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75歳の〝水彩画YouTuber〟柴崎さんが若者に支持されるワケ

「子どもの絵、どうほめたらいいの?」への心得

「ぺんてるクレヨンをプロの画家が使い倒すとどうなるか?!」という企画で超絶技巧を見せた柴崎春通さん
「ぺんてるクレヨンをプロの画家が使い倒すとどうなるか?!」という企画で超絶技巧を見せた柴崎春通さん 出典: YouTubeチャンネル「Watercolor by Shibasaki」より

目次

「クレヨンをプロ画家が使い倒したらどうなるか」。そんなタイトルで、子どもたちがよく使う極太クレヨンをさらさらっと走らせて、透き通るような美少女を描く動画。おすすめ動画などでご覧になったことはありませんか。「水彩画家YouTuber」柴崎春通(はるみち)さん(75歳)。その〝超絶技巧〟もさることながら、誰も否定しない人柄でも人気を集め、今、若い世代のファンを増やしています。インタビュー中に、「子どもが描いた絵になんて言ったら良いか」と相談した筆者に、やわらかい笑顔で、大切な「心得」を教えてくれました。

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子どものための「世界絵画コンクール」

チャンネル登録者数148万人。

柴崎さんは、息子から勧められて始めたYouTubeで、約5年間で、国籍も年齢もさまざまなファンを抱えるYouTuberになりました。

「こんにちは。柴崎です。お元気ですか?」

動画のスタートと終わりは、いつも視聴者の調子を気遣うあいさつ。問いかけるときは、優しく「あなた」。まるで、一対一で話しかけられているような独特な距離感が「安心」を与えてくれます。

柴崎さんはこの夏、「世界子供絵画コンクール」を初めて企画しました。

子どものためのコンクール。絵を描くのが好きな小学生であれば誰でも応募できます。大賞の「柴崎賞」では、柴崎さんによるオンラインレッスンが受けられることもあり、国際色豊かな子どもの作品が集まりそうです。(8月31日締め切り、結果発表は10月ごろ)

「初めて動画を飛ばさなかった」

人気の一つは、誰にとってもなじみ深い画材を「使い倒す」シリーズです。

ぺんてるのずこうクレヨン(極太・16色)で描いた、逆光の中の美少女は、500万回以上も再生されました。

「初めて動画を飛ばさずに最後まで見てしまった」「こんなきれいな絵を初めて見ました」とコメントがつきました。

「すごさ」だけではない柴崎さんの魅力が垣間見えるのが、「独断で見てお直し」企画。世界中から集まった大量のオリジナル作品から、柴崎さんが抽選で一作品を選んで、〝添削〟するものです。

子どもから高齢者まで、画材も作風も、ばらばらの作品。でも柴崎さんはどんな作品も、必ず、その「良さ」に注目します。

「素晴らしいですね、癒やされますね」
「どういう場所だったか積極的に伝えようとしていますね」

中1の作品を講評する柴崎さん
中1の作品を講評する柴崎さん 出典:「中1のスケッチ大会で最優秀賞の水彩画。おじいちゃん先生がお直しするとどうなるか? !」より

そして「柴崎だったら、ここは、こうしてみようかな」とアイデアを伝えます。

〝否定〟しないこと。そこには、柴崎さんのこんな思いがありました。

「誰でも〝物を作る〟ためのスタート地点は同じ。決まった道はなく、どこにでも進める、サハラ砂漠のような場所です。そこから、その人が悩んで悩んで、進む。だから、私は、その人が選んだ〝道程〟に、とても共感ができるわけです」

あなたが選んだ道、そこで見えた風景、そこには私も学ぶべきものがある――柴崎さんはそう話します。

「〝教える〟じゃなくていい」

筆者には3歳の子どもがいます。「絵に触れる」のは子どもにとって良いことのように思い、クレヨンや画用紙は常備しています。

でも、クレヨンの黒一色をぐしゃぐしゃと塗るだけの絵などを見せられると、正直、「何と言ってあげたら良いのだろう」と、途方に暮れることがあります。

柴崎さんだったらどう言うのでしょうか。

「うんうん。ひたすら、〝塗る〟ことがうれしいんですよね」「絵を描く楽しみ、表現の面白さは、みんな同じなんです」

当然のように肯定して柴崎さんは、さらに付け加えました。

「絵は〝万能の成長薬〟と思って、親が頑張り過ぎちゃっているのかな。でも、絵が薬になるかどうかはその子次第。与えたかではなく、どう受け取るかです」

そして一つ、「心得」を伝授してくれました。

それは「教えない」ということ。

「親も子も、同じ道を走る『同走者』なんです。年上って言っても、少し前からスタートしているだけで、今は、一緒に並んで走っている。だから〝教える〟じゃなくていいんですよ」。

どう言ったら良いのか、悩んでいた筆者に、柴崎さんは笑って言いました。

「絵は、大人は子どもから隠れて描くぐらいがちょうど良いんです。『こんな楽しいことやらせるもんか』って。そんな姿を見ると、子どもは自分から『道具はある?』と聞いてくると思いますよ。大人がすべきことなんて、子どもがけがをしないように配慮することだけじゃないかな」

「ダメ」と言わなかった親

柴崎さんはどんな子ども時代を過ごしてきたのでしょうか。

終戦の2年後、千葉県の外房にある小さな集落で生まれた柴崎さん。家は貧しい農家で、「ぼろぼろの服で山を駆け回って」育ち、クレヨンなどの画材や絵とは接点がありませんでした。

小学校で、図書室に並ぶ本で初めて「印刷物」に触れ、世界の写真や画集を、片っ端から手にとりました。「それしかないから、楽しかった」

大人に絵を教えてもらった記憶はないそうです。

絵は「うまい」と言われていたため、小学校の先生からコンクールに出す絵を描くよう放課後、残されたことはありました。「行ったこともない富士山を描いたら、『ダメ』って言われました」

親も絵について何か言ったことはなかったそうです。

「ただ、何をしても、『ダメ』と言われたことは一度もありませんでしたね」

農作業の合間に今日あったことを楽しく話してくれた父。貧しくてもハレの日に丁寧なごはんを作ってくれた母。

学校で教師に殴られた時には、飛んで行き、「子どもを殴るなんて何事か」と断固として家族を守ってくれた姿を忘れません。

YouTube「対応力」の源

「どんな人生だったかと聞かれると、恥ずかしいんです」と話す柴崎さん。絵の道に進んだのも、「芋虫が曲がるようにぐにゃぐにゃ、と」と表現します。

高校を出て、県庁に就職が決まったにも関わらず、「東京に行く」という友人を見て、何となく「絵の専門学校に行きたい」。そんな柴崎さんを、親は「行った方がいい。できるだけ工面するから」と送り出してくれました。

美術の大学を出て、就職先として紹介してもらった「絵画通信教育講座」。アメリカから日本に進出したばかりで、高名な絵描きを集めて講師を養成していました。

新卒だった柴崎さんは一番の〝ぺーぺー〟で、相手にもされません。ガキ大将気質だった柴崎さんには、つらい環境でした。

「悔しくて、落ち込んで。実家に帰って『辞める』と言ったら『今に、良いことがあるから』と、母が初めて泣いたんです」

「退路」を絶たれた柴崎さんは、どうやったら会社の人たちを見返せるかと考えました。

専門性に長けているほかの講師に勝つため、3倍も4倍も絵のレパートリーを増やしてどんな仕事も引き受けました。誰よりも早く分かりやすく受講者の絵を見て、アドバイスを返しました。

いつしか、ダントツに稼げる講師になっていました。その時に磨いたスキルは、いまもYouTubeの名物コーナーで生きています。

出典:「ぺんてるクレヨンをプロの画家が使い倒すとどうなるか?! 」より

「欲張らない、頑張らない、選ばない」

講師をしながら、毎週末は実家の農作業の手伝い。多忙な日々の中、40歳からはバックパッカーデビューしました。これまでに訪ねたのは、約40カ国。小さな頃に見て憧れた世界の風景を見に出かけました。

絵は、そんな旅の中でも、柴崎さんの出会いを豊かにしてくれました。行く先々でスケッチしていると、まず子どもたちが寄ってきて、楽しそうに描く柴崎さんに興味津々。つられて集まった大人たちとも、身ぶり手ぶりで打ち解けます。

「絵を描いていると、人の心は通じるんです。底辺に流れる文化は違っても、創作や描く楽しさは同じだから」

インドネシアから送られてきた若者の作品を、現地での思い出を添えて紹介する柴崎さん
インドネシアから送られてきた若者の作品を、現地での思い出を添えて紹介する柴崎さん 出典:「インドネシアの若者が描いた川と小舟の風景。おじいちゃん先生がお直しするとどうなるか?!」より

「絵を描く選択肢」が私の人生にもあったら良かったなぁ……思わずつぶやいた筆者に、柴崎さんは「もう〝過去形〟になっているじゃないですか」と、笑いかけました。


今からうまくなるんでしょうか。

「うまくならなくて良い、絵を描くのは、楽しくなることが目的なんです。お茶を飲む感覚で、描けば良い。マネでも模写でも、面白いと思うことをやっていれば、もっと良くしたいという『欲』も出るものです。楽しければ、いいんです」

絵を描く人に、柴崎さんが、いつもアドバイスすることがあるそうです。

『欲張らない、頑張らない、選ばない』こと。

「良いロケーション、良い天気、良い道具、じゃなくていい。たまたま目の前にあるものの良さ、雨には雨の良さがあるんだから」

大病もしてきた柴崎さん。75歳。今も、やりたいことが日々、湧いてくると言います。

「今日という日は一日しかないんです。『これ、面白い』と思うことを、毎日積み重ねてほしい。日常の中にどれぐらい楽しみを見いだせるか、絵があなたにとって、そのきっかけになったらいいなと思います」

柴崎春通さん
水彩画家・水彩画講師、YouTuber
1947年千葉県生まれ。和光大学芸術学科卒。荻太郎氏、中根寛氏に師事する。絵画通信教育講座の「講談社フェーマススクールズ」で絵画の指導を行う。2017年、息子に勧められて、YouTubeチャンネル「Watercolor by Shibasaki」の配信を始める。
動画では柴崎さんが「面白そう」と思ったものを企画し、自分で撮影。編集は息子が担当している。登録者数が40万人だった3年前、「YouTubeを続けていくべきか」と悩みを打ち明けると、約1万件の激励が届いた。「動けないから柴崎さんの絵を描くのを見るのが楽しい」「柴崎さんの声を聞くとよく眠れる」「いま10代。将来、あなたのように絵を描きたい」。その出来事がきっかけで、数字にとらわれず「背景が違う、おひとりおひとり」に、「あなた」と語りかけるスタイルを確立する。動画のコメントには、今もすべて自分で返信をしている。

「楽しく描いている姿を見せたい」と話す柴崎春通さん
「楽しく描いている姿を見せたい」と話す柴崎春通さん
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