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「地獄」「心を無に」…〝算数セット〟の名前付け、SNSで毎年話題
「手をかけすぎ」と感じる先生もいます
新学期が始まりましたが、今年もSNSで話題になっていたのは「入園・入学準備の大変さ」です。特に多くの親が〝格闘〟しているのが、小学1年生の「算数セット」への名前付け。小さなおはじき一つ一つ、計算カード1枚1枚にも名前を付ける必要が――。ある調査では、入園・入学の準備のなかで9割が「名前付けが大変」と答えています。改善策はないのでしょうか。(withnews編集部・河原夏季、金澤ひかり)
「算数セットと戦っています」「算数セット名付け地獄」「算数セットは学校の備品で良いと思います」ーー。入学の春、SNSでは算数セットと向き合う多くの声があふれています。
「名前付けはとにかく大変だったとしか言えませんね。心を無にして流れ作業でやりました」
3月上旬、次男の小学校入学に向け、算数セットに名前付けをした千葉県の男性会社員(42)は振り返ります。
算数セットは小学3年の長男が使ったものを「おさがり」で使い、計算カードなどボロボロになっていたもののみ買い替えました。
長男の道具は一つ一つ名前シールをはがし、新たに次男の名前シールを貼っていきました。長男の名前の上に次男のシールを貼ると、次男がおさがりであることを気にしてしまうかもしれないと考えたからです。
おはじきやサイコロ、足し算・引き算カードも一つ一つ名前をつけます。細かい道具には小さい名前シールをピンセットで貼り、既存の名前シールの大きさが合わなければハサミで切って調節する。細かい作業は嫌いではありませんが、「目は乾いてピクピクし、肩はこる。すごく疲れました」。
細かいだけでなく、数が多いことも親を悩ませます。おはじきだけでも50個。ほかの道具を合わせても「200個以上はあった」そうです。夜、子どもたちを寝かしつけた後などに少しずつ作業し、計6時間ほどかけて終わらせました。
「ものによっては共用物でもいいんじゃないかという気はしますが、名前を付けて自分のものを管理するという意味はあると思います。ここまで多く名前を付けるのは最初だけだと思って、自分を納得させました」
算数セットなどの学用品への名前付けは、多くの親にとって「大変」な作業です。
文具大手・キングジムが、2022年4月に入園・入学した子どもの母親400人を対象に、入園・入学前の準備で大変だったことを調査したところ、87%が「持ち物への名前付け」と回答し、次いで「学用品などの購入」(56.5%)、「通園・通学用の衣類の準備」(41.5%)という結果になりました。
また、「名前を付けるときに困った・不満だったこと」では、66.9%が「名前を付ける持ち物が多かった」、44.9%が「名前付けに時間がかかった」と答えたといいます。
名前付けをした持ち物の数については、65.1%が「21個以上」と答え、そのうち26.8%が「51個以上」と回答しました。名前付けにかかった時間は、3人に1人が「6時間以上」で、「半日(12時間)以上」だった人もいたそうです。
名前付けを始めた時期については、半数が3月と回答し、4月とした人も6.8%いました。
調査では、「オムツに名前を書くのが大変」「100枚入りのビニール袋にまで名前を書かないといけなかった」「普段字を書かないので本当につらかった」といった意見があったそうです。
保護者にとって大変な作業である一方、キングジムの担当者は「学校で使用する用品、例えば算数セットなども名前が付いていることで、(子どもが愛着を持ち)なくさず壊さず大切に使用することができると思います」と名前付けの利点を話します。
では、学校の先生は「名前付け」についてどう感じているのでしょうか。
東海地方の小学校で約10年、教壇に立つ30代の男性に聞くと、「学校では、すべての持ち物に名前をつけることが当たり前だという流れがあるので、算数セットも例外ではない。一方で、(細かなパーツも多い)算数セットのすべてに名前を書くことについては『コスパが悪いな』とは感じている」と話します。
算数セットを買う学年の1年生の担任になった経験もある男性。名前を書く意味は、一定程度感じています。「隣の席の子と一緒に学習したりすると、その間にセットがぐちゃぐちゃになってしまうこともある。子ども自ら『名前を書いておくと便利なんだな』と気づき、行動することが本来だと考えています」
一方で、「自分自身としては手をかけすぎかなと思っている」とも話します。
細かなパーツは学校備品を授業中に貸与することで個々に名前を書く手間をなくし、セットの中でも宿題で家庭に持ち帰ることが多い計算カードなどに絞って個人の所有とする方がよいと感じています。
男性は、名前付けの負担について保護者から実際に指摘された経験はないそうです。
SNSで定期的に盛り上がることについては、「先生と保護者との接点の少なさ」が原因だと指摘します。
「保護者の忙しさに加え、教員の忙しさに対しての『遠慮』のようなものも感じます」と男性。「職員同士ではしがらみが多くて変えられないものでも、保護者から質問や意見があれば、検討が始まる可能性はあります。後輩ママパパのために、いま気になっていることは学校側に伝えてほしい」と訴えます。
「学校は『前例踏襲』をしがちですが、名前付けの大変さについてSNSだけで盛り上がって終わってしまうなら、問題の先送りになってしまうのではないかと思います」
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