ネットの話題
落ちても「ハイダセール」よ!SNSで共感集めた側溝「優しい世界」
生き物への真心あふれる画期的アイデア
SNS上で、とある企業の製品に、幅広い層の共感が集まっています。正体は、意外にも側溝です。弱い立場に置かれがちな生き物への、温かなまなざしが感じられるアイデア。誕生した経緯について、開発元の担当者を取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)
注目を集めているのは、コンクリート製品メーカー・ランデス(岡山県真庭市)が製造・販売している側溝「ハイダセール」です。
幅と深さは一般的な側溝と同様で、道路脇や水路内に埋め込んで使います。特長は、その形状です。
最もポピュラーな「Ⅰ型」と呼ばれるタイプを見ると、片側がなだらかなスロープ状になっています。小動物や昆虫が誤って落下しても、自力で脱出しやすい構造なのです。
この他、一部が階段状に加工されているものも。名前の通り、生き物が「はい出せる」ようにするための工夫がこらされています。
「迷子の仔猫(こねこ)が落ちたときにも、効果を発揮しそう」「何て優しい世界なんだ」。10月に入り、関連画像がツイッター上で拡散されると、称賛の声が相次いで上がりました。
不思議な側溝は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。ランデス技術開発本部研究所の、野村修治マネージャー(56)に話を聞きました。
野村さんによると、きっかけは30年ほど前までさかのぼります。
岡山県内では当時、希少種であるダルマガエルの保護が課題となっていました。田んぼなどの側溝に落ち、溺れ死んでしまうことが少なくなかったのです。
「弊社では、生態系保全をミッションと捉えてきました。開発事業が、周辺環境を変えてしまうからです。いわば『補償措置』として、自然を守りたい。そのための一手として、カエルの惨状を何とかできないかと考えていました」
そこで川崎医科大(同県倉敷市)の生物研究者と連携し、製品開発に着手します。さらに飛べない鳥・ヤンバルクイナをめぐり、同じ問題を抱えていた沖縄県のメーカーの協力も得て、ハイダセールの完成にこぎつけました。
1991年、岡山県内のゴルフ場に設置したのを皮切りに、評判が全国に広がります。各地のスキー場や自然保護施設、山道など、様々な場所で使われるように。1991年度~2018年度の間に、1万7千台超を出荷してきました。
野村さんいわく、ハイダセールには現在に至るまで、何度も改良が加えられてきました。
例えばスロープ。当初は階段状のものが主流だったといいます。しかし、より上りやすくする目的で、広範囲に斜面を持つ製品も開発されました。滑り止め効果を高めるため、表面の凹凸を深くするといったアイデアも活かされています。
試行錯誤の末、ハイダセールのきょうだいと言える一品も作られました。水路の接合部である、集水枡(ます)として使う「ハイダセマス」です。
ハイダセール同様、斜面や小階段を備え、側溝内を流れてきた小動物などが抜け出せる仕組み。「落下した生き物が、集水枡の中でたまっていることが多い」という、専門家のアドバイスに基づいて設計されました。
生き物の水場にもなっているという、ハイダセール。設置地域によっては、実際に動物保護に役立っているとのデータもあるそうです。SNS上で注目を集めたことについて、野村さんは次のように喜びました。
「古くからある商品なのに、再発見してもらえてありがたい。人間の開発により、生き物たちが弱い立場に追い込まれることがあります。側溝や護岸された河川が、動物にとっても暮らしやすいのか、考えて頂くきっかけになればうれしいです」
1/21枚