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マンガ

楽しげな「しょこたん」の姿に涙…芽が出ない漫画家の絶望覆した夢

不遇の日々を経ても、希望を捨てなかった理由

好きなことを続けても、なかなか報われない……。その絶望感を吹き飛ばした、ある「夢」について描いた漫画です。
好きなことを続けても、なかなか報われない……。その絶望感を吹き飛ばした、ある「夢」について描いた漫画です。 出典: 石川聖さんのツイッター(@ishikawasei)

目次

20年間、連載を持てずにきた漫画家のエッセー作品が、ツイッター上で話題を呼んでいます。テーマは、チャンスをつかめず、絶望していた時期に見た「夢」。有名人の生き様に勇気を得て、希望をつなぐ筋書きが、広く共感を集めているのです。創作の経緯、そして「好き」という気持ちを諦めない秘訣(ひけつ)について、作者に聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)

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なぜか階段で漫画描く「しょこたん」

話題を呼んだのは、全3ページの「漫画家の泣くとき」です。

主人公の漫画家は、長らく作品を生み出し続けてきました。しかし、仕事が軌道に乗りません。年齢ばかり重ねてきたけれど、とうとう辞めるべきタイミングがきたのかもしれない――。ある日、絶望感にさいなまれながら、寝床に就きます。

その夜、不思議な夢を見ます。上階へと続く階段で、芸能人の「しょこたん」こと中川翔子さんが、なぜか漫画を描いているのです。「とぅっとぅるー♪」。生き生きとしていて、何だかとても楽しそうに思えました。

出典:石川聖さんのツイッター(@ishikawasei)

「もう 漫画を描かなくなるのか」。中川さんと対照的に、創作を諦めようとしている自分。胸いっぱいに悲しみが湧きだし、漫画家は涙を流します。目覚めた後も、やはり泣いていました。

「自分に泣かれたら しょうがない」。漫画家はペンを動かし続け、約10年後、念願の初連載を実現します。しかし、商業的な成功を収められなかったことが明かされるのです。

出典:石川聖さんのツイッター(@ishikawasei)

では、職業を捨てたのか。そうではありません。最後のコマには、夢の中の中川さんと同じポーズで作業机に向かう、主人公の姿が。そして、こんなモノローグで物語が締めくくられます。

「今も楽しく描いています」

出典:石川聖さんのツイッター(@ishikawasei)

20年連載できない中で得た希望

「自分への問いに、自分が答えてくれる感じがいい」「とても素敵」。漫画には好意的な感想が数多く寄せられました。更に1万3千以上の「いいね」が集まり、リツイート数も2千回を超えています。

作品に盛り込んだエピソードについて、「大切な記憶」と語るのは、石川聖さん(@ishikawasei)です。代表作に、人間の生首に見える不思議な生き物「ニューモン」と、少年との交流を描いた『人間入門』(講談社)があります。

石川さんは2000年、青年誌の漫画賞で佳作に輝きます。以降、6本の読み切り作品を世に出しました。しかし、10年ほど連載が決まらず、大成への思いを温め続けたそうです。漫画に記録した出来事が起きたのは、そんな時期でした。

「30歳を過ぎた頃だったでしょうか。当時は『芽が出ないまま30代になったら、漫画家の道を諦める』との風潮を感じていました」

「そう考える要因となるような、具体的な体験をしたわけではありません。だからこそ、自分で区切りを付けねばならない苦しさがありました」

一方で、中川さんの活動を、特に追ってきたわけではないと話す石川さん。しかし、過去に中川さんが手掛けたイラストを見た際、強いエネルギーを感じたそうです。

その鮮烈な印象が、階段で絵を描くことに没頭する、夢の中の彼女を生み出したのかもしれない。そう解釈しているといいます。

「傷つく場面では、鈍感になっていい」

作品を通じて、意外な交流も生まれました。中川さんのファンたちが、石川さんのツイートを、次々拡散したのです。更に中川さん本人も、感謝のコメントを直接書き込みました。

「漫画を読んだ皆さんを不快にさせないか、正直不安でした。実際、左利きのところを右利きにしたり、『トゥットゥルー♪』をひらがな表記とした点に違和感を抱いた、との指摘が届いています。ただ、コメントをいただけたのは、恐れ多くもうれしかったです」

今回の物語から10年ほど経って、石川さんは人生初となる連載『人間入門』を担当しました。完結まで走り抜け、単行本も2巻まで発売されています。デビュー後、約20年間も不遇の日々を送りながら、希望を失わずにいられたのは、どうしてだったのでしょうか?

「自分の漫画が評価されないときは、毎回とても苦しみます。でもしばらくしたら、自然と次の話を考えている。気がついたら、ネームを作り始めているんです。描き続ける意味を考えるより先に、ストーリーが生まれてきます」

「作品の見返りには、賞金や原稿料、称賛の声などがあります。それらが仮に得られずとも、創り出した絵や言葉もまた、自分にとって代えがたい価値を持つものです。そして『自分には面白い漫画が描ける』という感覚は、なぜか消えることがない。このことが、原動力になっているのかもしれません」

何らかの分野で、ひとかどの者になりたい。そう願う人々は少なくありません。一方で、現実のままならなさを知り、「好き」という気持ちを手放したくなる場面もあるでしょう。心折れそうになったときの気構えについて、石川さんは、次のように話しました。

「うまくいかなかった日でも、眠るときは、不安なこと・マイナスなことは一切考えない。楽しいことだけ考えた方がいいです」

「そして漫画家で言えば、出版社への持ち込みで相手にされなかったり、漫画賞への投稿が落選したりしたときに、ダメージを全部引き受けない。感覚を薄め、心が落ち着いたら、反省すべきところは反省し、また漫画を描いてゆく。そんな風に、傷つくような場面では、意識的に鈍感になれるといいのではないでしょうか」

※石川さんが連載作品を持つまでの日々を描いたエッセー漫画はこちら
※石川さんの漫画家デビュー作『朝を眠る』はこちら

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