連載
#24 凸凹夫婦のハッタツ日記
「発達障害」と「そうでない人」 生きづらさを加速させる「二極化」
虹色のグラデーションのような“十人十色”を感じられたら……
発達障害について少しずつ理解が進んできました。時折、当事者への「配慮」が話題になります。SNSなどで発達障害を公表している、自閉スペクトラム症(ASD)の西出弥加(さやか)さん(33)は、「決して特別視をしてほしいわけではない」と考えています。(文・西出弥加)
発達障害に関することがメディアでも取り上げられるようになり、一昔前よりずっとたくさんの知識が世間に知れ渡るようになりました。
広く知られた半面、話したときに「最近はやってるよね」「わざわざ言わなくても」と返答される場面も増えたように感じます。発達障害など、目に見えないあらゆる生きづらさに関しての理解が浸透するまでに、まだまだ時間はかかりそうです。目に見えるものと見えないものだと、伝わるまでの速さが大きく違うように感じます。
発達障害に関して悩み続けてきた20代前半では、「誰でもつらいんだよ」 と言われてしまったり、 「誰にでもあること」 「考えすぎだよ」 と返ってきたりすることもありました。
そして次第にわかってもらおうとも思えなくなり、私は口を閉ざして、孤立するというか、人に話さないようにするという選択肢を取りました。
「忘れっぽい」「こだわりがある」などは、誰にでもある性格のように聞こえがちです。しかし、頻度が多かったり質が異なったりするだけで、極端に生きづらさを感じている当事者もいると思います。
私も周囲に気づかれないだけで、自分では結構困ることが多いです。発達障害に限らず、目の前にいる人がどんな状態で困っているのか、私も読み取る力が必要だなと思っています。ひとつの側面だけで判断せず、時間をかけて理解していくことが大切だなと感じることも多くあります。
そしてここ数年、様々な認識が広がる中「発達障害の人」と「そうではない人」という二つのカテゴリーに分かれてしまう状態を感じることもありました。この二極化が生きづらさを加速させてしまい、結果的に孤独感を強めてしまうようにも感じます。
SNSで発達障害のことを公表してからの数年間、「そっち側の人にはならないように」というニュアンスで言葉をかけられたこともあり、戸惑いました。そして「僕は健常者ですが、障害者支援をしていたので付き合ってください」というダイレクトメールもきました。
この近い距離感にもかなり違和感がありましたが、健常者と障害者という二極化した言葉遣いに、「健常」の意味はなんだろうと考えてしまいました。
福祉の世界で支援を促すときや手帳申請のとき、「障害」という言葉は便利なものになるのですが、人と人が対峙(たいじ)したときに、「障害」という言葉自体が「障害」になり得るものだと感じることがあります。
私は二極化した分け方ではなく、虹色のグラデーションのような“十人十色”を感じられたらいいと思っています。
また、私は自分の発達障害のことを公表していますが、決して特別視をしてほしいわけではありません。
発達障害のことを知ってほしいとか、共感する人とつながりたいという純粋な想いから発信を始めました。自分のことを開示することで、例えば仕事するときにも皆さんと足並みをそろえたいという気持ちがあるだけです。
発達障害の君はこういうことが苦手で、こういうことができるんだねという、一種の取り扱い説明書のようなものを、自分の中で作っておきたいという想いがあります。
当事者の私は決して甘えたいわけではなく、互いに配慮し、ベストな状態で目的を達成させたいのです。
私の場合、会社に必ず出勤しなさいと言われたら、たとえ様々な配慮をされたとしても、業務をこなすことが難しくなってしまいます。その理由は、生活リズムが全く整わない体質だからです。決まった時間に決まった場所へ行くことが大変困難なのです。しかし、リモートワークなら仕事を続けられます。
私は社会に出てからほぼ1年で勤務していた会社を辞め、フリーランスとして仕事をすることになりました。自営業を続けて今年で10年になります。出勤が全くできず、フリーランスとなりました。出勤する形で働き続けている方にとっては、甘えているのではと感じさせてしまうかもしれません。
しかし私にとっては、出勤しなければならない状態だと数日で仕事ができなくなってしまうのです。つまり、逆に会社に迷惑をかけてしまいます。「好きな場所で、好きな時間に仕事をしていいよ」という配慮をいただくだけで、会社やお客様に対して、最大のパフォーマンスを発揮できます。
少しの配慮で、自分の能力を発揮できる人は、この世の中にたくさんいるのではないでしょうか。個々人の多様性を認め、同じ方向を向いて進める流れを、大勢で作っていけたら良いなと私は感じています。
また、配慮は障害などに関係なく万人に必要なことで、その配慮の度合いはライフステージにより変わります。
ベビーカーや車椅子を押しているときは道を少し広くあけてもらえれば進むことができますし、黒板が見えづらいときは少し前に着席できれば見えるようになります。こういうことも配慮のひとつだと私は思います。
また、周囲に一方的に負担がかかるときは、知恵を使ったり、工夫をしたりして、解決していきたいです。持ちつ持たれつの関係を作る工夫ができれば、互いにストレスが減る可能性があります。
私たち夫婦もどちらか一方に負担がかかるとよくないので、互いの苦手な分野を把握して配慮し合っています。
私は長年努力しても睡眠時間が定まらず、いつ眠るのか自分でもわからない状況です。睡眠時間を定めたい自分と、全く定まらない他人、自分の中に2人いるような感覚でコントロールができません。
無理に朝型にすると時差ぼけのような状態になり、ずっと動けなくなって無気力になります。この問題を解決するため、時差が12時間ある海外に行ったくらいです。それでも直りません。
ただ、基本的に午前中は元気がなく、夕方以降に頭がさえてくるという傾向は長年変わっていないので、夫のヒカルくんはそれを理解し、午前中に約束事を入れないようにしてくれます。また、寝ている時間が定まらない私のためにインターホンが鳴らないような気遣いをしてくれており、荷物が届くときは宅配ボックスを指定したり、コンビニ受け取りにしてくれたり、たくさんの配慮をしてくれています。
私が朝起きて夜に寝るという決まった生活をしていたらヒカルくんも楽だったのにと思うので、もし変えられるなら変えたいのですが、自分にとってはとても難しい課題です
そして、ヒカルくんにも苦手なことがあります。それは文字を読むことです。
そのため私はTODOリストを一つずつ、短文で小分けにして伝えるようにしています。一気に伝えられたら楽なのですが、一つずつ短文で伝えることによりヒカルくんも行動できるようになるので、これからもこの方法で伝えてみようと思います。
最近、耳で聞き取る方が楽だと聞いたので、電話で伝える方法を増やしています。
今後も私は、周囲の方々と持ちつ持たれつの関係を作っていきたいです。そして目標を達成できるように、足並みをそろえて行動したいです。
西出弥加(にしで・さやか)
1988年生まれ。「自閉スペクトラム症(ASD)」の当事者。2019年に「注意欠如・多動症(ADHD)」不注意優勢型の光と結婚。会社組織に所属するのは苦手で、フリーランスのグラフィックデザイナー・画家として文具などを作成している。描く絵は動物が多い。寝る時間が定まらないのが悩み。
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