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SNS騒然、町田リス園「超凶暴リス」看板 作者は好奇心の鬼だった

幼少から育んだ絵心で伝える命の本質

凶暴すぎる見た目のリスが描かれた看板……。一体、何のために作られたのでしょうか?全容は記事中の写真で。
凶暴すぎる見た目のリスが描かれた看板……。一体、何のために作られたのでしょうか?全容は記事中の写真で。 出典: 町田リス園のツイッター(@risuen_official)

目次

SNS上をにぎわせている、とある施設の看板があります。あしらわれているのはリスのイラスト。それも、可愛らしい見た目ではありません。牙と爪をむき出しにし、人間に襲いかかろうとする凶暴な姿です。手がけた施設関係者に話を聞くと、並々ならぬ好奇心と、動物への真摯(しんし)な思いに行き当たりました。(withnews編集部・神戸郁人)

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腕振り上げるリス、驚く女性

「乳幼児をおつれの方 リスのつめが! 歯が!! おはだを傷つけます」「ガード願います」

おどろおどろしい文言が躍るのは、町田リス園(東京都町田市)内の広場に設置されている看板。特に目を惹(ひ)くのが、看板の下部にあしらわれたイラストです。

鋭い爪を立て、鬼のような形相で腕を振り上げるリスと、赤子を抱きつつ髪を逆立てて驚く女性が手描きされています。リス、人物とも輪郭線が太く、躍動感も十分な仕上がりです。

同園では200匹超のタイワンリスが放し飼いされており、間近で観察することができます。不用意な接触により来園者がけがをしないよう、注意喚起のため作られたのが当該の看板です。

5年ほど前の公開開始以降、愛くるしいリスのイメージを打ち壊す絵柄が話題に。たびたびSNS上で関連画像が拡散され、好評を博してきました。

看板には、鬼のような形相で、女性に襲いかかるリスが描かれている。
看板には、鬼のような形相で、女性に襲いかかるリスが描かれている。 出典: 町田リス園のツイッター(@risuen_official)

〝安全仕様〟の動物ではない

看板を手がけたのは、町田リス園の福田啓一副園長(60)です。動物の管理責任者として、1988年12月の開園直後から勤務してきました。

そもそも、どうして絵を描くことになったのでしょうか。福田さんによると、特に子連れの来園者向けの啓発施策として、園長から制作を要望されました。

「リスはあごの力が強く、かぎ爪を持っています。そして首から尻尾まで、隆々とした筋肉に覆われている。無理に抱き上げようとすれば、全身をひねってかみ付いてくるなど、野性味あふれる生き物です」

「しかし小さな身体や、ふさふさとした体毛に惹かれて、つい警戒を緩めてしまう人々は少なくありません。決して〝安全仕様〟の動物ではないのだと示したい。そんな思いから、あえて外見をデフォルメしました」

リスの生態研究目的で、死亡後の個体を解剖する機会もある福田さん。コミカルに描く際も、全身の構造をなるべく本物に近づけているそうです。

町田動物園内で放し飼いされているタイワンリス。
町田動物園内で放し飼いされているタイワンリス。 出典: 町田リス園のツイッター(@risuen_official)

不快感を与えないデザインに

注目を集めてきた看板は、他にもあります。例えば「リスにさわらない 必ず両手袋」という文章とともに、両手に防護用手袋をはめた女性が登場する一枚は印象的です。

柵越しに注ぐ視線の先で、肉食恐竜のように前脚を突き出した、巨大なリスが歩いています。移動時の地響きまで伝わってきそうな、会心の一作です。

福田さんによると、大好きな怪獣映画に着想を得たといいます。常人なら震え上がってしまうシチュエーションですが、女性は不思議にも笑顔です。しかも右手にえさらしきものを持ち、両腕を高々と掲げ、まるで楽しんでいるように思えます。

「おぞましく不快感を与えるデザインでは、来園者に見てもらえません。なるべく面白がって欲しくて、にこやかにリスを餌付けするシーンにしてみたんです」(福田さん)

巨大リスのイラストの直下には「ケガしたら近くの係員に知らせて」とのメッセージも。リスに右小指を傷つけられながら、なぜか笑う女性の絵が添えられています。

いわく「注意をおろそかにした」という後悔から、苦笑いを浮かべているのだそうです。

リスと触れ合う際の注意事項について、イラストつきで解説する看板。
リスと触れ合う際の注意事項について、イラストつきで解説する看板。 出典: 町田リス園のツイッター(@risuen_official)

芸術活動で培った観察眼

手描き看板を通じて、命の本質について伝え続ける福田さんは、自らを「生まれつきの絵画好き」と称します。

幼稚園に通っていた頃から、動物図鑑や漫画が大好き。絵画教室にも所属し、静物画などを描いたそうです。一方で、他の人と異なる色使いや線描の仕方が、しばしば周囲から不思議がられたといいます。

中高時代は美術部に入り、独特の色彩感覚から生まれた作品が、コンクールで入賞することもありました。美術大学への進学を検討したものの、「入試のために画風を曲げたくない」と進路を変え、興味があった動物の専門家を目指したのです。

芸術活動で培った観察眼は、仕事にも活きています。リスと向き合って得た様々な気づきを、看板制作に反映してきたことは、その好例です。

「看板のリスを見た人から『顔がいやらしい』と言われることがあります。リスは常に外敵の襲来に備え、仲間とエサを取り合い、必死に生きている。相手の心理や動きを読むような表情を見せるときも多く、それを忠実に再現しただけなんです」

新型コロナウイルス流行後に作られた「ソーシャルデスタンス」の看板。園内に生息するリス、ウサギ、亀が描かれている。
新型コロナウイルス流行後に作られた「ソーシャルデスタンス」の看板。園内に生息するリス、ウサギ、亀が描かれている。 出典: 町田リス園のツイッター(@risuen_official)

「ぜひ直接見に来てください」

新型コロナウイルスの流行を経て、看板の種類は一層増えました。園内で飼育するリス・うさぎ・亀をモチーフとした緩い絵の上に、「ソーシャルデスタンス」と書き付けた感染予防を促すものなど、表現の幅が広がっています。

看板は今や、町田リス園の名物です。一枚一枚撮って回り、一緒に記念撮影する来園者も絶えません。「ファンがついてくれたなら、取り組みは成功ですね」。福田さんが笑います。

それでも、最も伝えたいのは、リスと適切な距離感を保つ大切さです。えさをあげるとき、必ず手袋をつける。むやみに追いかけたり、大声を出して脅かしたりしない。そうした基本的なルールを守る意義を、福田さんは強調します。

「私が看板を作り続けるのは、あくまで注意喚起のためです。絵の世界観を楽しむだけでなく、そこに込められた思いまでくみ取って頂けたら。実物は写真以上にインパクトがあるはずなので、ぜひ直接見にいらしてください」

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