マンガ
精霊馬…かと思いきや! お盆帰省用「最速マシン」描いた漫画に爆笑
「それでも泣ける」作者が込めた願い
8月も終わりに近づき、少しずつ秋の足音が聞こえてきました。そんな今、お盆を楽しく振り返るきっかけになるとして、一本の漫画がツイッター上で評判です。勢いがあって笑えるのに、ほろりと泣ける。稀有(けう)な作品を手がけた人物に、思いを聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)
話題の漫画は、13日にツイートされた「おばあちゃんの高速盆帰り」です。7ページにわたり、亡き女性が孫の住む家に〝帰省〟する様子を描いています。
お盆直前期、あの世の係員から、精霊馬(しょうろううま)をあてがわれる亡者たち。現世の家族がキュウリで作った、可愛らしい見た目のものばかりです。
「山崎さーん」。係員に名字を呼ばれた女性は、衝撃を受けます。現れたのは、おなじみの精霊馬……ではなく、「ダッジのトマホーク」。世界最速と言われる四輪バイクです。
「何かの間違いでしょう!?」「うちの孫は5歳ですよ!?」。問い詰める女性に、係員は現世の中継映像を示します。すると専門誌の写真を参考に、キュウリ製バイクをせっせと作る男の子の姿が、目に飛び込んできたのです。
ほどなく、母親が男の子に近寄り、声をかけました。止めてやって――! 念じる女性ですが、祈りは届きません。「ホンダのCBR400Rあたりにしたらどう?」。母親の言葉に、女性が「詳しいぃぃ!! あんたの教育かい!!!」とツッコみます。
受難は続きます。特製精霊馬を完成させた男の子は、母親を伴い、女性の部屋へと向かいました。いかめしい外観のバイクが何台も並べ置かれ、さながらガレージといった趣です。
さらに、部屋の最奥部に仏壇が配置されているのを見た女性。「バイク乗りのレジェンドが死んだみたいになってる!!」と絶叫します。一方の母親は「ほらお義母さん、ダッジのトマホークですよ」と、精霊馬を遺影に示すのです。
「でもどうしてトマホークなの?」。母親の問いかけに、男の子は笑顔で答えました。「このバイクはすっごく速いから お空が遠くても おばあちゃんをすぐ連れて帰ってきてくれるでしょ?」
女性は生前、お盆を男の子と過ごし、一緒に精霊馬を作ったことがあります。ご先祖様に早く帰ってきて欲しいから、行きはキュウリの馬を。帰りはゆっくり歩く、ナスの牛を準備するんだよ……。そう伝えたのを、覚えていたのです。
胸打たれた女性は意を決し、バイク型の精霊馬にまたがり、エンジンを吹かします。「孫がうちで待っているんです」「こんなバイク怖くないですよ」。そして一筋の閃光(せんこう)となり、悲鳴と共に空を駆けていくのでした。
「情報量多すぎて爆笑」「笑えるのに泣ける」「お盆終わったけど面白い」。読者の好反応と、18万近い「いいね」を得た今作。作者は『うちのトイプーがアイドルすぎる。』などの著作がある漫画家・道雪葵さん(@michiyukiaporo)です。
道雪さんによると、今回の漫画は、2019年にツイッター上で発表した作品のリメイク版です。「最速の精霊馬で帰ってくるおばあちゃん」をテーマとして、お盆向けの漫画を書きたいと思ったのが、創作のきっかけでした。
「1ページ目から〝出オチ感〟を出したかったので、ごつい名前で、最速の乗り物の名前がないかと調べました。そしてダッジ・トマホークに行き着き、そこにひも付く形で、バイクマニアの親子ができあがりました」
原作との違いは、女性と男の子の信頼関係を示す、生前のエピソードを増やしたこと。大量の足がついた精霊馬を共同制作する話は、男の子がバイクを手がける原体験です。「特に印象深いシーン」と、道雪さんが語ります。
かくいう道雪さんですが、実は精霊馬を作った経験がありません。キュウリが大の苦手なためです。お盆を迎えると、お墓や遺影に、故人が好きだったものを供えるといいます。今夏は、愛犬の遺影にサツマイモを捧げました。
「お盆と精霊馬には、故人を慈しむ気持ちが詰まっているなと思います。子供の頃は、先祖に手を合わせても何も感じませんでした。でも年を取るにつれ、祖父や愛犬が亡くなり、死を身近に感じるようになりました」
だからこそ、お盆という時期を大切にしたい――。そんな願いから、原作の構成を練り直し、より丁寧に漫画を描いたそうです。思いが伝わったのか、今もなお目を通し、一夏の思い出を懐かしむ読者は少なくありません。
「皆様のお盆に一笑い添えられたなら、描いたかいがあるなと思います。気が向いたら、また作品を見に来て頂けるとうれしいです」。道雪さんは、そのように喜びを語りました。
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