連載
#11 親子でつくるミルクスタンド
沖縄の牛乳パック、なぜ946ml? 殺菌方法で生まれる「味の違い」は
独自の乳文化が育まれる沖縄。スーパーをのぞくと、牛乳パックは1リットルではなく946mlで、その値段は……? 暑い地域では、一般的な乳牛は育てづらい現状がありますが、沖縄ではどうしているのでしょうか。沖縄の酪農家のもとを訪ねると、沖縄だけではない酪農界が抱える〝課題〟もみえてきました。(木村充慶)
日本の酪農は、寒さに強いと言われる「ホルスタイン牛」が過ごしやすい気候の北海道で盛んです。「牛乳」というと思い浮かべる一般的な白黒柄の牛です。
都内でミルクスタンドを運営し、各地の牧場を訪ねている筆者は、以前から沖縄には独自の乳文化があると聞いていました。その秘密を探るべく、11月末から12月頭にかけて沖縄本島、宮古島、石垣島を訪れました。
牛乳がどのように売られているのか、まずはスーパーに行ってみました。
まず驚いたのは牛乳の容量です。
牛乳パックというと1リットル、900mlといったキリのいい数字を想像する人が多いでしょう。沖縄ではほとんどが946ml。牛乳以外のジュースなどのパックもほぼ946mlでした。
中途半端な量の理由は、沖縄がアメリカに統治されていた影響だといいます。
アメリカでは体積の単位として「リットル」ではなく「ガロン」を使用。沖縄でも統治下時代にガロンがよく使われていました。だから、1リットルに一番近い「4分の1ガロン=946ml」になったそうです。
沖縄の酪農家たちは、当時の製造設備は米国基準でつくられていたものも多く、現在までガロンの影響が続いているのではないかと言います。
本州や北海道の牛乳と味は違うのか……。スーパーにある牛乳を一通り買って飲んでみると、どれもおいしくて、びっくりしました。
クセがなく、飲みやすい。そして、しっかり甘みもあり、満足感のある牛乳ばかりでした。
その理由のひとつに、殺菌方法があるのではないかと感じました。
牛乳の「殺菌方法」の欄を見ると、「85℃15秒」や「85℃15分」と記載されているものが多数見られました。
一般的な牛乳の殺菌は、120~130℃で1~2秒程度おこなう「超高温殺菌」が大半を占めています。
大量に製造するために適している殺菌方法ですが、牛乳が高温になってたんぱく質が変化するため、「もともとの生乳の良さが薄れる」という意見もあります。
63~65℃で30分程度殺菌する「低温殺菌」という方法もあります。製造時間はかかりますが、「生乳本来の味がするから好き」という声も多い殺菌方法です。
沖縄の「85℃の殺菌方法」はそのどちらにも当てはまりません。
しかし、筆者には超高温・低温両方の良さを感じられました。超高温殺菌らしい牛乳の甘みを感じつつ、低温殺菌のような風味とサラッと感がありました。
別の酪農関係者に聞くと、離島という背景から、もともと穀物や燃料が高かったことも一因だと言います。現在だけでなく、これまでも日本一価格が高かったとのことです。
筆者は、これは沖縄だけの問題ではないと思いました。
コロナ禍や、ロシアによるウクライナ侵攻、円安なども重なって、穀物や燃料の価格は全国的に高騰しています。
まだ100円台で牛乳が買える地域も多いですが、今後、東京をはじめさまざまなところで同じように価格が上がる可能性があると考えられます。
たんぱく質やカルシウムは、牛乳以外からも取れる現代。価格が高くなる中で、改めて牛乳の価値が問われているとも感じました。
筆者は、放牧で牛乳をつくっている牧場を中心に訪れています。
しかし沖縄は温暖な気候で、特に夏は、暑さに弱い乳牛を放牧で育てるのは大変です。
一方で、冬はそれほど寒くならず、牛の餌である草が年中生えるという利点もあります。
北海道の場合、冬は草地が雪で覆われるため、牛たちは牛舎で暮らし、春から夏に採って乾燥させた牧草や購入した餌などを食べている場合がほとんどです。
そのため通年で放牧している牧場はほとんどありません。
その点、沖縄では通年で放牧できるため、牛乳も一年を通して味が安定するとも言われています。
次回は、さまざまなチャレンジをする沖縄の牧場を紹介します。
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