飼い猫2匹が、あちこちでツメを研ぎ、トイレをするのでぼろぼろの部屋。でも、そこに住む男性は「あとは好きにさせてやりたい」と話します。「ハガネの女」「カンナさーん!」などで知られる漫画家の深谷かほるさんが、ツイッターで発表してきた「夜廻り猫」。今回は、研究に使われた動物を引き取った男性のエピソードです。

実験動物、引き取った飼い主の思い
きょうも夜の街を夜周り中の、猫の遠藤平蔵。心の涙の匂いと、悪臭を感じ取ります。「むっ……あの家か……」
カーテンやソファはぼろぼろ。あちこち猫の排泄物だらけの部屋を、男性が掃除をしながら「うち猫2匹いるんで」と苦笑します。
遠藤が「10匹いたってこうはならないものですぞ」と聞くと、男性はこう言いました。
「この2匹は10年前、僕が院生だったときに実験に使ったんだ その後、助けて引き取った」
「今の人間の生活は、たくさんの動物の犠牲のおかげ」「この2匹には、あとは好きにさせてやりたい」と語ります。
とはいえ、2匹の気ままさに、男性はかなり苦労しているようです。遠藤は猫たちに「せめてトイレは覚えてくれんか」「飼い主殿が命まで縮めたらどうする あんな人そうそういないぞ」と諭します。
後日、男性宅を訪れた遠藤たち。見違えるようにきれいになった部屋に、遠藤は「おっ!」と喜びの声をあげます。
男性は「トイレもツメ研ぎも覚えてくれたんだ…!」と喜びつつも「気をつかいすぎて命を縮めないといいんだけど……」と心配します。遠藤はすかさず「いや、それ普通だから」と笑うのでした。
人のために働く動物たちも
作者の深谷さんは「この話は知人の、ほぼ実話です」と話します。
猫たちを甘やかし、家がボロボロになっても不平も言わないお兄さん。
「話を聞いたときは笑ったのですが、よく考えると笑いごとではない気がします」と振り返ります。
「社会には、薬や洗剤、化粧品など、動物実験なしには成り立ってこなかったものがたくさんあり、人のために働き通す役割を負う動物もいます。
軍馬や軍用犬といった、人間が起こす戦争のために使われる動物もいますよね。ウクライナで表彰された爆発物探知犬のパトロン君は、生きて除隊できるでしょうか」
近頃、イルカショーを問題視した記事も見たという深谷さん。
「私自身、何度も楽しんだイルカショーです。しかしそれも、従来のやり方で良いかどうか、再考し変えていく責任が、人間にはあると思います」

猫の遠藤平蔵が、心で泣いている人や動物たちの匂いをキャッチし、話を聞くマンガ「夜廻(まわ)り猫」。
泣いているひとたちは、病気を抱えていたり、離婚したばかりだったり、新しい家族にどう溶け込んでいいか分からなかったり、幸せを分けてあげられないと悩んでいたり…。
そんな悩みに、遠藤たちはそっと寄り添います。遠藤とともに夜廻りするのは、片目の子猫「重郎」。ツイッター上では、「遠藤、自分のところにも来てほしい」といった声が寄せられ、人気が広がっています。
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深谷かほる(ふかや・かおる) 漫画家。1962年、福島生まれ。代表作に「ハガネの女」「エデンの東北」など。2015年10月から、ツイッター(@fukaya91)で漫画「夜廻り猫」を発表し始めた。第21回手塚治虫文化賞・短編賞を受賞、単行本8巻(講談社)を2021年11月22日に発売。講談社「モアイ」で月・金曜夜に「夜廻り猫」を、講談社「コクリコ」で木曜に夜廻り猫スピンオフ「居酒屋ワカル」を連載中。