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障害〝オープン〟で働いて時給500円差…伏せたい気持ち「わかる」

関東に住む女性(28)は、「オープン」で働いていますが、収入の低さから「『クローズ』で働きたい方の気持ちはよく分かる」と話します(画像はイメージです)
関東に住む女性(28)は、「オープン」で働いていますが、収入の低さから「『クローズ』で働きたい方の気持ちはよく分かる」と話します(画像はイメージです)
出典: Getty Images

目次

障害のある人の就労をめぐっては、職場に事情を告げた上で働く「オープン就労」と、明らかにはしない「クローズ就労」があります。働く環境の整えやすさでは「オープン」が望ましいとされますが、当事者には割り切れない思いもあります。関東に住む女性(28)は、「オープン」で働いていますが、収入の低さから「『クローズ』で働きたい方の気持ちはよく分かる」と話します。

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双方にメリットとデメリット

「オープン就労」は働く環境を整えやすい一方で、選べる職種が限られたり、収入が低かったりすることがあります。

「クローズ就労」の場合、働く環境を整えにくいデメリットがあり、結果的に早期の退職を余儀なくされることがあるとされています。

黒板に名指しで「死ね」

関東に住む女性は、17歳の時に転換性障害と診断されました。ストレスや葛藤が体に影響を及ぼす精神疾患で、人混みに行くと過呼吸になるなどの症状が出ていました。

大きなストレスとなったのが、いじめでした。

女性が中学校に入る時に家族で遠方に引っ越し。友人のいない中学校に通うことになりました。「転校生」という珍しさもあって、当初は友人関係が広がっていきました。ところが、1カ月ほどしていじめを受けるようになったそうです。

「リーダー格の子の機嫌を損ねたようです。黒板に名指しで『死ね』と書かれたり、足をひっかけられたり…」

次第に心身のバランスを崩してしまいました。

大きなストレスとなったのが、いじめでした(画像はイメージです)
大きなストレスとなったのが、いじめでした(画像はイメージです) 出典: Getty Images

「オープン」で働き始める

「高校を卒業し、大学に進学しましたが、バイト先のパワハラでさらに状態が悪化してしまいました」。20代で、精神障害者手帳を取得しました。

その後、障害を職場に伝える「オープン」で働き始めます。

障害者雇用促進法には、企業は働く人のうち一定の割合で障害者を雇用するよう定められています。女性は、この法律の枠組みで採用されたのです。障害者向けの就労支援サービスを活用した後、教育機関の事務職として働き始めました。

「『オープン』だと、急な体調不良でもお休みを取りやすいと聞いていました」

時給は千円超。最低賃金は上回っており、毎月の手取りは10万円ほど。「実家暮らしでしたし、十分に感じていました」

「『オープン』だと、急な体調不良でもお休みを取りやすいと聞いていました」(画像はイメージです)
「『オープン』だと、急な体調不良でもお休みを取りやすいと聞いていました」(画像はイメージです) 出典: Getty Images

賃金差に割り切れない思い

ところが、次第に割り切れない思いを感じるようになりました。

女性は、過剰に集中してしまう特性があると話します。「結果として働きすぎてしまうことがあります」

そのため、上司に、何時間も仕事に没頭しすぎているようなら声掛けしてもらえるよう相談しました。しかし「サボり方は教えられない」と断られてしまったと話します。

「ごくごく少人数のチームで仕事をしていて、常に目の届くところで働いているのでお願いしてみました」

一方で、同じチームで働く年上の女性は一般の契約社員。業務内容と業務量は同じでしたが、のちに時給は500円以上高いことを知りました。

次第に割り切れない思いを感じるようになりました(画像はイメージです)
次第に割り切れない思いを感じるようになりました(画像はイメージです) 出典: Getty Images

悩んだ末、もう一度「オープン」に

元々は実家暮らしでしたが、結婚して夫と暮らすように。しかし、夫も体調を崩し仕事を休んでいます。女性の手取り10万円と障害年金に加え、夫の傷病手当金などでやりくりしていますが、家計の不安は尽きないと言います。

「今のところ、赤字にならずに済んでいます。ただ、夫の傷病手当金も来年にはもらえなくなります。体調を崩すことも多く、急な出費があれば、金銭的に不安です」

女性は、職場のコミュニケーションで疲弊してしまうこともあり、フルリモートで働ける会社に転職したいと思うようになりました。その際、少しでも収入が確保されるよう、「クローズ」で働くことも検討したそうです。

「オープン」と「クローズ」で揺れる障害のある人は少なくありません。

女性は、ツイッターのアカウント「うた」 @kitsunetotanuko で、「クローズで働きたい方の気持ちがよくわかります」と吐露したことがあります。すると、同じような境遇の人たちから「同じ仕事でクローズならもっと給料が高いのだろうかと思ってしまいます」といった共感の声がたくさん寄せられました。

ただ、女性は悩んだ末、「オープン」で転職をすることにしました。

「手取り額はあまり変わらず、収入の問題は解決していません。ただ、まずは働く環境をより整えたいと思いました」

この春からフルリモートが可能な会社に転職し、事務職として働いています。今後は、スキルアップすることで、収入アップをめざすそうです。

女性の給与明細。新たな職場で、8月の手取りは8万4828円でした=女性提供
女性の給与明細。新たな職場で、8月の手取りは8万4828円でした=女性提供

「クローズ就労」は少数派

全国110施設で障害者の就労移行支援を行っている「LITALICO(リタリコ)ワークス」(東京)によると、就職した人のうち9割以上が「オープン就労」を選んだそうです。「クローズ就労」は少数派であることが分かります。

「『オープン』の方が、障害の特性を周囲に理解してもらった上で、働く環境を整えることができます」とリタリコの担当者は話します。

「過集中の傾向があるので、休憩時間のタイミングを気にかけてほしい」とリタリコ側から企業側に伝えたり、「複数の人から指示が入ると混乱してしまいがちなので指示系統は統一してほしい」と要望したりすることがあるそうです。

障害者雇用促進法では、企業側に、障害のある人が職場で働く際の支障を改善するよう求めています。いわゆる「合理的配慮」と言われるものです。「オープン」が働く環境の整えやすさにつながるのは、こうした法的根拠もあるからです。

給与水準の低さ

ただ、「オープン」にも課題はあります。

一つが給与水準の低さです。

厚生労働省の「障害者雇用実態調査」(2018年度)によると、身体障害者の1カ月の平均賃金は21万5千円。知的障害者は11万7千円、精神障害者は12万5千円、発達障害者は12万7千円でした。対して、国税庁の「民間給与実態統計調査」によると2020年の平均給与は433万円で、ひと月あたりに換算すると36万円ほどです。

リタリコの担当者は「職種の選択肢が狭まってしまうことはあります」とも指摘します。「望んでいる分野の仕事でどうしても求人がない、という状況に陥ることもあります」

こうした背景から「クローズ」を選択する人もいます。

「オープン」にも課題はあります。一つが給与水準の低さです(画像はイメージです)
「オープン」にも課題はあります。一つが給与水準の低さです(画像はイメージです) 出典: Getty Images

本人の意思決定

それでも、「オープン」を選ぶ人が多い背景には、相対的な職場定着率の高さがあります。

障害者職業総合センターの「障害者の就業状況等に関する調査研究」(2017年)によると、「オープン」の方が「クローズ」よりも定着率が高いことが分かっています。

就職後3カ月時点で仕事を辞めずに働いている人の割合は、「オープン」に障害者求人で採用された人では87%。一方、一般求人で障害を告げなかった人は52%でした。こうした差は、1年時点の定着率でもみられます。

リタリコの担当者は「オープンかクローズかは、ご本人が意思決定されることです。どんな障害の特性があるのか、どんなフォローが必要なのか、何を重視して働くのか、そういったことをお話させて頂くなかで、選択のサポートができればと思います」と話します。

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