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「TVer」中の人が語る〝変化〟「silent」大ヒットと独自性

株式会社TVerのサービス事業本部に在籍する渡辺実さん。
株式会社TVerのサービス事業本部に在籍する渡辺実さん。 出典: 朝日新聞社

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昨年、ドラマ『silent』(フジテレビ系)が驚異的な再生数を記録したことでも話題となった民放公式の無料動画配信サービス「TVer」。2019年からネットに接続したコネクテッドTVに対応、昨年からはリアルタイム配信がスタートするなど、年々進化を遂げている。YouTubeや有料の動画配信サービスが支持される中、TVerはどのように差別化を図っているのか。コンテンツに精通する担当者に、その歩みと将来像を聞いた。(ライター・鈴木旭)
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関係者の意識とコロナ禍の変化

<話を聞いたのは、テレビ朝日の報道・バラエティー番組の制作に携わり、現在株式会社TVerのサービス事業本部に在籍する渡辺実さんです。>

――2015年から始まったTVerは、昨年3月に月間動画再生数が2億5千万回を超えるなど勢いを増しているように感じます。この要因は何だと思われますか?

スタート当初、番組が50本ぐらいだったところからどんどん増えて、今はレギュラーで650番組ぐらい配信しています。1年で3000番組超を配信してますから、コンテンツが増えていったのが最大の要因だと思いますね。

あと、昔は「テレビはテレビで見るものだ」「TVerで見たら、視聴率が下がる」って言う放送局の方もいたんです。でも、そこから今は「もう一度見たい方はTVerで」とおっしゃってくれてるぐらい、番組の制作者や出演者が「視聴率も大事だけど、TVerで見てもらうのも大事」となってきたのが大きいでしょうね。

――徐々にテレビ関係者の意識の変化も起きてきたと。ここ2年でも違いを感じますか?

2年前は、若干ながらTVerにネガティブな方もいました。「テレビで見てほしい」「テレビの邪魔をする」って声は、どうしても残っていたので。それがもう今はなくなったという感じですね。

TVerの良さって、ゴールデンタイムも深夜番組も差がないところだと思うんです。 「深夜番組でも頑張ったらゴールデンに勝てる」ってことになると、やっぱり制作陣も頑張るし。地方の番組に出演してるタレントさんは、「TVerで見た」って声が多くなって全国にファンができたりもします。その流れには抗えないってところもあるでしょうね。

あとは、2020年7月に前身の会社から「株式会社TVer」と社名が変わった影響もあると思います。それまでは海賊版や不正コピーの防止・対策を目的に立ち上がった局の事業会社として「局の方針通りにやる」というスタンスだったんですが、「自分たちで考えてキャンペーンをやっていこう」とか、我々発信で放送局を巻き込んで「こんな特集やりましょう」となったのが、2020年からなんですよね。

ちょうどコロナのど真ん中で、東京都から「お家時間を過ごすならTVerで」みたいに言ってもらえたのも追い風にはなったと思います。

『silent』がモンスター級になった理由

――1クールごとの「再生数ランキング」を拝見すると、圧倒的にドラマが上位です。単純にドラマを見る方が多いという以外にどんな理由があるのでしょうか?

先ほど言ったように、今は全部で650番組ぐらい配信していて、そのうちドラマは40番組ぐらいなんです。すると、分子と分母の関係でどうしてもドラマに寄ってしまう。

バラエティーを見てる人の合計とドラマを見てる人の合計を比べたら、そんなに変わらないんですよ。バラエティーは「クイズ」「旅もの」「グルメ」「お笑い」など多岐に渡っていて600番組ぐらいあるから分散されちゃうってことでしょうね。

――視聴率の低い地上波の番組がTVerで高い再生数を記録する、という現象も起きています。

時間に拘束されるライフスタイルは、もう世の中の流れとは合ってないじゃないですか。みんな好きな時間に好きなものを見る。TVerだと倍速再生ができるから、ちょっとコンパクトに見られるところもあって支持されてるんだと思います。

オリンピックがあるとか、生で見たい一大イベントがあったりしない限りは、ドラマでもアニメでも好きな時間に見たいですよね。今はアーカイブが1週間とか、ものによっては2~3週間残ってるものもありますし。テレビの番組編成に変化がある端境期だと、ドラマだけで200本ぐらいドーンッとTVerに出てきたりもしますから。

――TVerの再生数が増えると、地上波の視聴率が上がる結果も出てきていますか?

昨年話題になった『silent』については、フジテレビがそうなったと言ってます (笑)。厳密に「この番組がTVerの影響で伸びた」っていうのは証明できないと思うんですが、TVerですごく盛り上がったのはたしかですね。

通常、ドラマの視聴率は1話が一番良くて、2話、3話、4話とだんだん落ちていって、最後にちょっと盛り上がる。けど、『silent』は放送の真ん中で「毎週、TVerの新記録を出してるぞ」ってニュースになった。その頃に地上波の視聴率も上がり始めたんです。

昨年からTVerはゴールデン・プライムタイムを中心とした番組のリアルタイム配信も始めたんですけど、そこでも『silent』はずば抜けて見られた。「夜10時に家には帰れないけどスマホで見られる」「リビングに親がいるから自室で見たい」って人もいるでしょうし、「絶対泣くドラマだから一人で見たい」っていう理由もあるようです。

それから、あれだけブームになったドラマなので「ちょっとでも早く見たい」「何曜、何時が待ち遠しくなる」みたいなこともあったのかもしれない。いろんな説がありながらも、とにかく段違いに再生された。本当にバケモノでしたね、あのドラマは。

無料・クオリティー・窓口のメリット

――TVerの強み、サブスクとの違いについてはどう考えていますか?

TVerは、圧倒的な番組量、配信数を「絶対無料で見られる」ってところが最大の武器であり、最大の売りですよね。

Hulu、Amazonプライム、Netflix、Paraviとかに全部入ってるような人は、例えば小遣いが減っていくと、どれかを止めなきゃいけない。

一方のTVerは「無料です」と宣言をしてるから、「朝から晩まで気兼ねなく楽しんでください」ってことができる。

「このサブスクに入らなきゃ」とか「毎月お金を払うのが嫌だ」みたいな人も、TVerで配信されていればその期間はタダで見られますし。

あとは、すでにチャンネルの垣根を超えてるところがありますよね。もはやネットの世界って「何チャンネルの放送なのか」って意識してないと思うんです。

だから、将来的にはいろんなところと協力して、例えば「フジテレビのバラエティーをTBSで撮る」みたいなコラボだったり、FODのお宝コンテンツをTVerでちょっとだけ配信して「続きはフジテレビで見てね」みたいなことができたりすると面白いなと思います。

――TVerはテレビ制作の技術が生かされているからこそ、YouTube動画を見る体験とは違うとも感じます。

我々の錦の御旗である「すべてのコンテンツはテレビクオリティーである」というところは、絶対にブレないようにしようというのがあります。テレビは、放送法に則っていろんなルールの中でやってますから、「我々の番組は絶対に安心です」ってところは一つの大きなセールスポイントで。プラットフォームとして健全であるというところですよね。

ただ、やっぱり時代もありますよね。「テレビがつまらなくなったからYouTubeだ」って風潮があったけど、「でも、最近YouTuber儲からないらしいぞ」みたいな話になってくると、今度はテレビが盛り上がってきたりもしますから。

――今後、TVerとサブスクとの関係性は変わっていくと思いますか?

「ユーザーにとって何が便利なのか」っていうのは、それぞれ共有して議論もしているところです。例えば「テレビのポータルになる」って方向もあり得ますよね。

テレビ番組は、1回TVerで検索して「1stシーズンはTVerで、2ndシーズンはHuluで見てね」とか「こっちは有料。でも、ここは全部見られる」とか、窓口みたいな役割を担うと便利かもしれない。今後そのあたりの連携がもっとうまくいくといいなと思います。

「24時間以上使える」コンテンツ

――最近では、TVerのオリジナル番組『TVerで学ぶ!最強の時間割』や『褒めゴロ試合』も登場しています。今後TVer独自の番組は増加していくのでしょうか?

「TVerがテレビから完全に独立しよう」という考えはまったくないですね。そこまで会社として大きくもないですし、やっぱりテレビの影響力は大きくて深夜番組でも「TVerで見てね」と言うだけで、けっこうな宣伝になって再生してもらえる。

これがTVerオリジナルだと、なかなか気付いてもらえないんです。だから、TVerで制作する番組は、比較的慎重に丁寧に。だけど、「何も作ってない」というのは寂しいので、個人的には年に何回かはド派手なオリジナルを作りたいと思っています。

それと、“テレビの企画から外れたもの”をやってみれば面白いんじゃないかというのもありますね。どこの局も、必ず年に何回か企画募集してるんです。ドラマだったりバラエティーだったり、どこも編成部に大量の企画書が積まれてる。そこで不採用になったものをTVerでやって、面白かったら地上波で制作すればいいのになって。

テレビって24時間365日以上枠がないじゃないですか。うちは24時間以上使えますから、試してみることで生まれる番組もあるんじゃないかと思ってますね。

――その点はテレビにはないTVer独自のメリットと言えそうです。

薄く、広く、伸ばすことが無限にできますからね。今後コンテンツを作って配信する、並べる、みたいなところで言うと、テレビってそれこそ1日24時間に押し込めるために何十倍も取材してるものが、お蔵入りになってるわけじゃないですか。「それ絶対見たい人いるよ」って思うんです。

「それが価値を生むんじゃない?」「ショート動画がある一方で、ノーカット版もぜんぜんありだよね」って話はずっとテレビ局でもしていて。全ドラマのディレクターズカット版があってもいいんじゃないかと思ってますね。

将来像は「毎日触ってもらえるアプリ」

――TVerの立ち上げ時は、ここまで広がりを見せると想像されていましたか?

想像はしてないかもしれないけど、目指してはいましたよね。現在のユーザー数(2023年1月、月間ユニークブラウザ数が2700万を突破)とかスタッフの意識が変わるみたいな確証があったかはわかりませんが、5年計画でプランを立てるので目標としてあった数字ではあります。

テレビクオリティーが認められたって部分もあるでしょうし、何か一つ大ヒットすると、そこにワーッと集まったお客さんが意外と残ってくれることもわかってきた。とくに去年秋の『silent』の大ホームランがあって、「さすがに今年1月のクールは『silent』より凹むよね」と思ってたら、今のほうが視聴者の数は増えていたりもするんです。

『silent』で初めましてのお客さんが、「1月クールはこっちのドラマを見よう」 「こういうバラエティーもあるんだ」となって、少しずつでも残ってもらえてるってことでしょうね。あと、最初は見てなかったのに「ネットで盛り上がってるらしい」ってことでうちにくる人もいますから。それで、『silent』は4話が一番再生されたんですよね。

――ネット環境らしい動きですね。今後TVerはどんな将来像を目指していますか?

近い未来に実現したいのは、TVerを毎日触るアプリにすること。まだまだTVerは 「あの番組を見逃したから見なきゃ」とか「今話題の番組を配信してるから見よう」って感じなんです。何となく触って「これ面白そうだな」っていうのがない。

目的の番組を見て終わりってユーザーが圧倒的に多いので、フラっときて見てもらえるサービスにしたいとは思ってますね。というのも、テレビってまずつけて1回全部ザッピングするじゃないですか。そうならないとダメだろうと思うんです。

ただ、その突破口がぜんぜんわからない。うわ言のように口にしてるのは、「ニュースとか占いじゃないか」ってこと。ポータルサイトの「Yahoo! JAPAN」って、みんな何もなくてもとりあえずトップページにいくから、そういうことなんじゃないかと(笑)。いずれにしろ、「決め手はこれだ」ってことにはなってないですね。

もう一つ、テレビから離れた人を引き戻す必要があるなとも感じています。地上波のテレビとTVerのユーザーだと、明らかにTVerのほうが若い視聴者は多い。だから、「テレビ離れじゃなく、テレビ受像機離れ」と言ってるぐらいですけど、一方でやっぱりテレビ離れも着々と起きてはいるんですよね。

この状況を打開するために「YouTubeを含めたSNSをうまく使う」みたいなことも今後考えていかなきゃなと思ってます。

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