酷暑や水害の頻発など、気候変動を感じることも増えてきました。わたしたちにはどんな対策ができるのでしょうか。
「気候変動アクションガイド」を有志で作成した木村充慶さんに、その内容を紹介してもらうと、「大企業や組織が変わらないと気候変動は止められない」という現実もみえてきます。
〝気候変動アクションガイド個人版〟〝ビジネス版〟それぞれをまとめながら感じた難しさや、「大切なこと」を振り返ってもらいました。
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連載「1.5℃の約束」:世界各国は昨年11月、平均気温上昇を「1.5℃に抑える約束」を表明しました。気温上昇は異常気象や生物多様性の喪失、食糧不足・貧困といった影響をもたらしています。withnewsでも、さまざまな視点から「気候変動」を考えます。
気候変動アクションガイドは、気候科学者・江守正多さん、コミュニケーターの根本かおるさん、環境担当記者の岡本基良さん、Z世代のアクティビスト能條桃子さんたち有志とともにまとめ、昨年11月に発表しました。
「KNOW 気候変動でどうなる?」「THINK 効果的なアクションを考えよう」「CHOOSE 個人でできる対策を選ぼう」「ACT 小さなアクションから社会の変化へ」の4テーマで、SNSでシェアしやすいようにまとめています。
「気候変動アクションガイド」4枚つづりの1枚目。気候変動の現在とこれからの状況を紹介しています
紹介する上で大切にしたのが個人の対策の「効果」です。
これまでは行動の効果がよく分からないまま、「なんとなく気候変動対策によさそう」と行動してきた人が多いのではないでしょうか。
昨年夏に公開された調査
「脱炭素型ライフスタイルの選択肢:カーボンフットプリントと削減効果データブック」(国立環境研究所・小出瑠氏など)を参考にしました。
個人のアクションごとにCO₂排出がどれぐらい減るのか、具体的な数値で示されています。
日本人が生活するなかで排出するCO₂は7.1トンほど。
気温上昇を1.5℃に抑えるためには、半分以下の「3.2トン」くらいまで排出量を抑える必要があります。
そこでデータを見ると悲しいことに、ほとんどのアクションの効果は「少ない」ことがわかります。
例えば「地元で採れた野菜や果物を食べる」、いわゆる地産地消。
CO₂排出が年間で20kg抑制できますが、最終的な削減目標3.2トンと比べると、100分の1以下の効果しかありません。
抑制効果が高そうなエネルギー系はどうでしょうか。たとえばガソリン車を電気自動車に変えたとしても、500kgくらいの効果しかありません。
一方で、太陽光パネルを設置したり、再生エネルギー由来の電気に切り替えたりするのは効果が高く、1.2トンほどの削減になります。
個人の削減量3.2トンに近づける、効果の高いアクションだと感じます。
最も効果が高いのは自宅をゼロエネルギー住宅にすること(1.8トンくらいの削減)。
エネルギー系のアクションが効果の高いことは分かりますが、太陽光パネルの設置やゼロエネルギー住宅への転換は大きなコストもかかります。
すべての国民が行動するのは正直に言うと厳しいでしょう。3.2トンまで減らすことが、それだけ大変だということを突きつけられます。
個人ガイドの公開後、好反応もいただいたものの、「ビジネスでの排出量が圧倒的に多い。企業ができる対策がもっと必要では」という指摘を多くいただきました。
中小企業向けの営業をしている方から「気候変動対策の話をしたいけれどビジネス向けの分かりやすい資料がない」という相談も寄せられました。
チームで話し合い、改めてビジネスのアクションのまとめが必要であることを感じました。
ビジネスで気候変動対策を行うことは、個人とは比べ物にならない規模と影響力があります。
業界も多岐にわたるので汎用的にまとめるのは難しく、様々な企業の環境経営に携わる経営コンサルタントの夫馬賢治さんに参加してもらいました。
企業の場合、多くの人が関わっているため、特に大変なのは社内外で気候変動対策を推進する合意形成です。
実は、そこで生きてくるのが個人の活動だと思っています。
多くの個人は会社などの組織に属しています。まずは個人として動き始め、その対策の意味を感じることが企業の動きにも波及していくと思います。
特に今は、SNSを個人で使っている人も多いでしょう。
気候変動対策への行動を少しずつ発信し、周囲の人や会社の同僚にも「気候変動対策」を知ってもらうことが大切だと思います。そんな動きが、組織での気候変動対策の動きにつながる一歩だと思います。
これらのガイドは、「防災アクションガイド」の派生版として作りました。
研究者やNPO、元官僚や記者たち有志がタッグを組んで、大雨や地震・津波などの災害ごとに、必要なものや行動を簡潔にまとめたSNS向け災害対策集です。
災害専門家の有志で作った「防災アクションガイド」。SNSで拡散しやすいようにデザインし、災害時にはSNSはもちろん、避難所など現場でも使ってもらっています 出典:FUKKO DESIGNのnoteより
この防災アクションガイドを作成しているとき、気候変動のトークイベントに参加しました。
災害と気候変動は深く結びついています。気候変動への個人の意識も広げていく必要があるのでは――。
イベントをきっかけに、そんな問題意識が生まれ、「気候変動アクションガイド」をつくることになりました。
言うまでもなく、気候変動は地球規模の課題です。多くの課題が絡み合うため、様々な専門性のあるメンバーに参加してもらいました。
それが冒頭で紹介した気候科学者・江守さん、コミュニケーターの根本さん、環境担当記者・岡本さん、アクティビスト能條さんです。
日本記者クラブにて〝個人版〟気候変動アクションガイドを紹介する気候科学者・江守正多さん=2021年11月、根本かおるさん撮影
災害への対策は、個人がおこなうことで自らの命を守ることができますが、気候変動はひとりで頑張っても効果は微々たるものです。
ある一人が生活の中でCO₂を減らすアクションをしても、あるお金持ちがプライベートジェット機を飛ばせば、その努力が水の泡になってしまう……。
個人向けのアクションがなかなか広がらない理由の一つはそこにありました。
また、アクションをしたくても、現状では個人の経済力などによって選ぶことが難しい行動もあります。
しかし、行動が個人の意識を変え、それが波及して、その人が所属する会社や自治体、国といった組織の動きを変えることもありえます。
どうすれば、誰もが効果的な対策を選択していける社会になるのか。
メンバーとは、このような波及的な効果までしっかりまとめよう、そんな視点を大事にしながら作っていこうと作業を進めました。
最適なアクションを、どう実行に移してもらい、社会の変化につなげていくか――。
そう悩んでいたときには、Z世代のアクティビストの能條さんから「勉強するだけでは人は動かない」と指摘されました。
「沼に落ちれば、あとは勝手に調べます」
あるものに熱中することを「沼に落ちる(ハマる)」と表現しますが、まさに気候変動でも「沼に落ちる」ようなきっかけをつくればいいのではというアドバイスでした。
沼にハマらせるとは書いていないが、沼にハマらせるための4枚目
気候変動対策を社会のうねりに変えていく「=沼に落とす」入口として、4枚目を作成しました。
気候変動をテーマにしたTwitterやInstagramのアカウント、YouTubeチャンネルの紹介はもちろん、コミュニティへの入り方などを重点的にまとめて紹介しました。
半年ほどかかって完成した「気候変動アクションガイド」個人編。さらにビジネス版へとガイドは広がっていきました。
個人のアクションも、ビジネスのアクションも実はつながっています。
個人からビジネスへ、ビジネスから個人へ、横断しながら継続して気候変動のアクションを考え、実行していくことが必要だと感じています。