連載
#20 #アルビノ女子日記
「私を活用してくれていい」アルビノ当事者が企業に伝えたいこと
見た目の症状をカメラで写して得た気付き
生まれつき髪や肌の色が薄い、遺伝子疾患アルビノ当事者の神原由佳さん(29)は、かつて自らの外見に自信が持てませんでした。体形について、いまだに「嫌い」と思うときも。そんな彼女が、「自分らしくいればいい」との気持ちを強めた出来事があります。見た目に症状がある人々と共に、とあるコスメブランド主催の撮影会に参加したことです。カメラの前に身を置いてみて得られたという気付きについて、つづってもらいました。
2022年11月、東京・南青山の撮影スタジオには、カラフルな衣装数十着と、たくさんのメイク道具が用意されていた。
スタイリストが、私を着せ替え人形のようにして、ぱっと服を重ね合わせていく。選ばれたのは自分では絶対に選ばない赤と水色のニット。一番派手な衣装だ。思わず、「まじか……」と思った。
アルビノの私は、髪のない女性や顔の変形した「トリーチャーコリンズ症候群」の男性ら計5人とともに、メンズコスメブランドのInstagram写真展のモデルに挑んだ。「女性なのにメンズ?」「私なんかがモデルに?」。そんな疑問を抱きつつの撮影だった。
ブランド名は、BOTCHAN(ボッチャン)。2018年に『「男らしく」を脱(ぬ)け出そう』をコンセプトに生まれた。洗顔料、化粧水、美容乳液などの商品があり、いずれも色鮮やかでポップなパッケージが特徴で、日頃何気なく行なっているスキンケアが楽しくなるようなデザインだ。そして何より、メンズコスメとうたってはいるものの、女性の愛用者も多いジェンダーレスコスメなのだ。
「自分らしく生きる」
それがブランドが大切にしているコンセプトで、ボッチャンはこれまでにも、LGBTQ(性的少数者)の当事者の声に耳を傾け、一緒に活動を行なってきた。LGBTQの方々の声を聞いているうちに、ほかのマイノリティの人たちにも関心が高まったそうだ。
そんな中で、外見に症状がある人たちの存在を知り、一緒に活動したいと思ったという。今回の撮影会は、そのような経緯から行われたものだ。私は、外見に症状がある人々が進学や就職、恋愛などで苦労する「見た目問題」の啓発にもつながると思った。
撮影が始まって、いざカメラの前に立つと緊張した。たくさんのスタッフが、私のことを見ている。楽しい、わくわくといった気分ではなくて、照れ臭くて少し自信がなく、気持ちが小さくなっていた。意識していなければ「私きれいじゃないし……」というネガティブでかわいくない言葉が頭に浮かびそうだった。
それでも、カメラマンから「かわいい!」と言われるうちにまんざらでもなくなってきた。
「そういえば、肝心の商品は持たなくていいの……?」
一般的な広告では、商品を持ったモデルがかっこよくきめていたり、キュートな表情をしていることが多い。広告なのだから、モデルは商品を引き立たせる存在ではないのか? どんな写真になるのか、ますますわからなくなった。
結局、私たちモデルが商品を持って撮影することは、最後までなかった。その理由について、ボッチャンの製造・販売をしている株式会社アンド・コスメの加登愛子さんに話を聞くと、こう返答があった。
「今回は商品を売るためのものではありません。外見に症状がある人たちの存在を知ってもらいたい気持ちが100%なので。一番のポイントは、今回モデルとして参加してくれた人たちが楽しんでいるかどうかだけなんですよ」
なるほど。それはありがたい話だ。
そう思う一方で、当事者の私としては「何か裏があるのでは……?」と、疑いの目でみてしまった部分はあった。企業側にとっても、マイノリティの人たちに注目し、社会貢献的な活動に取り組むことはプラスに作用するに違いない。たとえ、商品の直接的な購入につながらなくても、ブランドのイメージアップにつながるのだろう。
私は「企業の社会貢献活動の狙いとして、ブランドのイメージアップがあってもよいし、当然だ」と思っている。
近年の企業広告は単に商品をPRするだけではなく、マイノリティの人を起用して社会に対してメッセージを発信するものが増えてきた。私も過去に、ヘアケア製品ブランドの「パンテーン」のウェブ動画広告に出演したことがある。その経験から、企業と一緒に発信を行うことで、自らの存在について社会に強く発信できると確信を持っていた。
企業はマイノリティの人々と協力することで、自社のブランドの価値を高め、結果として商品やサービスのPRにつなげる。そして私たちマイノリティにとっても、企業の力を利用し、多くの人に自分たちのことを知ってもらうことができる。
つまり、ウィンウィンな関係なのである。
だから、企業には、私のアルビノというマイノリティ性をイメージアップに活用できるのであれば、そうしてもらって構わない。ほかの当事者の気持ちまでは分からないが、少なくとも私はそういう立場だ。
メイク、衣装合わせ、撮影……その過程を経て、当初抱いていた「この企画には何か裏があるのでは……?」という疑念は和らいだ。
先述の通り、これは企業側も当事者もウィンウィンな関係で成り立っている。ボランティアでも趣味でもない。仕事として互いに目的を持って取り組んでいる。ただ、どうせやるなら楽しくやれたほうがいいに決まっている。
ウィンウィンと言っても、不特定多数の人目に触れる身としては、企業の人たちに安心して身を委ねて良いものか多少は警戒する。だけど、同じ時間を過ごすうちに「この人たちなら大丈夫かも」と思うことができた。
「裏があるのでは……?」という疑念が完全に払拭できたわけではないけれど、それはそれでいいと思う。そもそも、この企画そのものに意義があるのだから。
カメラのフラッシュを浴びながら大きな気づきもあった。
これまで私は、外見で人を評価したり、差別したりする「ルッキズム」に抗(あらが)おうとしてきた。一方、自分の容姿に自信をもてずにいた。でも、撮影された写真を見て、プロのカメラマンやメイクさんたちが私の美しさを引き出してくれた、と思った。とてもうれしかったし、自分の容姿を少し好きになれた。
エンパワメント(自信や力を与えること)ってきっとこういうことなんだ。
撮影の合間は、ほかのモデルの撮影の様子を、少し離れたところからのぞき込むようにして見ていた。モデル全員がかっこよすぎてずっと見ていられそうだった。
私は普段、誰かの外見について褒めたり話題にしたりすることはそうそうない。せいぜい、人の髪型が変わったときに「髪型変えました?」と聞くくらいだ。だけど、この日ばかりは自然と「かっこいいね!」と心から褒めちぎっていた。
ほかの当事者のモデルたちも、撮影をするにあたって、それぞれの思いや考えがあったはずだ。だけど、最後は全員がキラキラした笑顔をしていたのがとても印象に残っている。
化粧品とは、なりたい理想の自分に近づくための方法とも言える。だけど、ボッチャンは、そんな魔法をかけてくれるわけではない。ましてや、人を「化かす」ためのものではない。「そのままでもいいんだよ」とそっと背中を押してくれるブランドなんだと思う。
今回の企画は、『「男らしく」を脱け出そう』のほかに「YOU DO YOU .あなたらしさはあなたのもの」をスローガンに掲げている。
私らしいってなんだろう……
見た目で言えば、アルビノの白い髪色や肌色は、子どもの頃は嫌でたまらなかったけど、今は「私らしさであり、私のもの」だと思えるようになった。
一方で、丸々とした体形は、受け入れづらい。人とのつきあい方についても、私らしい関係を結べていると思うときもあるし、相手の言動に流されてしまうときもある。今は自分のことを好き、時々嫌いと思っている。
強いて言うなら、いいときも悪いときも、気持ちが揺らぎながらも、どんな自分にも寄り添う姿勢を持っていることが、私なのかもしれない。寂しかったり、不安だったりと、ネガティブになった自分を、「そうした感情を持っていいんだよ」と肯定できる。
これが、今の私が導き出せる「自分らしさ」についての答えだ。
私の一番のお気に入りの写真は、5人で撮った集合写真。症状も、性別も、年齢もみんなバラバラ。だけど、一人ひとりが「自分らしい顔」で写っていて、良い写真だなぁってしみじみする。
この企画をきっかけに、「見た目問題」について知ってもらえる機会になりますように。
◇
【外見に症状がある人たちの物語を書籍化!】
アルビノや顔の変形、アザ、マヒ……。外見に症状がある人たちの人生を追いかけた「この顔と生きるということ」。神原由佳さんの歩みについても取り上げられています。当事者がジロジロ見られ、学校や恋愛、就職で苦労する「見た目問題」を描き、向き合い方を考える内容です。
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