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「安心してトラウマになって」中川翔子が熱弁、伊藤潤二ホラーの美学

出会いは「ブルース・リー色紙事件」

ホラー漫画家・伊藤潤二さんのアニメ「マニアック」で声優に起用された中川翔子さん。ふたりが伊藤作品の美学について語り合いました
ホラー漫画家・伊藤潤二さんのアニメ「マニアック」で声優に起用された中川翔子さん。ふたりが伊藤作品の美学について語り合いました

目次

漫画界のアカデミー賞「アイズナー賞」を昨年、受賞したホラー漫画家・伊藤潤二さんのアニメ「伊藤潤二『マニアック』」が1月19日にNetflixで全世界配信されます。声優の一人に起用されたのは、中川翔子さん。実は、家族ぐるみで焼き肉に行くほど仲が良いという2人。出会いのきっかけとなった「ブルースリー色紙事件」から、「親も安心して見せられる」伊藤作品の美学について、2人が語り合いました。(構成・千絵ノムラ)

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伊藤潤二『マニアック』について:日本のホラー漫画界を牽引してきた鬼才・伊藤潤二。その独創的な世界観と、圧倒的な画力で描かれる魅力的なキャラクターが創り出す”恐怖の傑作“から、選りすぐりの20タイトルをアニメ化。「富江」や「双一」「首吊り気球」などの人気タイトルがラインナップされ、伊藤潤二のマニアックな魅力にどっぷりと浸れる意欲作となっている。

© ジェイアイ/朝日新聞出版・伊藤潤二『マニアック』製作委員会
公式サイト:https://ji-anime.com
公式Twitter:@itojunji_anime
Netflix作品ページ:https://www.netflix.com/title/81295011

突然届いた「ブルース・リーの色紙」

――2人は、中川さんのお母様も含め、家族ぐるみの交流があるそうですね。

伊藤潤二さん(以下、伊藤):10年ほど前、私が一方的にテレビでしょこたんを拝見している立場だったんですけど、ある時「しょこたん☆ブログ」でブルース・リーの話をされてまして。

楳図かずお先生の大ファンであることは知ってたんですが、趣味がすごく似てたので、ちょっと私の存在を示そうかなと、色紙にブルース・リーの絵を描いて勝手に送りつけました。接点はそれが最初だったと思います。

中川翔子さん(以下、中川):びっくりしました。突然事務所に伊藤潤二っていう差出人から、めちゃくちゃすごいブルース・リーのイラストが届いたんです。

まさかあの伊藤潤二先生なわけがないと思ったんですけど、線がもう先生だったから。すごすぎます、激レアですよね。

今では一緒に焼き肉を食べに行ったり、ディナーショーに来てくださったりと、すごく仲良くさせていただいているんですけど。色紙をいただいたのは、私がまだ、地下で息してるくらいの感じの時だったんで。
伊藤:全然、地下じゃないです。もう頂点にいらっしゃいました。

当時、ブルース・リーファンを語っているタレントさんって少なかったから、めちゃくちゃ貴重だなぁと注目してました。

まさかこんな風に会える関係になるとは思ってなかったです。私はほぼ一般人だったんで。

中川:そんな、世界の伊藤潤二先生ですよ!

当時、私もファンだったので、いつかお会いしたいと奮い立ったのを覚えてます。

直接お会いできたのはそれから何年もかかったんですけど。しかも先に母親が仲良くなって。先生にDMを送ってたんです。

伊藤:太宰治先生のお墓参りに一緒に行きました。その時に初めてお母様にお会いしまして。ちょっとお参りの仕方が短いって注意されましたけど(笑)。

中川:えー、先生すみません(笑)! 母の方がコミュ力がすごくて。

そこからいろんなご縁ができたんですけど、今回はその集大成として、この一生残るアニメの作品に関わらせていただけて、生きててよかったなぁと、やっとこの強い念がつながったんだなと思います。
出典: © ジェイアイ/朝日新聞出版・伊藤潤二『マニアック』製作委員会

まさか自分に…「ぎゃー! 嬉しい!」

中川さんが声優を務めるのは『耳擦りする女』の主人公まゆみ。まゆみは自分で行動を決められず、誰かに指示してもらわないとパニックを起こしてしまう。その指示役として雇われた美津が、まゆみの耳元でささやきながら指示をしていくのだが……
――声優として参加すると聞いた時の感想は?

中川:先生の作品が以前、「伊藤潤二『コレクション』」でアニメになった時はすごく嬉しかったし、一ファンとして作品どれも大好きで、いつも繰り返し電子書籍で読んでいたので、まさか今回の「伊藤潤二『マニアック』」で自分にお話がいただけるなんて、「ぎゃー! 嬉しい!」って先生にすぐLINEしました。

伊藤:私はしょこたんからのLINEで知ったかんじです。「監督攻めるなー」と思いつつ、「こんなことが起こるんだ」とすごく嬉しかったですね。しかも、まゆみってけっこう合ってるぞと。

中川:やったー!
伊藤潤二『マニアック』中川翔子さん出演シーン
伊藤潤二『マニアック』中川翔子さん出演シーン 出典: © ジェイアイ/朝日新聞出版・伊藤潤二『マニアック』製作委員会
――アフレコを実際に聞かれてみて?

伊藤:本当にまゆみそのものというか。しかも、しょこたんの個性も出てるし、すごくセリフが詰まっていて難しかったと思うのですが、完璧にこなしていただいていて言うことなかったです。

中川:えー嬉しい! 『耳擦りする女』は大好きで繰り返し読んでいたんですが、まゆみの声色ってどんなかんじかなと改めて何回も音読しました。

いつもアニメをやる時は中川翔子感を消したいなって思うんですが、今回はすごく自然体で普通に演じたという、今までにあんまりない感覚ですね。先生の作品に何年も触れてきたからこそっていうところがあるからかもしれません。

はじめて演じるというよりもずっと前から知ってたことが大きくて、だから緊張せず楽しく演じられました。

特に叫ぶところ。頭の中で、「わーーー!」て思っても叫べないじゃないですか、大人って。合法で叫んでいいってすごいなって。いままでポケモンとかディズニープリンセスとかいろんな役をやらせていただいた中でも、こんなに思いっきり叫んだことはなかったです(笑)。

伊藤:最初は自分ではどうしたらいいかわからないというまゆみのパニック状態がすごくよく表現されてて、そして次第に落ち着いていき、最後は……という、ちょっとぞっとするこわーいかんじの声をあてていただいてですね、もう本当に素晴らしかったです。完成したかんじを楽しみにしていただきたいです。

中川:わあ、嬉しい! なかなかアニメのアフレコを、漫画を描いた先生にその場で聞いてもらえて、お墨付きいただけることってないので、めちゃめちゃ嬉しいし、めちゃめちゃ貴重です。

※対談は、『耳擦りする女』のアフレコ直後に行われました

まゆみのモデルは実の母

――『耳擦りする女』のアイデアはどこから?

伊藤:私は若い頃から自信がなくて、人に指示して欲しいタイプだったんです。そして母も、一緒に食事する時なんかに「テーブルのここにしょうゆ置いていいか」とかよく聞いてきたんですね。気をつかってだと思うんですけど。

そこから人に指示してもらわないと行動できないキャラクターって面白いかもって思って、ちょっと母には申し訳なかったんですけど、ホラーのネタにさせてもらってます。母はそんな病的なもんじゃなかったんですけどね。

中川:私もまゆみに共感できるところが、かなりあります。
自分に自信がある分野や好きなことはバーっと思いっきり喋るんですけど、自信がないことは周りの人に、「ねえどうだった? 大丈夫だった? これどうしたらいい?」って聞きまくります。

なので、バラエティー番組で座っている時とかは見えない美津さんがいればいいのになって思いますね。

――逆に美津のように人を指示したい、支配したい欲はありますか?

中川:普段はまゆみなんですが、ちょうど先日、いまハマっているタロット占いを番組で披露することになったんです。
まだそんなにできないんですけど、みんなにやりかたを伝えるのに、「このカードがここに出たってことはこういうことだからこう言って」って耳元にひそひそひそって。まるで美津みたいだなと。私もこうなる時があるのねって思いました。

伊藤:私もあんまりなくって、車を運転してても前の車についていきたい方で、うしろにつかれるのが嫌なんです。

漫画もひとりで描いてるのは、アシスタントさんにいろいろ指示するのが苦手ですし大変なんで、自分で描いた方が早いかなみたいな。あんまり指示したいとか思ったことはないですね。
自分の子どもにはいろいろ言いますけど、それでも歯を磨けとか、その程度ですね。
伊藤潤二『マニアック』中川翔子さん出演シーン
伊藤潤二『マニアック』中川翔子さん出演シーン 出典: © ジェイアイ/朝日新聞出版・伊藤潤二『マニアック』製作委員会
――アニメ化にあたっての思いは?

伊藤:2018年にテレビシリーズの「伊藤潤二『コレクション』」で濃密なアニメを作っていただいて、まさか次があるとは思ってなかったんで、もういい作品は残ってないんじゃないかなという不安もありました。

でも脚本など拝見して、『耳擦りする女』や双一の話、『首吊り気球』など、これはなかなか前回に負けないシリーズになるなと、そんな思いであります。しかも今回はしょこたんに声をあてていただいたってことで、もう大成功ってかんじです。

中川:前回も大好きで見ていたんですけど、そうそうたる声優のレジェンドのみなさんのすごい作品の歴史に私も入れていただいて、あの頃の自分に、「やめないでよかったね、お疲れ」って言いたいです。1番の生きた証かもしれません。
伊藤潤二『マニアック』中川翔子さん出演シーン
伊藤潤二『マニアック』中川翔子さん出演シーン 出典: © ジェイアイ/朝日新聞出版・伊藤潤二『マニアック』製作委員会

親も安心して子どもに見せられる美しい世界

――伊藤潤二ファンを豪語している中川さんですが、伊藤潤二作品の魅力とは?

中川:ホラーというと、グロテスクやスプラッターのイメージが強くて、見る前から苦手と言う人が多いんです。

でも先生の作品は「お願いだから見てから言って!」というくらい誰にでもおすすめします。美しいんです。先生が持つ品なんでしょうね。

ホラーって、きゅんきゅんしたりわくわくしたりする作品と同じくらい、絶対に子どもの時に摂取すべき栄養だと思うんです。

だから今の子どもたちがアニメを通して先生の作品に入って、トラウマになって欲しい(笑)。きゅんだけじゃダメなんです。しかも怖い&美しい&上品なので、親も安心して見せられる。私が親だったら、「見なさい!」ってむしろ言います。
伊藤潤二『マニアック』中川翔子さん出演シーン
伊藤潤二『マニアック』中川翔子さん出演シーン 出典: © ジェイアイ/朝日新聞出版・伊藤潤二『マニアック』製作委員会
――ここ数年、海外での評価が高いことについては?

伊藤:デビューした頃は、日本の方に読んでもらえるよう、それだけのモチベーションでやっていたんですけど、海外の方にまで読んでもらえるようになるとは、正直思っていませんでした。本当にありがたいです。ファンの方は神様ですね。

中川:先生ってなんて謙虚なんですか。すごい。先生の描く線って上品で上質で、芸術なんですよね。文化でもあるし。だから海外にもわかる方がたくさんいると思うと、なんか泣けてきますね。人間の本能ってスリルと興奮が表裏一体だと思うんです。

しかも先生の作品はホラーなんだけど、ちょっと面白くもとらえられる。今日演じてても、美津さんのささやきに笑いそうになっちゃったんですよね。

だから多様化している娯楽のジャンルの中でも、深くって幅広い。『首吊り気球』がアニメになる日がくるなんて最高すぎますよ。バンザイ!

これからの地球を回す子どもたちや、ずっと好きで見てきた人たちにとっても、やっと時代がきたぜ! ってかんじですね。ファンとして追いかけ続けてよかったですし、ますます布教しやすいので、すすめまくります。
伊藤:しょこたんはブルース・リーが好きという感性があったからこその今の素晴らしい活躍だと思いますので、ますますブルース・リーや楳図先生、(有人潜水調査船「しんかい6500」に乗るほど好きな)深海の生き物などでモチベーションをあげていただいて、そしてまたディナーショーにも伺いたいと思います。

中川:嬉しいー! ありがとうございます。先生はもう宇宙の至宝だと思います。

「伊藤潤二」というジャンルがジャンルとして伊藤潤二先生って確立され続けてきて、いつでもどこからでも入れるっていう読みやすさにしてくださった上に、本人はこんなに穏やかで優しいっていうね。

そんなすごい方の脳の中に、私が認知していただいたっていうのがもう……。過去にさかのぼって小学校の私によかったねって言いたいくらい、すごい日だなって思います。いや、嬉しいな。

伊藤:私もブルース・リーの絵を描いて送りつけた頃の自分にこの状況を知らせたいです。

中川:今日という日に全部つながりましたね。そしてここから絵が完成されて、いろんな効果音とかすべてができあがって、世界配信される日もまた、記念日になると思うとわくわくします。
 

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