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ネットの話題

「ネズミキツネザルです」「ややこしいな」愛ある失言、制作秘話

ネットで度々、話題になる病院のポスター。中には10万RTを超え、約40万いいねを集めたツイートも。
ネットで度々、話題になる病院のポスター。中には10万RTを超え、約40万いいねを集めたツイートも。 出典: 医療法人 鳳生会 成田病院提供

目次

医療機関で行われる患者の名前確認。それを「カバ」と「ネズミキツネザル」のかけあいによって描いた病院のポスターが、ネットで度々、話題になっています。どこの病院で、なぜこれらの動物を登場させたのでしょうか。制作した病院を探し、背景を取材しました。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
 
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“失言”するカバ、たしなめる人間の看護師

「カバ」と「ネズミキツネザル」のかけあいにより、患者の取り違えを防止するために病院で実施される名前確認について説明するこちらのポスター。過去に何度も写真がSNS上に投稿され、話題になっています。

中には10万RTを超え、約40万いいねを集めたツイートもあり、注目されてきました。ただし、そのツイートも含め、病院名など一部がカットされているケースもありました。

制作したのは千葉の医療法人鳳生会成田病院です。同院では2019年12月から掲示を開始しているとのことでした。
 
ポスターの全体像。
ポスターの全体像。 出典: 医療法人 鳳生会 成田病院提供
「お名前を教えて下さい」と伝えるカバの医師。患者は「ネズミキツネザルです」と名前を答えます。思わず「ややこしいな」と“失言”するカバの医師に、こちらは人間の看護師が「先生!」と注意します。

こうしたかけあいに「センスめっちゃ好き」「ユーモア◎」「かわいいしこういう医者と看護師さんリアルでいそう」とユーザーからのコメントが集まりました。

しかし、どうして人間ではなく、「カバ」「ネズミキツネザル」といった動物でこのようなポスターを制作したのでしょうか。同院を取材しました。

“ふつう”のポスターでは印象に残らない

ポスターを制作したのは成田病院情報処理室の矢野智之さん。本業はシステムエンジニアですが、絵を描くのが趣味だったそうで、2019年ごろから院内の掲示物のイラスト制作も担当するようになりました。

「以前のポスターは人間の医師と患者さん、看護師が登場するもので、患者さんの名前は“成田太郎”さん。自分がその更新を担当するにあたり、“ふつう”のポスターでは印象に残らないのでは、という想いがありました」
以前のポスターの全体像。
以前のポスターの全体像。 出典: 医療法人 鳳生会 成田病院提供
そこで、まずは患者の名前から、複雑なものを考えてみることにしました。その際、複雑な名前が実際に存在する動物を患者にして描くことを思いついたと言います。3つ以上の名前がつながるような複雑な名前の動物を探したとき、「ネズミキツネザル」を見つけました。

「ややこしい」と言わせる医師役には、「多少、雑なところがあっても愛嬌がありそう」として「カバ」を起用。全員が動物だとまとまりがないため、医師をたしなめる看護師は人間のままにしたと言います。

こうした矢野さんのセンスやユーモアに、ネットでは多数の好意的な声が上がりました。

反響に安堵、ただし院内は撮影禁止

しかし、実はこのポスターへの反響について、成田病院事務局担当者は「最初は複雑な想いだった」と明かします。というのも、同院は基本的に院内撮影禁止。拡散されたポスターの写真は許可を得ず、投稿されたものだからです。

同担当者も「患者さんのプライバシーへの配慮から、院内は撮影禁止ですので、ご理解ください」とあらためて注意喚起します。

記者が取材で同院を訪れ、実物のポスターを見ると、ネズミキツネザルの毛並みや診察室の椅子の光の反射まで描き込まれており、その完成度の高さに驚かされました。

制作した矢野さんは、好意的な反響に「ひとまずはホッとした」とのこと。院内では他にも矢野さんが制作したイラストが、禁煙エリアを示したり「歩きスマホNG」を伝えたりするポスター、食堂での感染防止対策を呼びかけるシール、職員への配布物などに使用されています。

現在、事務局は矢野さんに依頼するとき、細かい設定はせず一任しており、「新作を楽しみにしている状態」だそう。矢野さんはそれについて「プレッシャーがかかる」と苦笑いします。

大きな反響があったことで、京都や大阪、広島の医療機関からも、ポスターを掲示させてほしいという依頼があったそうです。

矢野さんが制作したオリジナルの著作物ではあるものの、「医療全体の安全に貢献したいという病院としての想いで、正式に依頼していただければ、今のところ、お使いいただいている」(事務局担当者)とのことです。

本来であれば、同院を訪れた人の目にのみ、触れていたであろうポスター。このようなすばらしい作品が、実はひっそりと、身の回りに隠れていることもあるかもしれません。マナーを守った上で、探してみてはいかがでしょうか。

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