お父さんがジムに来たら、お母さん友達なくすよ――。退職後に家で過ごす男性は、運動のために妻と同じジムに行こうとして、息子からそう言われてしまいました。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られる漫画家の深谷かほるさんが、ツイッターで発表してきた「夜廻り猫」。今回は「定年後の暮らし」にまつわるエピソードです。

定年後、友達も付き合ってくれなかった
朝の食卓で妻がコーヒーを出すなか、新聞を読んでいる男性は「ロコモ防止か、俺もジム行くわ。お前が行ってるとこ手続きしとけ」と言い放ちます。
それを見た息子は、妻と洗濯物を干しながら「満員だったことにして、隣の駅のジムに申し込んじゃいなよ。お父さん来たら台無しじゃん」と助言します。
うっかり聞いてしまった男性。思わず「なんだよ台無しって!」と怒鳴りつけます。
すると息子からは「人の話はさえぎる、人前でも怒鳴る……。お父さんが来たらお母さんは友達なくすよ」とハッキリ言うのでした。
夜の街を回っていた猫の遠藤平蔵は、男性の心の涙の匂いに気づきます。
男性は「定年してから友達を誘っても誰も付き合ってくれなかった」「SNSを始めたけど反応ゼロ」「俺はみんなに嫌われてんだな…」とつぶやきます。
遠藤は「あしたの朝のコーヒーはおまいさんが淹れてあげなされ」「ダメならまた相談しよう」と励まします。
思い切って、翌朝のコーヒーを淹れてみた男性。妻は少し沈黙したあと、「おいしいじゃん!」と伝えてくれたのでした。
生活も人づきあいも、時間と学びが必要
作者の深谷かほるさんは「定年退職後の生き方はなかなか難しいと聞きます。特に長年お仕事に忙しかった男性は、激変した第二の人生をどう過ごすのか、難しかろうとお察しします」と話します。
そのうえで、「仕事と同じように、生活の仕方も人づきあいも時間と学びが必要ではないでしょうか」と提案します。
もしかするとマンガに登場した男性のように、家族や身近な人から数十年分の反省を迫られたりすることもあるかもしれません。
「生活の激変に、うまく適応していけますように」と話しています。

猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞、単行本9巻(講談社)を2022年11月22日に発売。講談社「コミックDAYS 編集部ブログ」で月・金曜夜に「夜廻り猫」を、講談社「コクリコ」で木曜に夜廻り猫スピンオフ「居酒屋ワカル」を連載中。アニメ化し、NHK総合で放送中。漫画絵本「夜廻り猫の雑貨店」(ポプラ社)が4月に発売。