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#9 #探していますの物語

〝まじろー〟が行方不明…SNSで知った「ぬいぐるみが家族」の大人

「またあえてよかったまじね」

行方不明になったときのツイートに添付された「まじろー」=持ち主提供
行方不明になったときのツイートに添付された「まじろー」=持ち主提供

目次

20年来の友だちであり、家族でもある「パペット」(手を入れて動かせるぬいぐるみ)が、ある日突然行方をくらましてしまった――。人生の半分を一緒に過ごしてきた「精神安定剤」であるぬいぐるみ。失意の女性が出会ったのは、同じくぬいぐるみを家族同然に思う人たちでした。女性と一緒に「ぬいぐるみの存在」について考えました。

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20年前に魅了された「まじろー」

関西在住の会社員の女性=30代後半=が、パペットの「まじろー」に出会ったのはおよそ20年前でした。友人と雑貨店に入った際、パペットが陳列されている場所で目が合い、「なにこれ?」となったのが始まりでした。
そのえもいわれぬ魅力にとりつかれた女性は、パペットを迎え入れることにしました。

当時、実家で両親と妹と4人暮らしをしていたという女性は、帰宅後に家族にも披露。
女性含め、家族の全員が頭を悩ませたのが、ぬいぐるみが何の動物をモチーフに作られたパペットなのかということ。
アルマジロっぽさは感じる一方、背中にうろこ状の皮膚はなく、つるつる。「丸いから『まるまじろ』だね。と話した記憶があります」と振り返ります。その「まるまじろ」が略されて、現在の呼び名は、「まじろー」になっています。

当時の「まじろー」の定位置は、リビングにあるブラウン管テレビの上。他にぬいぐるみはなかったので、テレビを見ている女性の家族を、まじろーだけがみつめるような配置でした。

出会いから9年ほどが経った頃、女性は一人暮らしを開始。引っ越しの際に、女性はまじろーに「ついてくる?」と尋ねると、「行くまじ!」と返事が返ってきたといいます。

「め」で遊ぶまじろー=持ち主提供
「め」で遊ぶまじろー=持ち主提供

まじろーに周囲は…「は?手袋?」

まじろーは、女性の声を通じて、周囲とも会話ができるパペットだといいます。
出会った頃から、語尾に「まじ」をつけておしゃべりをします。

一方、そんな女性とまじろーの関係性を、周囲の人たちが理解するのには少し時間がかかりました。

女性が20代前半の頃に、友人との飲み会にまじろーを連れて行ったときのこと。

女性の手にはめられたまじろーが自己紹介をすると、「は?手袋?」などと「周りのリアクションがひどかった」(女性)。そんなときに「手袋じゃないまじ!まじろーまじ!」とまじろーが反論しても、場をしらけさせてしまったといいます。

その後しばらくは外出を控えるようになったというまじろー。女性によると、当時まじろーは「みんなにいじめられるまじ。こわいまじ」と訴え、憤慨していたそう。

ようやく出会えた仲間

そんなまじろーと女性に転機が訪れたのは、数年ほど前のこと。
女性が「大ファン」だというロックバンド「THE BOHEMIANS」のライブに連れて行ったときのことです。

以前から、ツイッターではまじろーとの関係性を公にしていた女性に対して、ツイッターでもつながっているファン仲間が「今日はまじろーちゃんいないの?」と気にかけてくれたのです。
その頃、少しずつですが、ぬいぐるみを持ち歩く人が増えてきたような実感があったという女性は、思い切って、ライブ会場でまじろーをバッグの外に出してみました。

「こんにちはまじ」とあいさつしたまじろーを、仲間たちはかわいがってくれたといいます。「まじろーは『初めて優しくされたまじ』と感動していました」と女性。

「行方不明になりました」ツイートが拡散

ところが先月、女性とまじろーが東京に滞在したときに、事件は起こりました。

3月4日の夕方に東京のドーナツ店で見たのを最後に、姿を消してしまったのです。女性がまじろーがいないのに気づいたのは、夜行バスで地元に到着後、喫茶店で一緒に食事をしようとしたときのこと。「モーニングだよ、まじろーちゃん」とバッグから出そうとして、いないことに気がつきました。

「理解が追いつかずパニックになってしまった」という女性でしたが、立ち寄った場所が明確だったため、協力を申し出てくれた友人と手分けして、数カ所に連絡。

「そのときは『見つかるだろう』と、まだ余裕があった」といいますが、すべてに連絡をし終えたとき、まじろーらしき遺失物の届け出はどこにもありませんでした。

「なんの可能性もなくなってしまい、もうツイッターしかない」。友人からの勧めもあり、まじろーを探していることを広めるべく、一つのつぶやきをしました。

《3月4日にまじろーが行方不明になりました。
20年以上一緒にいた大事な大事な友達です。当たれるところは全部当たりましたが見つかりませんでした。今、まじろーが無事でいてほしい、元気に帰って来てほしい。それだけを心から願っています。
まじろーを見かけた方はご連絡頂けましたら幸いです》

このつぶやきが、4万件近くリツイートされました。

一方、まじろーが行方不明になってから3日。交通機関から、「類似の拾得物があります」と連絡が来て、数日後、無事、まじろーは女性の元に戻りました。そのことを、ツイッターで報告すると、約10万の「いいね」がつきました。

寄せられた声、声、声…「いなくなったら本当につらい」

このツイッターの拡散によって、女性にはある気付きがありました。それは、「世の中には、自分と同じように、ものすごくぬいぐるみを大事にしている大人がいる」ということ。

拡散されたツイート経由で届いたメッセージの中には、「私も(なくした)経験あります」とか、「(大事なぬいぐるみがいるけど)いなくなったら本当につらい」とか、「半年間みつからないままです」といった声がありました。

中には、自身が大切に思っているぬいぐるみがいることを、女性にだけ打ち明ける内容のDMもあったそう。
女性は、「私もおおっぴらにしにくい期間が長かったし、他にも『私は変なんだ』と思って暮らしている人もいるんじゃないかと思います」と、周囲にぬいぐるみの存在を打ち明けられないという訴えに理解を示します。

まじろーと再会したときの女性=本人提供
まじろーと再会したときの女性=本人提供

ぬいぐるみを大事にしている人へ「ひとりじゃない」

ここ数年で、外出にまじろーを連れ出すと、「お名前は?」と話しかけられることも増えたという女性。
とはいえ、「世間には『みんなと一緒じゃないといけない』という風潮がある。それもあって、私は積極的に『外に持ち出そう』と思っているわけではない」と話します。一方、ぬいぐるみを家族のように大事にしている人たちに対しては、「ずっと仲良くいてほしいし、同じようにぬいぐるみを大事に思っている人は他にもいるので、『ひとりじゃない』と思ってもらいたいです」と話します

まじろーは、一時行方不明になっていたときはポーチの中にいたので、今回の取材で、初めて、自分が「落とし物」になっていたことを知りました。最初は驚いていたまじろーでしたが、取材の最後にこう言いました。

「またあえてよかったまじね」

再会直後のまじろー=持ち主提供
再会直後のまじろー=持ち主提供

「イマジナリーフレンドみたいな……」

正直なところ、記者はこれまで女性のようにぬいぐるみとの関係性を築いている人に出会ったことが、ほとんどありませんでした。

そのため、オンライン取材時、画面に女性とともに「まじろー」が現れ、共に話し出す様子に、まったく違和感がなかったかというと、うそになります。
そこで、取材が半分ほど進んだところで、「ところで、まじろーはしゃべっていますが、声は違いますよね?」と、やや恐縮しながら聞いてみました。

女性から返ってきたのは、「声は私ですが、言わせようと思っているわけではなく、あくまで本人が言っているんです」との答え。さらに、「まじろーちゃん自身が勝手にしゃべっている感じがするんですよね。キャラ付けとかしているわけではないんです」と付け加えます。

実は取材の場には、女性の配偶者の男性も同席してくれていました。男性が女性と出会ったころには、すでに女性とまじろーの関係はできあがっていたそう。

そこで、彼にも聞いてみました。

「最初、抵抗ありませんでしたか?」

「全然、違和感ありませんでした」と男性は答えます。

「出会ったときからまじろーちゃんがいて、まじろーちゃんといるのが、この人なんだと思っています。むしろ、まじろーちゃんがひどい仕打ちをうけていた時期(周囲から否定されていた時期)があるという話を聞き、『そんなことってある?』と憤りも感じました」

女性は取材の途中で「イマジナリーフレンドみたいな……」と、まじろーを例える場面がありました。イマジナリーフレンドとは、「想像上の仲間」のような存在。

ぬいぐるみという姿をしているけど、女性にとってはなんでも話せるし、いつもそばにいる存在がまじろーなのではないかと思うと、ストンと腹落ちした気持ちになりました。

取材の後半では、女性にではなく、まじろーに感想を求めるなど、私なりに試行錯誤しながらの取材になりました。結果、まじろーの言葉を通じて、より深く女性のことを知れたような気がしています。

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