連載
#135 #父親のモヤモヤ
「パパと育児の距離は近くなっている」育休を取った父親が感じる変化
リスキリングより家事育児が優先。でも……
2021年の男性の育休取得率は14%ほど。だんだん増えてきたとはいえ、女性と比較するとまだ少ないのが現状です。
現在父親たちが集う育児コミュニティを運営する男性は、第1子の出産後に妻がうつ病になった経験から働き方を変え、育休を取りました。
コミュニティを始めて3年。父親たちが抱える悩みや、国会答弁で話題になった「育休中のリスキリング」についての考えを聞きました。
コミュニティを立ちあげた背景には、2015年に第1子の娘が生まれたときの反省がありました。
金融業のシカゴリラさんは当時、家にいる時間が短く、毎月のように海外へ出張する多忙な日々を送っていました。
「ほとんど単身赴任のような状態」で働いていたため、育児・家事は妻任せ。娘が生まれて数カ月後、妻は心身ともに追い詰められ、うつ病になってしまったといいます。
妻の変化に気づけなかった後悔から、「典型的な仕事人間」だった状況を少しずつ見直し、育児・家事に関わる時間を増やしていきました。
その後、長男が生まれたときは事前に会社と調整して1年間の育休を取得。現在は次男の育休中です。
一方で「パパ同士の交流機会が少ない」現状も痛感しました。
長男の育休中、まわりに子育ての楽しさや悩みを語り合える父親はいませんでした。ツイッターを通じて育児に積極的な父親と出会い、「同じような境遇の人がいると分かっただけでも気持ちが楽になった」と振り返ります。
コミュニティへ参加する父親の多くも、父親同士の交流や情報交換できることに魅力を感じているそうです。
コミュニティ立ち上げから3年、「パパと育児の距離はだいぶ近くなっている」とシカゴリラさんは感じています。
男性議員の育休が話題になったり、男性の育休取得を進める育児・介護休業法の改正があったりしたことで「共働きで『妻が育休を取るなら自分も』という方が徐々に増えてきていると思います」。
長女が生まれた2015年、男性の育休取得率は2.65%。シカゴリラさん自身「男性育休」という言葉をほとんど聞いたことがありませんでした。
男性育児が浸透する一方で、コミュニティに求められることや悩みは立ち上げ当時とそれほど変わっていないと考えます。
参加する父親は、育児に一生懸命で前向きな人たち。しかし、まだまだ「育休パパはマイノリティー」であることは変わらず、「同じ境遇の仲間を求めてコミュニティに参加する状況も変わらない」といいます。情報交換する内容も、育休中のことやパートナーシップ、育児・家事についてが多いそうです。
2022年に長女が生まれ、コミュニティに参加したミトスさん(37)は、9カ月の育休中。ツイッターで育児情報を集める中で初めてコミュニティの存在を知りました。
「メンバーとのやり取りで、熱意の高さを感じます。家事の時間を短くするためにしていることや、夫婦でストレスをためないためにどうしているかといった情報共有は、コミュニティならではかなと思いました」
多くが育休を経験し、育児に積極的な父親たちは、1月下旬に国会の代表質問で話題になった育休・産休期間のリスキリング(新たにスキルを身につけること)についてどのように考えているのでしょうか。
「育児、家事したことない人の意見ですね」
「育休中くらい家族のケアに集中させてくれよ、としか思えない」
「リスキリングできる人は、支援の有り無しに関わらずやるんじゃないかな」
ツイッターでは、何人ものメンバーがリスキリングについてつぶやきました。家庭の状況は様々ですが、コミュニティの考え方としても育休中の前提は「家事育児が最優先」です。「育休を取ると資格の勉強をする時間ができる」という誤解が広まるのは望ましくありません。
とはいえ、「育児・家事に集中してばかりでは気持ちが落ち込んでしまう人もいる」とシカゴリラさんは考えています。
「産褥期は母親の負担を減らすために家事育児に集中したほうがいいのですが、母親の体調が良くなって分担できるようになると、多少は余裕が出てきます。気晴らしもかねてキャリアアップのための自己研鑽をすることも含め、育休中にどのように振る舞うかは個人の裁量だと思います」
2020年10月~2021年2月のコミュニティの調査(n=144、複数回答)では、育休中に行った家事育児以外の活動について、「読書」が38.9%、「資格取得」13.9%、「語学学習」が11.1%でした。
シカゴリラさん自身も、育休中に会計の勉強など自己研鑽を積んだり、コミュニティ活動に取り組んだりしています。
もちろん、育児や家事が優先。「子どもと一緒に夜8時半くらいに寝て朝3時に起き、子どもが起きる7時くらいまでを自分の時間にしています。夜にコミュニティ活動があれば、朝6時くらいに起きています」
ただ、シカゴリラさんの場合、自己研鑽は「育休に入ったから」というよりも、入社してから資格取得をする上での習慣だったといいます。
それぞれが「自分の時間」をつくるには、家族の協力も必要です。ミトスさんは妻の体調が落ち着いたあと、もともと趣味だった読書の時間をつくるようになりました。
「一人で育児・家事をする場合、優先順位の第1が育児で第2が家事、第3が自分の時間になると思います。妻とW育休の場合だと、例えば妻が第1で育児しているとき私は第1で家事ができ、お互い第2で自分の時間が取れます」
シカゴリラさんは、今後父親になる人たちへ向け「迷っている方はぜひ育休を取ったほうがいいとお伝えしたいです」と話します。
多くの父親から、育休を取る際の会社との調整や育休後の待遇の厳しさについても聞いてきました。しかし、そんな状況でも「育休はすばらしかった」と話す父親が多いそうです。
「経済の豊かさも大事ですが、幸せは何かという価値観が移り変わっているなか、育休は『ウェルビーイング(心身の健康や幸福)』にもいいのではないかと思います」
「子どもへの愛着形成がしっかりできますし、育休を取ってしっかりパートナーシップを築き、老後も夫婦仲良く人生100年時代を幸せに過ごすことができるのではないでしょうか」
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