連載
#1 D×Pと伝える若者の声
〝子育て支援〟が気になる、親になった18歳 「若者をもっと見て」
「子育てをするとなると意識って変わるんだ」
10月、「芽愛さん」(仮名)は、通信制の高校に在籍しながら子どもを産んだ。
18歳での出産となると、身の回りの同世代で親になる友人はほとんどいなかった。
5月、ツイッターで、子育ての情報を収集するためのアカウントを作った。「パートナーはいるけど、家族以外にも子育ての経験をしている人から情報を得て不安を取り除きたかった」
でも、ツイッターには、同世代で親になった経験を持つ人たちがいた。もちろん、同世代以外も。
「このベビー用品ってあった方がいいんやろうか」。相談すれば、使った感想を聞かせてくれる人もたくさんいた。
「たくさんの子育て中の人とつながれて、うれしかった」
最近、ツイッターをのぞくと「子育て支援」に関する政策に所得制限があることや、近くクーポンが支給されることなどを知った。
「子育てにかかるお金については、調べた限りではかなりかかることはわかっている」と話す。
現在、芽愛さんは、実家の援助を受けながら、これまでバイトなどで貯めてきた貯金をおむつ代や洋服代に充てている。
ただ、両親それぞれから虐待を受け、一時は自立援助ホームで過ごしたという事情も抱えている。そのため、高校を卒業する来年の春以降は、パートナーと公営団地に暮らしながら働き、子どものために使えるお金も稼ぎたいと思っている。
「子育てって赤ちゃんの間のことだけじゃなくて、十数年単位の話。自分の子どもが『何かしたい』と思うようなことがあれば、させてあげたい」
いま、国が打ち出している子育て支援は「切れ目だらけに見える」。
年少扶養控除が2012年度に廃止になり、児童手当には所得制限がかかることも、ネットで知った。
「一時的な支援ではなく、長い目で見て支援してもらうのが一番。子育ての資金不足で子どもを育てたくても育てられない人もいるんじゃないかな」
妊娠し、子育てを意識してから、政治への視線は大きく変わった。
いままでは、テレビなどのニュースを見ていても「ふーん」と思うくらいだった。
ところが、いざ自分が親になるとわかってからは、同じような場面でも「『政治家の皆さん、待って。視野をもっと広く持って』と、つっこみたくなるようなこともある」。
「そのくらい、子育てをするとなると意識って変わるんだ」。そう感じた瞬間だった。
「自分の行動で社会は変わると思う?」
その質問への、芽愛さんの答えは「わからない」。理由は「私ひとりでできることではないから」。
芽愛さんは性自認が揺らいだ時期があった。「ジェンダーの話題を扱ったテレビやネットの記事をみると、かぶりつくように見ていた」。今年あった参院選でも、ジェンダーについて主張していた候補者のことを強く記憶している。
いまも「男性らしさ」「女性らしさ」に縛られることに違和感を感じている。「自分は男性でも女性でもない、中性という意識。『子どもを産んだから女性』とは決めつけないでほしい」と、率直な思いを語る。
一方で、ジェンダーについてだけを深く考えるつもりはない。
「それよりもまず、生きやすい世の中にならないとなにも変わらない」と思うからだ。
男女で異なる服装や、生き方の「男らしさ」や「女らしさ」――。そんなものがそもそもなければ、ジェンダーで悩む必要なんてない。そう考えている。
ジェンダー問題に限らず、「誰もが生きやすい世の中になってほしい」。
当初、18歳の方が気になるニュースとして「子育て支援の所得制限」を挙げてくれたとき、私は「自分が扶養される立場でも気になるのか」と、「子」の立場を想定して話を聞き始めました。
ところが、芽愛さんは自分が親である立場から、この話題を気にしていました。
取材中も、子育て政策を詳しく調べた上で自分なりの考え方を話してくれた芽愛さん。自分が想定する「像」が狭かったことを、とても恥ずかしく思いました。
一方で、若くして妊娠・出産した場合、経済基盤が整っていなかったり、学業との両立に困難を抱えたりすることは、現状としてあります。
芽愛さんの場合、高校卒業後は実家の援助を受けずに子育てをしていこうとしています。自立への意志を持って親となった芽愛さんを、社会全体で支えていく必要があるのではないかと感じます。
そして、自分自身の生活を保つだけでも大変な中、それでも、だからこそ、社会への関心を強く持っている18歳に、私は何ができるだろうかと考えさせられました。
芽愛さんは「若者に目を向けてほしい。もっと見てほしい」と話していました。
【D×Pと伝える若者の声】
withnewsと、困りごとを抱えた全国の10代とつながりを持つNPO「D×P」は、「若者の声を届ける」ための共同企画を始めます。
取材対象は、D×Pが運営する相談窓口「ユキサキチャット」の登録者のうち、取材に応じてもらえる10代。いま社会に対して感じていることや、問題意識を持つに至る自身の背景などについてwithnews編集部が取材します。
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