連載
#7 #探していますの物語
22年前、札幌で食べた〝いかおどり〟 「正体探しています」の結果
「あまりにおいしくて」中学時代に3人で10個も食べた、思い出の味をもう一度――。いまは関東で暮らす34歳が、故郷・札幌市の屋台で食べた懐かしの味の正体を探し、ツイッターを頼りました。
札幌市出身の眞田幸昌さん(34)は先日、妻と「粉もん」の話をしている際、子どもの頃に屋台で食べた、お好み焼きのようなものがとてもおいしかったという記憶がふと蘇りました。
「前々からあの正体はなんだったんだと気にはなっていたのですが、妻と話を共有したいし、できるなら一緒に食べたいと思いました」と、ツイッターにこんな文面を投稿しました。
【今から22年くらい前、多分北海道札幌の円山公園の出店か何かで食べたものの正体を探しています。
イカの型で焼いたお好み焼き(具はえび天、いか、卵)の串で、大が500円、小が300円でした。
「いかおどり」みたいな名前だと思いますが、検索しても見つかりません。情報が欲しいです…
大と小ではなく、海老天ありとなし、というだけだったかもしれません。 お好み焼きソースはかかっていたと思います。 本当においしく、お店の前で何回も買って食べた記憶があります。 思い出の味なので、少しでも何かわかれば嬉しいです。】
【拡散希望】
— SANA (@sana1102y) July 15, 2022
今から22年くらい前、多分北海道札幌の円山公園の出店か何かで食べたものの正体を探しています。
イカの型で焼いたお好み焼き(具はえび天、いか、卵)の串で、大が500円、小が300円でした。
「いかおどり」みたいな名前だと思いますが、検索しても見つかりません。情報が欲しいです…
22年ほど前、当時中学生だった眞田さんは、札幌市内に出店していた屋台で買った「いかおどり」を、友人2人と一緒にベンチに腰掛けて食べた思い出があります。
「私は大小合わせて3個、一緒に行った友人と合わせて10個食べたことを覚えています」
当時の状況として覚えているのは、「一切雪がなかった」ことから、6月~10月ごろだっただろうこと、場所は自転車でよく行っていた円山公園ではないかということ。
さらに、屋台の屋根の部分には「いかおどり」と書かれていた記憶もあります。
この「いかおどり」、イカが入ったお好み焼きのようなもの。眞田さんの記憶では、イカの形に焼かれた2枚のお好み焼きでサンドするようにエビ天が挟まっていたそう。
具材については当時、眞田さんが直接屋台の店主に値段が異なる二種類は何が違うのかを直接聞いたため、印象に残っていて、「エビ天が入ったものが500円だったことは間違いないです」。入っていない方は値段が数百円安かった記憶です。
眞田さんはその味を「とにかくおいしかったんですよ」と振り返ります。
部活の友だちとサイクリングをすることがたびたびあったという眞田さん。行った先で屋台があれば、たこ焼きや焼きそばなど「何かしら食べていた」といいます。
その中でも群を抜いておいしかったのが「いかおどり」でした。
大学卒業後、北海道を離れてしまいましたが、時折思い出す「いかおどり」の味。
今回ツイッターで情報を募ると「思ったよりリツイートされてありがたい」。
もしも正体が判明したり、販売場所がわかったら「夏休みに間に合えば食べられる場所まで足を伸ばしたいです」と話しています。
この「いかおどり」について、屋台が出店されていた可能性が高い場所として眞田さんが挙げてくれた円山公園にメールで問い合わせてみました。
すると、数時間後、「北海道 札幌市」と表示のある番号から電話がかかってきました。
電話をとると、円山公園の担当者からでした。
「円山公園では20年前、屋台の出店は許可していないんです」
となると、眞田さんの「もしかしたら円山公園で食べたかも」という記憶の線は消えます。
一縷の望みをかけて「ちなみに、『いかおどり』を聞いたことある方いらっしゃらなかったでしょうか」と尋ねると、「それが、誰ひとりいなくて…」。
ただ、隣接する北海道神宮では、屋台の出店が多くなされるお祭りがあるとの情報をいただきました。
そのお祭りが、北海道神宮例祭(札幌まつり)。北海道神宮に問い合わせをしてみました。
聞くと、札幌まつりで出店される屋台は多数あり、北海道神宮では境内での出店についてのみ知り得るとのこと。
ただし、20年ほど前の情報はなく、「いかおどり」についても、担当者が周囲に聞いてみるも「わかりませんでした…」とのこと。
残念。ご協力、本当にありがとうございました。
ちなみに、調べる過程で、土地の線からとは別に、食べ物の線からも、お好み焼きを調査研究する一般財団法人お好み焼アカデミーにも聞いていました。
アカデミーがウォッチしているのは店舗で食べられるお好み焼きがメイン。
そんな中でも、好み焼きチェーン「千房」の一部店舗では、有頭エビの頭の部分がお好み焼きから顔を出しているメニューがあるという情報を、膨大なお好み焼きデータベースの中から引っ張り出してきてくれました。
北海道神宮からの情報では、札幌まつりの間、近くの中島公園にも屋台が出店するとのことだったので、管轄する札幌市にも問い合わせてみました。
「個人的な思い出として覚えている職員がいるかもしれません」と周辺に聞いてみてもらいましたが、祈りも虚しく、あえなく撃沈。「(露天商らでつくる)北海道街商協同組合さんならわかるかも…」とつないでいただきました。
頼む、最後の望みの綱だ…。
取材を始めて4日目の7月22日午後6時前、一本の電話が鳴りました。
表示を見ると、ここ数日すれちがってしまっている、北海道外商協同組合からの着信です。
うおおお…。
さっそくいかおどりについて聞いてみました。
すると、「組合員の露天で、あったね」。
…たどり着きました。とうとうたどり着きました。正直、聞く人みんなから、「いやあ、知りませんね...」との反応が続き、もう、ちょっと望み薄かなと思っていた自分を殴ってやりたい。
眞田さんから聞いている細かな形状までお伝えすると、「確かそんなものだったね」。
「『いかおどり』なのにエビ天が入っているってのでね、インパクトあったよ」
ただ気になったのが、「あったね」という過去形。
おそるおそる、「いまはやっていないのでしょうか」と尋ねると、7、8年前にやめてしまったとのこと。
かつて、いかおどりを提供していた露店の店主は、いまは別の「粉もん」商品に変えて、屋台を続けているそうです。
残念な結果ではありましたが、確かに「いかおどり」は存在したという結果を眞田さんに報告しました。
眞田さんは「もう存在しないという事実に寂しい気持ちになりましたが、何よりも諸行無常を痛感しました」。
「これからは、『今』そこにあるものは、今後もそこにあるとは限らないということを意識し、今を大切に生きていこうと思います」と話します。
実は記者も眞田さんと同じ年の生まれで、地方のふるさとを離れた身です。
その土地ならではの食べ物があることは、身をもって感じていますし、なつかしの味もあります。
私の思い出の味はありがたいことにまだ存在していることが確認が取れています。ただ、幼い頃に馴染んだ味は、時代の変化と共に、残念ながら消える可能性があることも知っています。
だからこそ、眞田さんがおっしゃるように「いまを大切に」と思うのと同時に、「特別ではないけど思い出の味」のような食の情報が、どこかに集積されることの重要性を痛感しました。
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