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連載

#13 気候変動を考える「1.5℃の約束」

自分の暮らしのCO₂排出量、知ってる? 効果的な削減アクションへ

「じぶんごとプラネット」サービス開始

質問に答えると、自分の暮らしのCO₂排出量が分かる「じぶんごとプラネット」
質問に答えると、自分の暮らしのCO₂排出量が分かる「じぶんごとプラネット」 出典: じぶんごとプラネット

目次

気候変動の対策として二酸化炭素(CO₂)排出削減が必要というけれど、一体どれくらい減らせばいいのか――。自分の暮らしの中での排出量を調べ、減らすための具体的な行動プランを提案してくれるサイト「じぶんごとプラネット」が公開されました。開発者のひとり、国立環境研究所の小出瑠(りゅう)さんに話を聞きました。(木村充慶)

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1.5℃の約束※クリックすると特集ページに移ります。

連載「1.5℃の約束」:世界各国は昨年11月、平均気温上昇を「1.5℃に抑える約束」を表明しました。気温上昇は異常気象や生物多様性の喪失、食糧不足・貧困といった影響をもたらしています。withnewsでも、さまざまな視点から「気候変動」を考えます。

「じぶんごとプラネット」開始

「気候変動問題」はいまや待ったなしの状態です。政府はもとより企業や団体などさまざまな組織がCO₂排出量(※)の削減を進め始めています。しかし、現在の対策だけでは温暖化は止められないと言われています。

※温室効果ガスには、CO₂のほかメタンやフロンなどがありますが、この記事ではそれらがCO₂換算されたものとして、まとめてCO₂排出量と記します。

危機感を持った個人も、若い世代を中心に声を上げ、自転車移動やマイボトル利用、洋服のリサイクルといった「できることから」アクションを起こす人も増えています。

一方で、自分の対策にどれくらい削減効果があるのか知っていますか?

自身のCO₂排出量と、排出を減らす行動プランを提案してくれるWebサービス「じぶんごとプラネット(https://www.jibungoto-planet.jp/)」が公開されました。
「じぶんごとプラネット」の画面デザイン。親しみやすいデザイン。CO₂排出量がどれくらいなのか、多くの人に知ってもらいたいと小出さんは話します
「じぶんごとプラネット」の画面デザイン。親しみやすいデザイン。CO₂排出量がどれくらいなのか、多くの人に知ってもらいたいと小出さんは話します 出典:じぶんごとプラネット

住居、食、移動、消費財(モノとサービス)のカテゴリーがあり、6〜10問ほどの質問に答えると、それぞれ自分の消費行動がどれくらいCO₂を排出しているか(※)がわかります。平均と比較して、自分がどれくらいなのかも教えてくれます。

※サイトで分かる「CO₂の排出量」は、生産時に排出された量ではなく、消費を通してサプライチェーン全体で排出される量 (=カーボンフットプリント)をベースにしています。

まず、ひとりの暮らしで発生する炭素の排出量を「知る」ことを呼びかける「じぶんごとプラネット」
まず、ひとりの暮らしで発生する炭素の排出量を「知る」ことを呼びかける「じぶんごとプラネット」 出典:じぶんごとプラネット

さらに、CO₂を削減するためにどんなことをすればいいか、その行動でどれくらいCO₂排出量が減るかも教えてくれます。

日本人が生活で排出するCO₂は平均7.1トンほどとされていますが、これを最終的にはゼロに近づけていくことが求められています。

じぶんごとプラネットを使えば、排出量を把握しつつ、効果的な削減のためのアクションが分かります。つまり、CO₂排出量を減らす具体的な筋道が見えてきます。

日本の環境意識「5年くらい遅れている」

このサービスを作ったのは、国立環境研究所と、IT技術を生かして市民が課題解決を行う団体「Code for Japan」のメンバーたちです。

国立環境研究所の小出さんは、家計が消費する製品やサービスの中で生じるCO₂の排出「ライフスタイル・カーボンフットプリント」の研究をしています。

カーボンフットプリントとは、製品やサービスを使うときのCO₂のほか、生産・流通や、使用後に廃棄する過程も含めた全ての排出量をまとめたものです。

間接的な排出も把握することで、個人の生活でどのくらいのCO₂排出量があるのか把握することにつながります。

インタビューに答える国立環境研究所 小出瑠さん
インタビューに答える国立環境研究所 小出瑠さん

海外では、すでにライフスタイル・カーボンフットプリントを計測するサービスがあります。

家計簿アプリのように、自分が使った電気やガス、水道などの量を入れると、すぐにCO₂排出量を教えてくれます。とても便利ですが、国や地域によって産業構造などが異なるため、他の国のサービスだと正確な数字にはなりません。

そこで誕生したのが「じぶんごとプラネット」です。

これまで同様のサービスがなかった理由を、小出さんは「海外と比べて日本の環境への意識は低く、5年くらい遅れている印象があります」と指摘します。

CO₂排出量を調べるのが第一歩

小出さんは、排出量を減らすには、まず個人レベルでどれぐらい排出しているかを知ることが大切だと語ります。

「人によってCO₂排出量は全く違います。年間5トンくらいの人もいれば、20トンくらいと数倍になる人もいるんです」

そこで、日々の生活につながる衣食住の部分から、どのくらいCO₂排出量を出しているか簡単に認識できるようにしようと考えました。

2021年、小出さんは国立環境研究所を中心とする研究メンバーと、ライフスタイルごとのCO₂排出量の違いが見られる「国内52都市における脱炭素型ライフスタイルの選択肢:カーボンフットプリントと削減効果データブック(https://www.nies.go.jp/whatsnew/20210719/20210719.html)」を開発しました。
ライフスタイル・カーボンフットプリントの可視化インタラクティブツール。自分のアクションがどのくらいの削減効果を持つかが分かります。著者もこのサイトのデータをもとに「気候変動アクションガイド」を制作しました
ライフスタイル・カーボンフットプリントの可視化インタラクティブツール。自分のアクションがどのくらいの削減効果を持つかが分かります。著者もこのサイトのデータをもとに「気候変動アクションガイド」を制作しました

「自宅の電力を再エネに」「マイカーを電気自動車に」「地元で採れた野菜を食べる」など自分ごとになる具体的なアクションによって、どれくらい排出量が削減するか紹介しています。都市ごとのデータも切り替えられます。

「自分の1年の生活」に落として考える

しかし小出さんは、「都市ごと」の排出量データだけでなく、個人の排出量も分かるようにしたいと考えていました。

市町村で開かれた気候変動対策の市民会議に、有識者として参加した時にも「もっと自分事化してもらわなければ」と改めて感じたといいます。

「会議では、市の平均的なCO₂排出量のデータを紹介しました。『自分たちの地域の排出量』として意味はあるのですが、個人によって排出量は異なります。1年の生活に具体的に落として見ていくと、それが大きく表れるんです」

市民会議のワークショップでも、個人の生活の具体的な影響を知った方が、議論が深まっていくと感じたといいます。

「個人ごとの排出量や対策のインパクトが分かれば、『街づくりではどうするか』『まとまってこんな取り組みをしたらどうか』といった話に発展していくなと思いました」

シビックテックの力を活用

個人の排出量が分かるサービスを作ろうと議論するなかで、「シビックテック」の団体「Code for Japan」と出会います。

シビックテックとは、IT技術を生かして市民が課題解決に取り組むこと。プログラマー・デザイナー・弁護士といった様々な専門分野をもった市民が参加して、ある社会課題をテーマにサービスを開発していきます。

小出さんは「せっかく作るなら、どんな人・組織でも使えるサービスにしたいと思いました。さらに、このサービスから、より良いサービスが生まれる流れを作りたいと思いました」と振り返ります。

「じぶんごとプラネット」では具体的なアクションも提案してくれます
「じぶんごとプラネット」では具体的なアクションも提案してくれます 出典:じぶんごとプラネット

CO₂排出量を計算するベースの数値や式は、小出さんたち国立環境研究所のメンバーがつくり、サービス開発はCode for Japanのエンジニアやデザイナー、シビックテックの開発イベントに参加したボランティアたちが担いました。

昨年秋からスタートした「じぶんごとプラネット」のプロジェクトですが、みんなで議論を重ねながら開発を進め、今年8月に完成しました。

社会全体の脱炭素化を考える

全員が排出量を下げることは簡単ではありません。冬の寒さ、夏の暑さがひどい地域では、暖房や冷房機器を使う頻度が増え、CO₂排出量は増加してしまいます。また、経済的な事情から、費用のかかる対策が実現できないこともあるでしょう。

それでも小出さんは「工夫次第でうまくいく行動もあります。企業や政策の後押しがあれば広がるアクションもあります。そういったことを知り、社会全体の脱炭素化を考えていく上でもまずCO₂排出量を調べることが大切なんです 」と話します。

専門家たちとともに筆者が制作した「気候変動アクションガイド」
専門家たちとともに筆者が制作した「気候変動アクションガイド」

まずは自分の排出量を調べて、具体的な対策を考えてみるのはどうでしょうか。それを周りの人とシェアして、それぞれの排出量について語ってみてもいいかもしれません。

周囲の人々が気候変動に興味を持つきっかけになるかもしれませんし、企業や組織に「うねり」をつくる流れになるかもしれません。

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