赤ちゃん連れで出かけても外出先に授乳室がない、父親が使えるおむつ交換台がない……。そんな課題を解決するために開発された、設置型ベビーケアルーム「mamaro(ママロ)」。2017年に発売されて以降、累計設置台数は440台を超えました。名前には「ママ」と入っていますが、当初から父親の利用も想定していたそうです。開発した横浜市のベンチャー企業「Trim(トリム)」の代表・長谷川裕介さんに話を聞きました。
<mamaroは高さ200センチ、幅180センチ、奥行き90センチの、移動可能な個室型ベビールーム。1畳ほどのスペースに、ソファやモニター、コンセントが設置され、授乳やミルク、おむつ替えなどに利用できます。無料で使え、1回の利用目安は20分。防犯の観点などから、時間を超えると通知されます。>
ーー開発の経緯を教えてください。
もともと授乳室やおむつ交換台の検索地図アプリを開発・運営していました。授乳室やおむつ交換台がある場所をユーザーが投稿できるアプリなのですが、情報の提供にとどまってしまい限界を感じていました。
2016年当時、私たちが把握していた授乳室の数は全国で1万8000施設ほどです。当時は子どもが97万人生まれていたなかで1万8000施設では少ないと感じていましたが、アプリでは根本解決に至っていませんでした。
授乳室やおむつ交換台がある場所を知れたとしても、問題はその場所が少ないことです。情報だけでは解決が難しいと思い、mamaroの開発に至りました。
――ユーザーの意見も参考にしたのでしょうか。
2016年に100人以上の母親にヒアリングする機会をいただき、赤ちゃん連れで外出する不便さを痛感しました。
一つは荷物が多いということです。おむつや着替え、ミルクなど様々なものを持って出かけるので重くなります。また、車がないとベビーカーでの移動が大変という意見もありました。車がないと電車移動になりますが、そもそも電車に乗るのに気を遣う、乗っていいのかわからないという声も聞きました。
また、そもそもお出かけへの「期待値」が高いということも分かりました。産後すぐは母親も赤ちゃんもほとんど家から出ない生活になります。そんななか、お出かけにはようやく外に出られるという開放感があること、新生児期を過ぎて子どもの成長を感じるタイミングと考える方が多くいました。
赤ちゃんとのおでかけはハッピーなものというイメージですが、実際はハード。想像以上に疲れてしまい、「子育ては大変」と思う方が多いとヒアリングを通して感じました。
ーー名前に「ママ」と入っていますが、母親が使うことを想定してのことですか?
mamaroは「ママルーム(mama room)」の略ですが、母親に使ってほしいという意味ではなく、母親の負担を減らしたいというのが当社の考え方です。母親がほっとできる自分の空間が外にもあればいいのではないかと名前をつけました。
授乳室の場合「ナーシングルーム」と訳されますが、授乳だけに使ってほしくない思いがありました。授乳用、おむつ替え用といった使用目的に合わせた名前にすると自由度がなくなると感じ、用途はみなさんに選んでいただければいいと考えています。
私たちは極力「授乳室」という言い方は避け、「ベビーケアルーム」と変えていっています。そういった言葉が普及していくとより自由度が増し、男性も積極的に使っていただけるかと思います。
赤ちゃん休憩室では、赤ちゃんを抱っこしている父親でも入ったときに厳しい視線を感じることがあると聞きます。mamaroは個室なので人目は気になりません。
最初から父親も利用可と明記し、ユニセックスなデザインを心がけていました。父親が子どもの世話で使うことによって女性の空き時間ができ、その間にお買い物などを楽しんでいただきたいですし、男性が子どもと出かける際の負担も減らしたいと思っています。
また、父親からよく聞くのが、女の子の着替えで人目が気になるということです。赤ちゃんだけでなく、3、4歳でも服が汚れて着替えさせることはあります。その際に「男性トイレで着替えさせていいのか」と感じる父親もいるようです。mamaroは中から鍵を閉めて、更衣室としても使ってもらえます。
ーー授乳もできるスペースですが、父親も使えることへネガティブな反応はあるのでしょうか?
父親も利用できることを不安に感じる母親もいますが、そうでない方もいらっしゃいます。ありがたいことに、当社のアンケートではポジティブな意見を多くいただいています。
しかし、ユーザーが女性専用かどうかを選べることが重要で、選べるだけの数が普及していないことが問題だと思っています。不安視される母親への対応として、女性専用の授乳室を選べるくらい世の中に授乳室が普及していくといいのではと考えます。
母親だけが使える環境だと、父親側の意識が「母親に任せっきり」になってしまったり、「使いたいけど母親しか入れないから」という言い訳になってしまったりするのではないかとも考えました。
父親の利用者が1割未満とまだ少ないのですが、使いづらさがあるのではないかという課題も感じています。ただ、「男性利用者が多すぎると女性が使いづらい」というご意見もいただくので、母親も父親も使いやすく工夫し、バランスをとっていきたいですね。
ーー今後どのような展開を考えていますか?
私の将来図としては、授乳室や赤ちゃん休憩室がコンビニや商店街といった街のいたるところにあってもいいと思っているんです
おこがましいのですが、当社では「おでかけの環境整備」はインフラ事業だと考えています。国が整備しないといけないところを我々がやらせていただいているという思いです。
みなさんの意見も大切だと思っていますので、母親に限らず父親や過去に子育てを経験された方たちからも「駅やお出かけ先のあらゆる場所に授乳室や赤ちゃん休憩室が必要だ」と声を上げていただきたいです。
mamaroについては、中での体験をリッチ化していきたいと思っています。
例えば、モニターを通して子育て相談やお子さんの健診ができたり、親のストレス値を計測する機能を追加したり、中でクーポンを発行できてその施設で割引を受けられたり。20分の滞在時間に付加価値をつけていきたいと考えています。
また、液体ミルクや個包装のおむつをmamaroの中や横で販売できると、お出かけ時の荷物が減り、負担を少なくできるのではないかと思います。
様々なサービスを通して、みなさんが困っていることを解決していきたいですね。
記事の感想や体験談を募ります。いずれも連絡先を明記のうえ、メール(
dkh@asahi.com)で、朝日新聞「父親のモヤモヤ」係へお寄せください。