連載
自分の暮らしのCO₂排出量、知ってる? 効果的な削減アクションへ
「じぶんごとプラネット」サービス開始
気候変動の対策として二酸化炭素(CO₂)排出削減が必要というけれど、一体どれくらい減らせばいいのか――。自分の暮らしの中での排出量を調べ、減らすための具体的な行動プランを提案してくれるサイト「じぶんごとプラネット」が公開されました。開発者のひとり、国立環境研究所の小出瑠(りゅう)さんに話を聞きました。(木村充慶)
住居、食、移動、消費財(モノとサービス)のカテゴリーがあり、6〜10問ほどの質問に答えると、それぞれ自分の消費行動がどれくらいCO₂を排出しているか(※)がわかります。平均と比較して、自分がどれくらいなのかも教えてくれます。
※サイトで分かる「CO₂の排出量」は、生産時に排出された量ではなく、消費を通してサプライチェーン全体で排出される量 (=カーボンフットプリント)をベースにしています。
さらに、CO₂を削減するためにどんなことをすればいいか、その行動でどれくらいCO₂排出量が減るかも教えてくれます。
日本人が生活で排出するCO₂は平均7.1トンほどとされていますが、これを最終的にはゼロに近づけていくことが求められています。
じぶんごとプラネットを使えば、排出量を把握しつつ、効果的な削減のためのアクションが分かります。つまり、CO₂排出量を減らす具体的な筋道が見えてきます。
このサービスを作ったのは、国立環境研究所と、IT技術を生かして市民が課題解決を行う団体「Code for Japan」のメンバーたちです。
国立環境研究所の小出さんは、家計が消費する製品やサービスの中で生じるCO₂の排出「ライフスタイル・カーボンフットプリント」の研究をしています。
カーボンフットプリントとは、製品やサービスを使うときのCO₂のほか、生産・流通や、使用後に廃棄する過程も含めた全ての排出量をまとめたものです。
間接的な排出も把握することで、個人の生活でどのくらいのCO₂排出量があるのか把握することにつながります。
海外では、すでにライフスタイル・カーボンフットプリントを計測するサービスがあります。
家計簿アプリのように、自分が使った電気やガス、水道などの量を入れると、すぐにCO₂排出量を教えてくれます。とても便利ですが、国や地域によって産業構造などが異なるため、他の国のサービスだと正確な数字にはなりません。
そこで誕生したのが「じぶんごとプラネット」です。
これまで同様のサービスがなかった理由を、小出さんは「海外と比べて日本の環境への意識は低く、5年くらい遅れている印象があります」と指摘します。
「自宅の電力を再エネに」「マイカーを電気自動車に」「地元で採れた野菜を食べる」など自分ごとになる具体的なアクションによって、どれくらい排出量が削減するか紹介しています。都市ごとのデータも切り替えられます。
しかし小出さんは、「都市ごと」の排出量データだけでなく、個人の排出量も分かるようにしたいと考えていました。
市町村で開かれた気候変動対策の市民会議に、有識者として参加した時にも「もっと自分事化してもらわなければ」と改めて感じたといいます。
「会議では、市の平均的なCO₂排出量のデータを紹介しました。『自分たちの地域の排出量』として意味はあるのですが、個人によって排出量は異なります。1年の生活に具体的に落として見ていくと、それが大きく表れるんです」
市民会議のワークショップでも、個人の生活の具体的な影響を知った方が、議論が深まっていくと感じたといいます。
「個人ごとの排出量や対策のインパクトが分かれば、『街づくりではどうするか』『まとまってこんな取り組みをしたらどうか』といった話に発展していくなと思いました」
個人の排出量が分かるサービスを作ろうと議論するなかで、「シビックテック」の団体「Code for Japan」と出会います。
シビックテックとは、IT技術を生かして市民が課題解決に取り組むこと。プログラマー・デザイナー・弁護士といった様々な専門分野をもった市民が参加して、ある社会課題をテーマにサービスを開発していきます。
小出さんは「せっかく作るなら、どんな人・組織でも使えるサービスにしたいと思いました。さらに、このサービスから、より良いサービスが生まれる流れを作りたいと思いました」と振り返ります。
CO₂排出量を計算するベースの数値や式は、小出さんたち国立環境研究所のメンバーがつくり、サービス開発はCode for Japanのエンジニアやデザイナー、シビックテックの開発イベントに参加したボランティアたちが担いました。
昨年秋からスタートした「じぶんごとプラネット」のプロジェクトですが、みんなで議論を重ねながら開発を進め、今年8月に完成しました。
全員が排出量を下げることは簡単ではありません。冬の寒さ、夏の暑さがひどい地域では、暖房や冷房機器を使う頻度が増え、CO₂排出量は増加してしまいます。また、経済的な事情から、費用のかかる対策が実現できないこともあるでしょう。
それでも小出さんは「工夫次第でうまくいく行動もあります。企業や政策の後押しがあれば広がるアクションもあります。そういったことを知り、社会全体の脱炭素化を考えていく上でもまずCO₂排出量を調べることが大切なんです 」と話します。
まずは自分の排出量を調べて、具体的な対策を考えてみるのはどうでしょうか。それを周りの人とシェアして、それぞれの排出量について語ってみてもいいかもしれません。
周囲の人々が気候変動に興味を持つきっかけになるかもしれませんし、企業や組織に「うねり」をつくる流れになるかもしれません。
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