「昨日のニュース見た? もう、あきれちゃった」。そんな話をしながら夜ごはんを食べた友人との別れ際、ふと自分が「楽しくない話ばかりしちゃった」と感じて――。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られる漫画家の深谷かほるさんが、ツイッターで発表してきた「夜廻り猫」。今回は、友人と過ごした女性のエピソードです。

悪いニュースが多すぎて
「昨日のニュース見た?もうあきれちゃった」。待ち合わせした友人に、女性は喫茶店で話しかけます。
友人は「……どれ?」と苦笑い。女性も「悪いニュースが多すぎて、どの話か分からないよね」と応じます。
「我々は長くないからいいとして、若者は気の毒だわ」と言うと、友人は「でもあなたは若いわね。現役だからえらいわ」といいます。
女性は「負荷をかけて早く死のうと頑張ってんの 最高の老後対策はそれしかない」と冗談でかえします。
夜ごはんを食べた別れ際、女性はふと居心地の悪い思いになって「なんだか私、楽しくない話ばかりしちゃった」と下を向きます。
すると友人は、「あはは」と笑って「また来月ね」とほほ笑んでくれたのでした。
街を回っていた猫の遠藤平蔵は、うれしそうな女性を見かけて「おや 何かいいことありました?」と声をかけるのでした。
「大事なことほど話せない」では…
作者の深谷さんは、「私たちはいつの間にか、『大事なことほど話題にできない……』となっていないでしょうか」と問いかけます。
「『政治と宗教の話はするべきでない』とも言われますが、そんなことを言ってる場合ではないと思います。社会状況が緊迫している今こそ、ちゃんと話したいです。ただ、話し方が一方的にならないように、相手の話も聞くように気をつけた方がいいとは思いますが」と指摘します。
深谷さんは、「まだまだ勉強は足りませんが、私は原発や憲法改正、軍備の予算倍増にも反対です。そこはブレずにやっていきたい」といいます。
「でも、そんなことを語りかけたら、みんな黙ってしまう、そして互いに話さないうちに、いつの間にか大事なことがどんどん決められていく……そんな社会にはしたくないですね」

猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞、単行本9巻(講談社)を2022年11月22日に発売予定。講談社「モアイ」で月・金曜夜に「夜廻り猫」を、講談社「コクリコ」で木曜に夜廻り猫スピンオフ「居酒屋ワカル」を連載中。