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「娘の教科書に掲載される」夢かなえたイラストレーターに8万いいね

「娘の使う教科書に自分の描いたイラストが掲載されるということが叶いました!」とXに投稿したフジワラヨシトさん(@fuji25_2501)
「娘の使う教科書に自分の描いたイラストが掲載されるということが叶いました!」とXに投稿したフジワラヨシトさん(@fuji25_2501)

目次

入学式に娘がもらった新品の教科書。開くとそこにはーー。「夢の一つがかないました」というイラストレーターの投稿が話題です。投稿者に話を聞きました。

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「親御さんの仕事に触れる特別な機会」

話題になったのは、イラストレーター、フジワラヨシトさん(@fuji25_2501)がXに投稿した画像です。

《今日は次女の入学式。
イラストレーターになってからの夢のひとつ。
娘の使う教科書に自分の描いたイラストが掲載されるということが叶いました!
なんか不思議な気分です!》

添付された画像には、新しい教科書を開いて見せながら、カメラを見つめる娘の姿がありました。「あったよ!」と喜ぶ表情まで見えるようです。

この投稿には、「それは胸熱ですね!!」「親御さんの仕事に触れる特別な機会になりましたね」「子どもに、夢は頑張れば叶うんだよ、とも教えられる。素晴らしいことだと思います!」などのコメントとともに、8万超のいいねがつきました。

「1枚10円で似顔絵を描きます」

投稿したのは神戸市在住のイラストレーターフジワラヨシトさん(34歳)です。

過去に絵をやめ、悩んできたフジワラさんにとって、娘の入学式での一幕は、「いつか、自分の子に自慢できる、誇れる仕事がしたい」という目標が達成された大切な瞬間でした。


絵は子どもの頃から大好きで、高校もデザイン学科に進学、大学は大阪芸術大学で油絵を専攻しました。

しかし、大学に入ると「問題を自ら提起する」ことが求められ、これまでとは異なる絵への向き合い方に悩みました。「自分は何がしたかったんだろう」と目標を見失い、2年半で大学を中退。実家に帰り、無気力に陥りながらも、何か見つけたいともがく日々でした。

写真はイメージです=Getty Images
写真はイメージです=Getty Images

働く必要に駆られて「とりあえず、絵は描けるから」と近所のアウトレットにある広場で「1枚10円で似顔絵を描きます」と掲げました。

「ありがとう」。似顔絵に多くの人が喜んで、10円に上乗せしてくれました。「自分の絵が仕事になるんだ」と初めて実感しました。

その後、ヒッチハイクで旅しながら、各地で似顔絵を描く経験を積み、ユニバーサルスタジオジャパンなどで絵を描く「似顔絵師」として、5年で8000人超を描きました。

「自分がするべき仕事なんだろうか」

しかし、再び絵筆を手放します。

イラストレーターの女性との間に第1子を授かり、「より安定した収入を得たい」と、就職することにしたからです。それから5年間は絵を描かず、就職した日本酒を扱う会社で、営業などに邁進しました。

仕事の合間にも、酒蔵に通う努力を続けましたが、知識が増えても売り上げには結びつかず、むしろ「今、話題ですよ」とごり押しした方が売れてしまうことに、悩んでいました。「これが自分がするべき仕事なんだろうか」

「自分の道はこれしかない」

悶々としていた時、妻のために買ったiPadで、久しぶりに絵を描くと、仕事のつらさから逃れるように、深夜まで絵に没頭するようになりました。描いた絵はSNSで投稿する「趣味」にとどめていました。

そんなある日、衝撃的なニュースを見ます。京都アニメーション放火殺人事件。京アニ作品は、フジワラさんの青春時代とともにありました。

「まだまだ創作したいと熱望していた人たちが突然、その道を絶たれた」ことに、強い憤りを感じました。

「今残っている人間が、創作の道を絶とうとする力にあらがわなければいけない」「自分の道はこれしかない」。決心がつきました。

「明日が少しでもいいものになるように」

妻が第2子の出産後、新しく仕事を始めたタイミングで、フジワラさんはイラストレーターとして独立開業しました。

イラストレーターとして生きていくためには、需要がある絵を描けなければいけません。一方で、「かわいい」だけの絵や、多くの人が描く「美少女」は、「自分が描く必要があるのかな」と疑問でした。

アメリカの市民生活を描いた画家、ノーマン・ロックウェルのように、人々の「ストーリー」を感じる絵にひかれました。

「見た人の明日が少しでもいいものになるように」と掲げ、絵の中の一人一人のストーリーを感じるよう、緻密に書き込んだフジワラさんの絵は、大企業の目にも留まり、徐々に仕事が増えていきました。

教材の表紙なども手がけるようになり、「いつか子どもたちが使う教科書に、自分の絵が載ったらいいな」と考えるようになりました。

フジワラヨシトさん作「どくしょのじかん」(2022)
フジワラヨシトさん作「どくしょのじかん」(2022)

重なった幸運

しかし、狙ってできることではありません。

教科書の改訂は原則4年に1度。そのタイミングで挿絵の仕事を得られたとしても、学校がある市町村や都道府県の教育委員会がその教科書を採択しなければ、娘の手には渡りません。

幸運なことに、独立開業した翌年に出版社から声がかかり、教科書の挿絵を依頼されます。算数の教科書に30カットほど描きました。

文部科学省の目録によると、小学校1年生の算数の教科書を発行したのは、その会社も含めて6社。フジワラさんの娘が通っている神戸市の教育委員会は、どれを選ぶのかーー。発表を、ウェブサイトで結果を見たフジワラさんは歓声をあげました。

神戸市の小学校は、フジワラさんが挿絵を描いた教科書を採用したのです。

「パパの絵があるから、楽しみ」

4月9日、近所の小学校に入学した次女に手渡された新しい教科書。「パパが描いた絵が載っている」と事前に教えていたので、学級会まで終わると、さっそく、娘はフジワラさんと妻と一緒に「さんすう」の教科書を開きました。

数の数え方を教えるページに、フジワラさんが書いた絵を見つけて家族で「あったね!」と喜び、投稿した写真を撮影したのです。

その日以来、娘は「算数するの、パパの絵があるから、楽しみ」と言ってくれるようになりました。

フジワラヨシトさん作「おはよう!」(2022)
フジワラヨシトさん作「おはよう!」(2022)

これからたくさんの経験をしていく娘の学校生活の傍らに、そっと挿絵が寄り添います。フジワラさんは、こんな思いを込めます。

「これから、うまくいかないことも、思い通りにならないことも、きっとある。そんなときは、文句を言うんじゃなくて、自分にできないことがあるなら『できることは何なのか』ってずっと考えて、それを伸ばしてほしいんだ」

「苦手なことが多いパパも、そうやってここまできたんだよ」

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