連載
#130 #父親のモヤモヤ
「生産的なことしていない…」ネガティブな育休の印象、変えられる?
私は、仕事と子育てに葛藤する男性を描いた「#父親のモヤモヤ」という企画を3年半ほど担当しています。私自身、共働きの妻と、娘(6)を子育て中です。今回は、ツイッター社の分析をもとに、これからの育児を考えます。
ツイッター社が「育児休業」「育児休暇」など、育休にまつわる単語を使ってツイート量を分析したところ、2019年は約70万件のつぶやきがありました。2020年は約100万件に増加。その翌年は微減しましたが、今年は、同じペースで進むと、120万件程度まで増えると見込まれています。
育休に関する会話が、年を追うごとにツイッターで話題にのぼりやすくなっています。
ただ、2021年9月から1年分のツイートを分析すると、中身はネガティブと判定されたものが半数以上を占めました。
テキストの感情を推定するプログラムを使った解析では、ネガティブとされたものが52%でした。ポジティブは35%。ニュートラルと判定されたものが13%あり、ネガティブなツイートが強めに出たことが分かります。
ネガティブなツイートは、次のようなものです。
長期的に職場を離れることで、周囲に迷惑がかかるのではないか、昇給や昇進に影響があるのではないか、そんな不安が交錯しています。
育休後についても、仕事を続けられるか、両立は可能かといった苦悩が見てとれます。ツイッターでは「育休明けのワンオペに震えている」といった女性のつぶやきもありました。
育休を取得する人だけでなく、周囲の人も声をあげていて、育休が多くの人に影響していることがうかがえます。
もちろん、育休に対するポジティブなツイートもありました。夫婦で育休を取ると愚痴をこぼし合える。1年の育休は「最幸」だった――。
ただ、少なくない人が、育休に対するネガティブな感情を抱いていることは事実です。
原因は、個別ケースごとにさまざまあり、複雑に絡み合っていると思います。しかしながら、取材の経験から、根底には、子育てに対する社会の評価の低さ、その裏腹にある仕事中心主義、「男は仕事、女は家庭」のような固定的な性別による役割分業意識といったものがあると考えます。
この状況は変わるのか。私の答えは、「希望はある」です。
より多くの男性が、子育てに、家庭に、濃密に関わることが、一つの処方箋になるのだと考えています。
子育てに関する評価の低さも、固定的な性別役割分業意識も、仕事の領域における男性中心の構造が影響しているのでしょう。そうであれば、男性が子育てや家庭の領域に深く関わることで、変化が生まれると思うのです。
取材でインタビューした父親たちは、異口同音に、子育てに関わることで仕事中心の価値観に変化が起きたと話していました。
子育てや家庭に関わることが社会から適切に評価され、固定的な役割分担が解消されケースごとの柔軟な対応になれば、そこに根を張る育休にまつわるネガティブな感情は、少しずつ拭われていくのだと考えます。
これは絵空事に過ぎないのでしょうか。
冒頭で、きょうは「イクメンの日」と書きました。
10月19日は、10(トウサン=父さん)、19(イクジ=育児)の語呂合わせから、「イクメンの日」とされています。
「イクメン」が、新語・流行語大賞のトップ10入りを果たしたのは2010年です。言葉は広まり、男性育児の推進にも一役買いました。
ところが、今では否定的な受け止めも目立ちます。男性の子育てばかり「特別視」している言葉だとして、女性だけでなく子育てする男性からも拒否感を持たれています。
流行から10年以上経ち、言葉の持つ否定的な側面に注目が集まるようになったのはなぜか。それは、社会の「軸」が変わったからだと感じています。つまり、父親の子育ては「デフォルト」だと社会的により認識されるようになったからこその現象だと思うのです。
もちろん、子育てや家事の分担は社会的にみれば、まだまだ女性に多く偏っているのが現実です。それでも、この10年余りで社会の「軸」が変わってきたことを思えば、今後の変化も絵空事ではないと思っています。
鍵を握る男性の育休については、この10月から制度が変わっています。
男性の育休取得率は、13.97%。女性の8割には遠く及びませんが、10年ほど前の1%台から見れば大きく上昇しています。この変化を後押しするため、10月からは「産後パパ育休」(出生時育児休業制度)が施行されています。
この制度は、「取得しやすさ」に焦点を合わせています。
「産後パパ育休」は、育休(育児休業)とは別に、子の出生後8週間以内に4週間まで取ることができます。2回に分割することも可能です。
従来の育休が「原則1か月前まで」の申し出を必要としているのに対し、「原則休業の2週間前まで」とされています。
育休の「壁」は、「人手不足」や「職場の雰囲気」です。
厚生労働省が、三菱UFJリサーチ&コンサルティングに委託した調査では、育休を希望しながら取得しなかった男性に理由(複数回答)を聞くと、トップは「業務が繁忙で職場の人手が不足していた」で、「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった」が続きます。
直前まで申し出ることができて、分割して取得可能という制度設計は、そうした「壁」に対応するものでもあります。
今年4月には、本人または配偶者の妊娠や出産を申し出た人に、育休取得の意向を確認するよう、企業に義務づけられました。今年10月の「産後パパ育休」は、これに続く、育休を取りやすくする取り組みの第二弾。来年4月には、従業員数1000人超の企業に、育休取得の状況を年1回公表することが義務づけられます。
育休に関するツイートはポジティブなものばかり、より多くの男性が、深く家庭に関わるようになり、そうした日がやってくることを願っています。
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