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これが木彫り!? 8歳が作った「アジの開き」、師匠もうなる完成度
昨年は「バターしみしみパン」を作りました
小学3年生のいっちゃん(8)は、図工が大好きな女の子。2年生の夏休みに作った木工作品「バターしみしみパン」がネットで話題になりました。その後、SNSで木彫りの〝師匠〟と出会い、交流が続いています。今年の夏に挑戦した木彫りの「アジの開き」は、師匠も驚くできばえです。そこには〝師匠から盗んだ技〟も取り入れました。
話題になった「バターしみしみパン」は、昨年「夏休み木工チャレンジ」に展示された作品です。
会場を訪れた人がツイッターに画像を投稿すると、「天才か!」「もはや食品サンプル」「木工作品なのに、質感がすごい」「めっちゃ美味しそう」といった称賛とともに広く拡散されました。
今年の夏休み、いっちゃんが「木工チャレンジ」に提出した作品は、「ちょっとやきすぎちゃったアジ」(アジの開き)です。
両面きれいに色づけされ、開かれた頭の部分や骨、しっぽなど、細かいところまで木で再現されています。
いっちゃんは「最初はネコをリアルに作ろうとしたけど、手の曲線とかが難しそうで、食べ物を作ろうと思いました」と振り返ります。
焼き芋やオムライスなど、家族みんなで何を作るか悩んだ結果、最終的には「直感で」決めました。
アジの開きが食卓に上ることは年に数回のようですが、「毎日刺し身でいいくらい、お肉よりお魚が好き」といいます。
母・たゆたゆさん(39)は、「アジを選ぶセンスがおもしろいなと思いました。でも、難しそうなので『本当にできる?』と確認しました」と話します。
母親の心配もよそに、いっちゃんはもくもくと作業に取りかかりました。
縦8センチ、横16センチほどの長方形の木材にアジの形を鉛筆で描き、母親付き添いの下、のこぎりで切ります。表面はヤスリで削ったり、彫刻刀で彫ったりしました。
制作日数は33日。1日2〜4時間取り組みました。
「しっぽの部分を折れないようにギリギリまで薄くした」というこだわりっぷりです。
しっぽが浮く角度や背びれのでこぼこ、しっぽ側にある硬いうろこ「ゼイゴ」も、本物を観察しながらリアルに仕上げました。
一方、難しかったのが「下あごを彫る」作業とスプレーでの色付けです。
下あごは複雑で彫っていて心が折れそうになりましたが、何度も鉛筆で下書きをしては削り、下書きをしては削りを繰り返して乗り越えました。
スプレーでの色付けは力加減が分からず、シルバーのスプレーをかけすぎて全体がギンギラギンの「宇宙アジになっちゃった」といいます。色をつけすぎたところは紙ヤスリで削って修正しました。
見た目を観察した結果は、自由研究としてもノートにまとめました。生態も調べ、「アジに愛着がわいた」と話します。
のこぎりやヤスリなど、使った道具は昨年「バターしみしみパン」を作ったときに100円均一でそろえました。
しかし、一つだけ今年初めて使う道具があります。「ルーター」と呼ばれる、穴開けや彫刻などができる電動工具です。
「このルーターは、キボリノコンノさん(以下コンノさん)がプレゼントしてくれました」(母親)
キボリノコンノさん(@kibori_no_konno)は、ヨックモックの「シガール」など木彫りの作品をSNSで発表している静岡県在住の男性です。いっちゃんが「師匠」と慕い、同じく木彫り作品を作る者として、母親のツイッターアカウントを通じて交流が続いているのだといいます。
いっちゃんがコンノさんに注目したのは今年2月。朝の情報番組で作品が紹介されていたことがきっかけでした。
すでに登校時間の8時を過ぎていましたが、「コンノさんの特集が気になってずっとテレビに釘付けになっていました」と母親は振り返ります。結局見終わるまでその場を動こうとしませんでした。
そのことをツイートするとコンノさんから返信があり、以来親子でツイッターに投稿される木彫り作品を楽しみにしていたそうです。
7月、都内で開かれたコンノさんの展示会にも親子で訪れました。
いっちゃんはコンノさんに「バターしみしみパン」を見せるため、リュックサックに作品を入れて会場へ向かいました。
作品を持って行くと伝えていませんでしたが、コンノさんは昨年話題になったことを知ってくれていて「あの『バターしみしみパン』の子だったなんて!」と驚いていたそうです。
感激したコンノさんは「一緒に飾りましょう」と、展示の一つとして「バターしみしみパン」を並べてくれました。
いっちゃんは「うれしかった」とはにかみます。
展示会が終わり、作品を自宅に返送してもらったとき、コンノさんから「もっと成長していってほしいのでプレゼントします」とルーターも一緒に送られてきました。
母子ともにルーターの使い方を知りませんでしたが、同封されていたコンノさんの実演動画DVDのおかげで、「すぐに分かった」(いっちゃん)そうです。
コンノさんの作品展で見た作品はすべてレベルが高く、いっちゃんは圧倒されました。
中でも印象的だったのが、「生八ツ橋」です。
「皮が薄い感じを表現していたし、まぶしてある粉が、木を削ったときに出る削りかすだった」。捨ててしまうような木くずまで作品にするコンノさんに、衝撃を受けました。
いっちゃんは今回、「アジの開き」に「大根おろし」を添えました。
その材料となっているのが、アジを削ったときに出た木くずと木工用ボンドです。
「もう少し工夫できないかなと思って、コンノさんの八ツ橋の粉を思い出して作りました」
母親経由で「アジの開き」と「大根おろし」の写真やメイキング動画を見たコンノさんは、「観察力や彫刻家技術、色彩感覚がすごい」と評価します。
「微妙なおうとつや色の違いまで見逃さないあの観察力と再現力、そして根気にも驚きました。着色方法など僕も参考になる技法を使っています。『バターしみしみパン』を超えるものすごい完成度です!」
小さいころから家で毎日のように工作をしていたという、いっちゃん。
バルーンアートに使う風船で帽子を作ったり、紙皿でお面やマスクを作ったりして遊んでいました。
保育園でも「センスがすごい!」と言われ、劇で使う「ブレーメンの音楽隊」のポスターを描いたこともあるそうです。
小学1年生のときの面談では、教師から「図工の時間は、作り始めたらほかに見向きもせず没頭する」と言われるほどで、今でもできることなら「夜まで工作をやっていたい」と話します。
母親のたゆたゆさんは、工作をさせる上で「ガムテープや綿棒、ストローなど、様々なものを使うことを『もったいない』と言わないようにしています」。
「子どもだからできないとか、危ないからさせないではなくて、危なくないやり方を教えてやらせてみる。ダメならアドバイスをして、『自分で頑張ってやろう』という意欲に変えられたらと思います」
できたら褒めることも大切にしているそうです。
「夏休み木工チャレンジ」では、来場者の人から「もっと子どもらしいものを作ったらいいと思います」という感想もあったそうですが、いっちゃんはへこたれません。
「いろんな子どもがいるからいいじゃんと思いました」
今後も毎年「夏休み木工チャレンジ」に参加したいと意気込むいっちゃん。次は何にチャレンジするのでしょうか?
「洋風も和風も作ったから次はイタリアン。私がサイゼリヤで毎回頼む『辛味チキン』を作りたいです。それかサラダ!」
リアルさを追求するいっちゃんの今後に目が離せません。
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