「秘境駅」存続を支えるトーマス列車
中でも長島ダムの人工湖「接岨(せっそ)湖」に浮かんだように見える「奥大井湖上駅」はSNSで度々、「秘境駅」として話題になっています。
エメラルドグリーンの湖と、赤い列車・橋のコントラストが美しく、人気のスポット。数々の映画やドラマの撮影舞台にもなっています。JR金谷駅から乗り換え2時間以上かかりますが、訪れた人を魅了する絶景があります。
奥大井湖上駅の標高は490m。同駅に至る区間は赤いトロッコ列車が走り、一部では急勾配を上るための「アプト式」の車両がそれを押し上げます。
1931年に大井川本線が全線開通した大井川鐵道は、地域の産業の柱だった林業を支えてきました。90年に大井川をせき止めて長島ダムが造られると、ダムを避けるように新たに線路が引かれました。
集落とともに水没するはずだった駅は廃止せず、改名の上、新線に移転することに。こうして湖に浮かぶ珍しい駅が誕生したのです。
この大井川鐵道、全国的に利用者が少ない鉄道路線が経営難にあえぐ中、実は2010年代に複数回、特に中盤以降に連続して黒字を出したことでも知られています。いかにこれを実現しているのか、同社に話を聞きました。

同社は大井川本線で1976年から本格的にSL列車を観光列車として走らせるなど、こうした事業に長年、注力していました。そして、「きかんしゃトーマス」シリーズの運行開始が2014年。
同社の全利用者数に占める観光列車の利用者数は大きく上がり、営業利益において関連する収入が主なものの一つになるなど、黒字化に大きく貢献したということです。
同社は「きかんしゃトーマス」のマスターライセンスを保有する株式会社ソニー・クリエイティブプロダクツの承認を経た上で、2022年も「きかんしゃトーマス」の運行を継続しているということでした。
同社担当者も、近年はコロナ禍の影響があり、特に県外からの旅行者数が大きく減っていると認めます。地域の人々の移動手段、そして美しい景色を守るため、鉄道会社がうったユニークな施策。多くの人がまたその目で見て、体験できる日が早く来ることを願ってやみません。
【連載】#ふしぎなたてもの
何の気なしに通り過ぎてしまう風景の中にある #ふしぎなたてもの 。フカボリしてみると、そこには好奇心をくすぐる由縁が隠れていることも。よく見ると「これなんだ?」と感じる建物たちを紹介します。