“ゲーム”に挑戦する。

たけし城の城主はビートたけし、家老は初期に石倉三郎、1987年から東国原英夫(当時はそのまんま東)、攻撃隊長は俳優の谷隼人が務めた。戦場レポーターを柳沢慎吾、稲川淳二らが担当し、挑戦者を落とす敵役としてたけし軍団、プロレスラー、俳優、元プロ野球選手、歌手など、幅広いジャンルのタレントが活躍した。

現在配信されている令和版では、城主のビートたけしのほか新キャラクター「AI殿」をものまねタレントの松村邦洋が務め、家老をバナナマンの2人が担当。攻撃隊長を谷隼人と声優・木村昴の2人が受け持ち、新設された3つの城主には、くりぃむしちゅー・上田晋也、渡辺直美、市川猿之助が抜擢されている。

レポーターや敵役も芸人や元アスリートなど、様々なタレントが登場。飛び石を使って向こう岸まで渡る「竜神池」、たくさん部屋のある館を抜け出す「悪魔の館」といった往年の名物ゲームだけでなく、今回新設された大規模なゲームも見られ、まさにワールドワイドな『たけし城』となっている。

昭和版の『たけし城』には、放送前の企画段階から「スーパーマリオみたいなゲーム性を取り入れよう」というアイデアがあったという。ファミコンゲームの要素を取り入れたフォーマットは、海外でも人気を博し現地版も制作された。

レギュラー放送終了が34年前。中年の視聴者は昭和版との違いを楽しめ、若い世代はお笑い色の強いゲームバラエティーを新鮮に感じることができるのだろう。しかも、ネット配信での復活だ。国内外の幅広い世代の視聴者を喜ばせるには、ちょうど良い時期だったのかもしれない。
 

初回が微妙だった『オールナイトフジコ』

もう一つ、先月14日深夜に伝説的な番組が復活した。元テレビ東京プロデューサー・佐久間宜行、オズワルド・伊藤俊介、さらば青春の光・森田哲矢がメインMCを務める生放送番組『オールナイトフジコ』(フジテレビ系)である。

同番組のベースにあるのは、1983年~1991年まで放送された深夜番組『オールナイトフジ』(同)だ。片岡鶴太郎、デビュー間もなくのとんねるずをはじめ、“オールナイターズ”と称された女子大生たちがスタジオに登場した。そんな“ギラギラした”空気感を、今の時代に呼び起こそうという狙いがあったのだろうか。

基本的なパッケージは、令和版でも変わっておらず、だからこそ時代の変化を感じざるを得なかった。MCは勢いのある3人。峯岸みなみ、村重杏奈ら女性タレントがそのアシスタント的な役割を担う。そして、女子大生15人による“フジコーズ”を押し出す演出。こうした構図にSNSでは「時代錯誤」など手厳しい意見も目立った。

生放送ゆえのトラブルも見られた。QRコードを読み取ることで女子大生のLINEアカウント宛にメッセージを送ることができる視聴者参加型のコーナーは、「読んじゃいけないLINEを整理している」という理由から企画が中断。最後まで紹介されることはなかった。

また前半で、元『オールナイトフジ』のディレクターで現フジテレビ社長の港浩一氏、総合プロデューサーの秋元康氏らが「フジコネシート」と呼ばれるVIP席に座る演出にもやや違和感を覚えた。

そもそも『オールナイトフジ』は若者向けの番組だったはずだ。当時プロデューサーを務めた石田弘氏によると、ファッション・音楽・風俗・グラビアなど幅広い情報を取り扱った若い男性向け週刊誌『平凡パンチ』(平凡出版・現マガジンハウス)を映像化しようと『リブ・ヤング!』(フジテレビ・1972年~1975年終了)を制作。これを母体として『オールナイトフジ』がスタートしている。<2020年1月30日、2月20日に放送された『きくちから』(フジテレビNEXT)より>

テレビ制作の内側まで見せるフジテレビのスタンスを引き継いだのかもしれないが、若者をターゲットとした番組であるならば、権力者たる大人たちは姿を見せないほうが良かったのではないだろうか。

とはいえ、翌週から企画は総入れ替え。プロ・素人問わず参加できるコーナー「生放送で何かしたい!誰でも飛び入り参加大歓迎」やフジコーズのメンバーによる中継「フジコが突撃中継!あなたの夢叶えに行きます」(第3回から「夢がモリモリ フジコくじ」に改題)が始まるなど、生放送ならではの良さが出始めている。

このような、視聴者の反応を受けた改善のスピードの速さは、今の時代らしいとも言える。次回以降も、生き生きとした企画が決行されることに期待したい。
 

原点にある『クイズ!年の差なんて』

この2年で、世代ギャップを軸とするクイズ企画が多数放送されている点も見逃せない。

『クイズプレゼンバラエティー Qさま!!』(テレビ朝日系)の「昭和と令和!こんなに変わった『学校の教育』SP!」、『東大王』(TBS系)の「東大王 vs 5世代最強芸能人!! 昭和・平成・令和から超難問SP」、『潜在能力テスト』(フジテレビ系)の「昭和・平成・令和100年で激変SP」など、各局が軒並み似た企画を組んでいるのだ。

こうした企画自体は以前からあったが、日本テレビに眠っていたお宝映像を配信するTVerの『神回だけ見せます』、昨年8月に放送された『ダウンタウンvsZ世代 ヤバイ昭和あり?なし?』(日本テレビ系)の好評を受けて拍車が掛かったと考えられる。

若者と中年の常識の違いをテーマとするクイズ番組と言えば、真っ先に思い浮かぶのが『クイズ!年の差なんて』(フジテレビ系・1988年~1994年終了)だ。『おっちゃんVSギャル』(ABCテレビ・1986年~2000年終了)をベースに制作されたもので、2つの番組で司会を務めた落語家・桂三枝(現・文枝)のアイデアが土台になっている。

1980年代から漫才ブームや女子大生ブームが巻き起こり、松田聖子、中森明菜、小泉今日子、シブがき隊といったトップアイドル、井森美幸、森口博子、山瀬まみなどバラエティーで活躍するアイドル“バラドル”も誕生。1984年には「新語・流行語大賞」も創設されている。好景気の空気感、ポップな若者文化がテレビを席巻した時代に『クイズ!年の差なんて』が登場したのは非常に合点がいく。

ダウンタウンのコンビ結成は1982年。そんな2人が中年の象徴として若者と向き合う構造そのものが、視聴者には新鮮に映ったのかもしれない。今年2月には『ダウンタウンvsZ世代~』の第2弾が放送され、3月から『神回だけ見せます』シーズン3の配信もスタートした。

こうした流れを受け、世代ギャップをテーマとするクイズ企画はこれからも尾を引くことが想像される。
 

背景にある「懐古意識」と“息苦しさ”

なぜ今のバラエティーに1980年代が想起されるのだろうか。前述の『たけし城』の復活について、家老を務めた東国原はこう語っている。

「『たけし城』が今の時代に配信されるのは懐古意識だと思います。お笑い番組のフォーマットって80年代に新しくできて、そこから変わってない。日本テレビの『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』系、フジテレビの『オレたちひょうきん族』系、TBSの『たけし城』系。

それまではドリフ(筆者注:ザ・ドリフターズ)と萩本欽一さんのフォーマットしかなかった。それを変えたのがたけしさんで、90年~00年代は基本的にアレンジして作っている。その原点が懐かしくなってるんじゃないのかな。逆に言えば、結局そのフォーマットを超えられなかったのかもしれません」(『週刊プレイボーイ2023年5月15日号』(集英社)より)

すべてにおいて当てはまるかは別として、1970年代までの番組が土台となり、1980年前後にアイドルや若手漫才師たちによる新たな時代が訪れ、その後今につながるバラエティーのフォーマットが形成されていったのはたしかだ。

そして、1980年代に若者だった視聴者が中年期に入り、今の若い世代にも通じる面白さを共有できるのがこのタイミングだったのかもしれない。また、コンプライアンス重視やコロナ禍の息苦しさを経て、テレビが勢いを取り戻すため結果的に原点をなぞることになったと見ることもできる。

現在の風潮が単純なリバイバルではなく、今後新たなコンテンツを生む転換期であることを願うばかりだ。
 

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