IT・科学
「もっと街路樹を増やしたら?」住民たちが考えるCO2削減アイデア
武蔵野市の気候市民会議に参加してみたら
太陽光パネル設置へ助成したら、もっと街の緑を増やしたらどうか――。東京・武蔵野市で開催されていた「気候市民会議」を知っていますか? 住民や武蔵野市で働く人たちが、気候変動について何ができるかを5回にわたって議論し、市の政策に反映してほしいと提案するものです。武蔵野市民として参加した筆者が、その体験を振り返ります。(木村充慶)
2022年7月に東京・武蔵野市で「気候市民会議」なるものがスタートしました。
武蔵野市に住む著者は偶然見た市報で知りました。
気候市民会議とは、無作為抽出などで選ばれた市民が、気候変動対策について話し合う会議です。
元々はフランスで始まり、近年、日本国内でも札幌や川崎で開催されています。
会議概要を調べると、武蔵野市では公募もおこなうと記載されていました。
生まれも育ちも武蔵野市だったことや、気候変動対策への行動を呼びかける「気候変動アクションガイド」を作成したこともあり、すぐに興味を持ちました。
気候変動対策は、多くの人々の参画が大切です。市民が参加する自治体会議に参加したことはありませんでしたが、住民が主体的に参加できる取り組みがとてもいいなと感じて、応募しました。その後、参加通知が届いて「気候市民会議」の一員となりました。
よくよく調べると、今回の武蔵野市の気候市民会議は、初の「自治体主催」の取り組みでした。
住民が中心となって議論した意見をもとに「気候危機打開 武蔵野市民活動プラン(仮称)」を作成し、市の気候変動にまつわる政策につなげていくといいます。
市民の声がどのように市政に反映されるのか。当事者として参加しながら、そのプロセスを直近で見られることも楽しみでした。
気候市民会議は7月からスタートし、11月までに計5回行われました。
毎回テーマに沿った講義があり、その後、グループワークを行います。
1回目は「気候変動の全般」、2回目からは「もの」、「移動」、「住まい」といったテーマで行われ、最後の5回目は今までの議論を踏まえて、武蔵野市で今後どのような対策をすれば良いかまとめるという流れでした。
気候市民会議全体は68人で構成されていて、10代から80代まで老若男女、バックグラウンドもさまざまな方々がいました。住民だけでなく、武蔵野市に勤務している人たちも参加しています。それを5~7人の10グループほどに分けて議論します。
私が参加したグループには、学生や専業主婦、吉祥寺の店舗で働く方、定年退職された方がいました。
会社などでグループワークをすると、どうしても同じコミュニティや同じ考え方の人の集まりになってしまうことが多いです。
しかし、ここでの共通点は武蔵野市に関わりがあるということだけ。年齢から仕事から、家庭環境まで本当に様々でした。
最初は不安でしたが、みなさんとても話しやすく、すぐに意気投合しました。1回目が終わった後、すぐにみんなでLINEグループを作りやりとりを始めるほどでした。
気候変動の大きな原因となっているのは、温室効果ガスのひとつである二酸化炭素(CO2)です。
初回には、市の担当者から武蔵野市のCO2排出の状況を教えてもらいました。
CO2排出には、製造や農業などの「産業」、自動車や鉄道などの「運輸」、店舗やオフィスなどの「業務」、そして、個人ごとの「家庭」があります。
全国的には「産業」や「運輸」などのビジネスのCO2排出量が多いとされていますが、武蔵野市では「家庭」からのCO2排出が一番多いのが特徴でした。
私たちのグループでは、エネルギー対策への意見が多く出ました。
「太陽光パネルの設置」「再エネのための補助制度が必要」「家族でもっとエネルギーの話ができるようにしよう」といった意見でした。
井の頭公園がある緑豊かな街という印象もある武蔵野市。もっと緑を増やしていこうといった意見もありました。
また、移動についての意見も多かったです。
武蔵野市には、コミュニティバスのさきがけとされる「ムーバス」があります。公共交通機関をもっと充実させ、都心に行かなくても地域で生活できるようにしてほしいといった意見もありました。
私はよく自転車に乗っているので、「夏は直射日光で暑い。街路樹を増やしてもっと快適に自転車が乗れるようにしてほしい」と、自転車移動を増やすための意見を話しました。
すると別の方から「樹木の里親制度をつくって、住民がどんどん木を増やせるようにしたい」という意見が。
地域にひも付いたいろいろな意見を繋げることで、面白い取り組みになりそうだなと感じました。
グループワークのルールは、「みんなの人の話を聞き、否定をしない」でした。
楽しい会議が続きましたが、正解は一つではないので、難しいと思うこともありました。
自動販売機は電気の無駄だから減らすべきではという議論があがりました。
もちろん、その通りだとは思うのですが、私の父は自販機で清涼飲料水や牛乳などの販売をしていました。
父に限らず、それがいきなりゼロになると、仕事を失う人が出てしまいます。なので、一律に規制をするのではない段階的なやり方もあるのではないかと提案しました。
ただし、これも具体的な現場が見えるからできる議論です。毎回身近な問題意識から気候変動を考えることができました。
各グループがこれまでの議論を踏まえて、武蔵野市としてどんな対策をしていくか話し合った11月の最後の会議。それを全員に発表しました。
全体的には、太陽光パネル設置の助成など再生可能エネルギーの推進と、電気の消費量やCO2排出量を可視化するといった提案が多かった印象です。
住民が実際に「気候変動対策」へのアクションを始めようとしても、どのくらい減らせるか、どのくらい減ったかが分からないとモチベーションが湧いたり持続したりしづらいです。そんな意味で、対策や効果の可視化はとても効果的です。
「気候変動対策」というと、世界規模のことで、身近なものとして捉えづらい側面はあります。
しかし、地域によって排出源となっている要因が違うからこそ、地域の人々で対策を考えることはとても意味があると感じました。
実際に気候市民会議に参加して、身近なことから考えるとアイディアも考えやすいなと思いました。
会議のアドバイザーとして「気候市民会議」に参加していた東京大学・国立環境研究所の江守正多さんからは、「今後も気候変動に関心を持ってほしい」とメッセージが贈られました。
「会議の開催期間にも、気候変動について話し合う国際会議COP27があったり、ゴッホのひまわりの絵にトマトスープをぶつけた環境活動家の事件があったりしました。そういうニュースにぜひ関心を持ってほしいです」
「ゴッホの事件も、それが何を意味して、それに賛成なのか反対なのかを考えてほしい。興味を広げていくことが、市や、企業、そして国を動かすことにつながります」
都内でミルクスタンドを運営している筆者が関わる酪農業界では、牛のゲップや糞尿から排出される温室効果ガス「メタンガス」が問題視されています。
実は、日本では牛のゲップよりも水田の方がメタンが出ています。だからこそ「なぜ牛のことばかり?」と感じてしまうこともあります。
でも、興味を持って調べたり、酪農家に聞いてみたりすると、酪農業界では牛の餌である輸入穀物の流通過程のCO2排出量が大きいことも分かりました。
乳牛を放して飼う「放牧酪農」では、草によって土壌にCO2を固定化して、空気中へのCO2排出を抑える効果が高いということも知りました。
ただし、考えたり、知識をつけるだけでは現状は変わっていきません。それをどう実現していくか。武蔵野市が発表する気候危機打開武蔵野市民活動プラン(仮称)にも注目しつつ、自分自身も具体的に行動していきたいと思っています。
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