例年以上に話題となった大会
その後、ウエストランドが『M-1グランプリ』で“R-1には夢がない”と毒づき、『R-1 2013』王者の三浦マイルドが今年2月に放送された『これ余談なんですけど…』(ABCテレビ)の中で複雑な心境を明かすなど、今までになくR-1にスポットが当たった。
今年は『ENGEIグランドスラム』と連続で生放送する試みに打って出た。R-1王者になったばかりの芸人をトリで出演させ、大会や番組を盛り上げようとしたのだろう。局にとっても、重要なイベントとして位置付けられていたのは間違いない。
そんな期待のかかった今大会のファイナリストは、Yes!アキト、寺田寛明、ラパルフェ都留、サツマカワRPG、カベポスター永見、田津原理音、コットンきょん、そして復活ステージから勝ち上がったこたけ正義感の8名だった。
そもそもピン芸であればジャンルを問わないR-1。それだけでも難しい審査が想像されるが、今大会はとくに混戦状態となったように思う。
「開封動画」をネタにした田津原
フリップネタを得意とし、イラストのボケや引っ掛かりのあるフレーズに対して大きなリアクションでツッコミを入れていく。同じフリップネタでも、3年連続で決勝に進出したロジカルでクールな寺田寛明とはまったく違う芸風と言える。
しかし、2人には今年から以前とは違った見せ方をしたという共通点がある。寺田はパワーポント系のアプリ、田津原は固定カメラを使ってモニター映像で見せる手法をとった。
田津原が披露したのは、2本ともにオリジナルカードを開封するネタだ。SNSで人気のトレーディングカードを開けていく「開封動画」が自身の芸風にマッチすると考えたのだろう。カードの特徴と、ワクワクしたりガッカリしたりする演者のリアクションで笑わせるネタだった。
実は田津原は、カメラマンとしてプロ級の撮影技術を持っている。そのカメラを生かし、大きなリアクションで笑わせる見せ方は、フリップでは出せない新鮮な魅力があった。ただ、強いて言えばレアカードや癖のあるカード、同じカードが何枚も続くほかに、ネタの軸となる展開が欲しかった。
同じ固定カメラを使った手法では、元ラーメンズ・小林賢太郎がソロライブで見せていた「アナグラムの穴」が思い浮かぶ。トランプの裏に書かれた文字を並び替えてフレーズを生み出し、最後にイラストを出して笑わせるものだ。いずれも小林の得意分野であり、マジシャンさながらの手捌きで言葉が形成されていく見せ方には臨場感もあった。
田津原も「カードによってストーリーが浮き上がる」「謎のキャラクターが登場して暴走する」など、どんな方向でも、ネタの中に“今まさに起きている”というさらなる臨場感が加わっていたら、より見る者を引き込めたのではないか。
審査員のバカリズムが「舞台上でやるネタとしてどうなんだろう」と口にしていたのは、“見せ方”と“ネタ”のバランスに違和感を覚えたからではないだろうか。とはいえ、トレンドを感じさせる着眼点、カードの作り込み、大きなリアクションが魅力的だったのは間違いない。今後、彼がどんなネタを見せてくれるのか期待したい。
わかりやすい演出が光ったきょん

今大会では、「警視庁カツ丼課の調理担当」と「リモート映像で友人の失恋を食い止める男」という2本のネタを披露。それぞれキャラクターが生かされており、ポイントポイントで着実に笑いをとっていった。
とくに1本目の「警視庁カツ丼課」は、コットンとしての既存のコンビネタのリメイクながら、今大会でもっともメリハリの利いた演出だった。『踊る大捜査線』(フジテレビ系)のテーマ曲を効果的に使い、前口上のように犯人の特徴を説明しながらカツ丼を作る準備を始める。
調理が完了し、決め台詞を吐いて袖にはけたところで一旦BGMはストップ。自供する犯人の声が聞こえると、再度テーマ曲が流れるとともに敬礼のポーズで登場する。笑いどころがしっかりと提示された、実にわかりやすい演出だ。
テレビで放送される大会決勝の観客は、ひと際このような演出に反応する傾向が強い。ネタの面白さよりも、すぐに理解できる笑いのパターンが一定の笑い声を生み出す。きょんの1本目は、まさにこれに該当するネタだった。
恋愛をテーマとする2本目のネタも、高い演技力で田津原と接戦となった。リモート映像というトレンドを取り入れながら、その場にはいないはずの2人をつなぎとめる。この設定は新鮮なものだが、それに終始してしまった感がある。田津原と同じくもう一つ“リモートならではの意外な展開”があれば優勝していたかもしれない。
今後が期待される寺田寛明

今大会の寺田は「架空の『ことばレビューサイト』での辛辣な口コミ」というネタで勝負。塾講師として働く自身の素地を生かしつつ、レビューサイトの低評価という“あるある”を組み合わせたものだ。プレゼン形式の見せ方もハマり、客ウケも非常に良かった。
あえて懸念点を挙げるなら、バカリズムのスタイルが想起されてしまうことだろう。ハードルは高いが、今後寺田ならではの芸風が確立されることに期待したい。
ギャグを得意とするYes!アキト、サツマカワRPGの2人も見せ方に工夫が見られた。Yes!アキトはコント形式でギャグを差し込み、サツマカワRPGはシチュエーションを展開するごとに演じる人物をずらしていくネタだった。どちらもラストイヤーで結果こそ振るわなかったが、その実力は十分示せたのではないだろうか。
そのほか、「巨大ヒーローとなった阿部寛」を演じたラパルフェ都留、「世界で一人は言ってるかもしれない一言」で見る者の想像力をかき立てたカベポスター永見、復活ステージから勝ち上がった「おかしな法律」を軸とするこたけ正義感も高いパフォーマンス力を見せた。
今大会が接戦になった理由
一つは、演者のポテンシャルが感じられるネタが少なかったことだ。前述した舞台上の臨場感にもつながる話で、準備したネタをそのまま披露するだけでは印象に残りづらい。「この動き、この表情、この言い方を真似したくなる」と思わせるようなパフォーマンスこそがネタの説得力を増す。
もう一つは、ネタの核心部分が弱かったことだ。どんなジャンルであれ、基本的にネタは終盤へと向かって盛り上がっていくように作られる。コントであればストーリー上の枷(かせ)を積み重ね、漫才であれば掛け合いの熱量を上げていく必要があるだろう。
とくに3分という限られた時間においては、そこに独特の世界観や価値観、悩みなどを設けなければ、そうそうインパクトは与えられない。言い換えるなら、“そもそも普通とはズレている”という着想こそがアドバンテージとなる。
ビスケットブラザーズの「野犬」、かまいたちの「UFJ・USJ漫才」、バカリズムの「地理バカ先生」を思い浮かべてみて欲しい。ジャンルこそ違うが、賞レースで活躍した多くの芸人のネタが“骨太のズレた軸”を持っており、またそれが芸風とも重なっている。今大会のメンバーは、そこが今一歩及ばなかったように思う。
その芸人ならではの個性を確立するのは一朝一夕にはいかない。だからこそ、先に触れた芸人のネタは、視聴者の脳裏に深く焼きつくのではないだろうか。
大会“ドタバタ”の要因は
また、ネタを披露する前に流れる寺田のVTR映像では、昨年の写真とエントリーナンバーがそのまま使用されていた。2021年に出場資格が「芸歴10年以内」になるなど、大幅にリニューアルされてから、R-1はたびたびこうした問題が指摘されている。
昨年からファイナリストが10組から8組に減ったものの、中盤からどうしてもすべての審査員コメントは聞くことができなくなってしまう。大型の賞レースとしては短い、“2時間の生放送”を継続している点も大会のドタバタを招いているのではないだろうか。
今大会で言えば、最近のR-1王者や決勝進出者のVTR映像が流れて大会のオープニングが始まるまでに4分強を要している。その後、審査員やTVerでの裏生実況の紹介、『ENGEIグランドスラム』の番宣と続いてCMが入り、Yes!アキトのVTR映像がスタートしたのは約17分後だ。
決勝進出者のネタ前のVTR映像が約1分、ネタ約3分と考えると8名で約32分。ネタが終わり、審査員がコメントし終えるまでに大抵3分以上あるため少なく見積もって24分。実際にはネタ時間を含めてもう少し伸びるが、単純に集計しても、これだけで1時間13分を使っている。
敗者コメント、ファイナルステージのネタ2本と審査発表、CMなどを加味するとギリギリの配分である。
賞レースの決勝は、ネタはもちろんのこと、審査員コメントも視聴者にとっての醍醐味の一つだ。2時間を継続するのならVTR映像を短くするなどして、生放送ならではのやり取りに時間を費やせば、前述の“ドタバタ”も防げるのではないか。
とはいえ、今大会終了後に「R-1は信用してないけど審査員は信用してる」とのツイートも見られ、視聴者は思いのほか冷静に捉えているようだ。大会に携わるスタッフは芸人のパフォーマンスをサポートする立場なだけに、来年こそ余計な騒動を起こさないよう意識してほしい。