連載
#141 ○○の世論
岸田政権に「一番力を入れてほしい」のは…世論調査でみえた〝本音〟
「憲法改正」と答えた割合は?
ぽっかりと、大きな穴が開いたようだと言う政治家も周りにいます。参院選の応援演説中に銃撃され、亡くなった安倍晋三元首相のことです。悲願だった憲法改正に、参院選で大勝した自民党が踏み出せるのかどうか。投票1週間後の7月16、17両日に実施した朝日新聞の世論調査(電話)で探ってみました。(朝日新聞記者・磯田和昭)
憲法を改正するには、衆参各議院の「総議員の3分の2以上の賛成」で国会が発議し、国民投票で過半数の賛成が必要です。
7月10日に投開票された参院選では、自民、公明の与党に、改憲論議に積極的な日本維新の会、国民民主を加えると、3分の2以上となりました。
「3分の2以上」という重い要件が課されたのは、それだけ大きな政治テーマだということです。
この選挙結果について「よかったと思いますか。よくなかったと思いますか」と質問すると、「よかった」が53%と半数をやや上回り、「よくなかった」が29%という結果でした。
年代別に見ると回答傾向に違いがあり、50代までは「よかった」が6割前後で、「よくなかった」より、かなり多くなっています。それが、60代より上では「よかった」が4割台半ばで、「よくなかった」と接近しています。
安倍元首相がこだわりを見せていたのが、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」などとする憲法9条の1項、2項は維持して、自衛隊の存在を明記するという案です。
そこで、岸田政権のもとで9条を改正し、自衛隊の存在を明記することの賛否を質問してみました。
結果は、「賛成」が51%で、「反対」(33%)を上回りました。
男女で違いがあり、男性は「賛成」が59%と、「反対」(30%)のほぼ倍。一方、女性は「賛成」44%、「反対」37%と賛否がもっと接近しています。
岸田文雄首相は参院選投開票日の夜のテレビ番組で、9条への自衛隊明記など自民の「改憲4項目」にふれ、「ぜひ、それを中心に議論を進め、3分の2に賛同いただける部分から発議を進めていきたい」と、意気込みを見せました。
この発言で肝心な点は、「3分の2に賛同いただける部分から」というところです。というのも、9条明記案では、3分の2を確保するのが容易ではないからです。
与党である公明は9条に手を入れるのに慎重ですし、国民民主も「何が変わるのかが、よく分からない」と玉木雄一郎代表が首をかしげています。
今回の世論調査結果は、自衛隊の9条明記にぎりぎり賛成が過半数とはいえ、今のところ発議に至るのが難しい国会の状況なのです。
では、そもそも世論は、政策課題として憲法改正の必要性をどの程度感じているのでしょうか。
質問されれば、ある特定の改正内容に「賛成」と答える人も、必ずしも、その改正を強く願っているとは限りません。
岸田首相は参院選を無事乗り切ったことで、いわば「中間試験」で及第点をもらったようなものです。なので、今後をにらんで「一番力を入れてほしい政策」を、「憲法改正」も含めた5つの選択肢から選んでもらいました。
すると、多い方から「物価対策」30%、「社会保障」23%、「景気・雇用」22%、「外交・安全保障」15%と続き、「憲法改正」は6%で最下位でした。
自民支持層でも、「憲法改正」を選んだのは8%と一番少なく、現時点で盛り上がりを欠いています。
もちろん、「憲法改正」は日常生活と直結する「物価対策」などとは、やや次元の異なる政策テーマともいえるので、こうした質問に対する回答割合の多い少ないだけをもって、世論が熱いとか、冷たいとか決めつけるつもりはありません。
ですが、安倍元首相の悲願を実現するのも、一筋縄ではいきそうにないということだけは確かなようです。
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