生え方によっては、大きい病院で手術をして抜いてもらうことになる親知らず。「いずれは抜くことになる」と言われたものの、さまざまな事情で「すぐにはちょっと……」という場合も。手術についてわかりやすいレポ漫画を描いて話題になった作者と、親知らずについての取材を続ける記者が語り合いました。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
随分前のつぶやきを発掘していただいて、ありがとうございます。
ーー口腔外科の治療であり、個人差の大きい親知らずの抜歯手術ですが、いっちさんの場合と私の場合は「埋まっている下顎の両方の親知らず」を「切開して砕いて分割して出す」という点が共通していました。以前から「治療が必要」と言われていたものの、未治療だったんですよね。
はい。「左下の歯茎が腫れて痛くて眠れない」という症状があり、かかりつけの歯科医師から「これはやっぱり抜くしかないと思いますよ」と言われてしまいました。実は以前にも同じような症状がありましたが、産後すぐのために手術を見送っていました。
ーー手術に限らず、親知らずの抜歯はやや大がかりになるため、先延ばしにしている人もいるかと思います。私自身、コロナ禍で歯科医院から足が遠のいている間に、「横向きに埋まった親知らずが隣の歯を押して炎症を起こした」ことで、最終的に手術になりました。
私の場合も、横向きに埋まっており、隣の歯を押して炎症を起こしていたのと、奥歯と親知らずの間に膿が溜まっていたので、それもきれいにしてもらいました。
ーー専門家を取材すると、「隣の奥歯に障害を及ぼす」「内部に膿が溜まる」や「親知らずや隣の歯の虫歯」「いつも食べ物が詰まる・歯肉の腫れや痛みを繰り返す」場合は抜歯の適応ということでした。特に下顎に横向きに埋まっていると、大きな病院で「切開して砕いて分割して出す」手術が行われる場合があります。
最初に手術の説明を聞いたとき、思わず「怖い…」と心の声が漏れました。手術自体は、麻酔のおかげであっという間に終わったと感じました。
ーーまさにこれも個人差で、いっちさんは全身麻酔だったんですよね。私は局所麻酔で意識があるまま行ったので、もちろん麻酔のおかげで痛みはないのですが、機器の音や歯を砕くときの振動はしっかりと感じられて、なかなかハードな体験でした。
大変だったのは、手術後に麻酔が切れ始めてからでした。手術直後は「意外と痛くないな」という感想でしたが、その後は一転(漫画では「おおおお来たぁあ」「ほっぺをずっと殴られているよう」と表現)。痛み止めを使用しながら、出てくる血と格闘していました。
ーーもう一つ、社会生活を営む上で気になるのは見た目の変化です。一般的に、術後2〜3日が腫れのピークと説明されますが、私は少し長引きました。また、口内の違和感は縫った糸を抜いてからも、さらに数週間は続きました。
「おかめ」のような腫れは術後2日目がピークでした。1週間程度で引いていきましたが、やはり口内の腫れている感じは残り、糸を抜いた後もしばらくは食事に苦労しましたね。
ーーいっちさんのレポ漫画には、「参考になりました」など感謝の声が集まっていました。あらためて制作の経緯をうかがえますか?
もともと親知らずを抜く前に、体験談が書かれたブログやSNSの投稿を読んで、心の準備をしていました。自分もこれから抜く人に向けて体験談を発信できたらいいなと思って描きました。
特に、食事のことや、痛みについて知りたかったので、その部分が伝わるようにと気をつけています。
ーーとても細やかに描き込まれていますよね。
人生に一回しかない出来事だと思ったので、「漫画にして記録しよう」と入院中は色々メモを取りました。
ーーわかりやすいレポ漫画の背景には、読者を意識した、丁寧な制作への姿勢があったのですね。私も当事者として、やさしい絵のタッチや、ユーモアに救われました。
物心ついたころから、暇さえあれば絵を描いてばかりでした。自分の描いた作品を見て、クスッと笑ったり楽しい気持ちになってもらえたりしたら素敵だなぁと思って描いています。
ーーレポ漫画が公開されたのは、手術直後でした。実はいっちさんに今、うかがいたいことがあって。私もまだ抜歯から数カ月なので、ようやく口内の違和感がなくなったところで、まだ手術のメリットをそこまで感じられていません。いっちさんは数年が経った今、親知らずを抜いてよかったと思いますか?
本当に抜いてよかったです。他の病気と違って、親知らずは抜けば再発の心配がないので、とても気がラクです。それまで、疲れが溜まる度に奥歯が痛んで、歯医者に行って鎮痛剤や抗生物質を飲んでごまかしていたので、その煩わしさや痛みから解放されてホッとしています。
ーー個人差があることは前提ですが、不安になっていろいろと調べてしまう人は、こうした感想も参考にしてほしいですね。あらためて、ありがとうございました。