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話題

「この国やばくなる」…めんどくさい投票、自分たちが行く理由

スケボーの青年「関心向けざるをえない」

スケボーの練習をしていた3人に話を聞きました。大学生・フリーターの2人と、個人事業主として副業もしている1人では、政治との距離感が違っていました
スケボーの練習をしていた3人に話を聞きました。大学生・フリーターの2人と、個人事業主として副業もしている1人では、政治との距離感が違っていました

目次

もうすぐ参院選の投票日。「若者の投票率が低い」「政治に関心がない」といわれますが、そもそも「若者」たちは暮らしのなかでどんなことに問題意識を感じているのでしょうか。それは「選挙」で争点になっているのでしょうか。

街を歩いていた記者は、強い日差しのなか軽快な音を鳴らしてスケートボードの練習をしていた若者たちを見かけました。

あなたの心と、投票所の距離はどれぐらいですか――? 同世代の記者が尋ねてみました。

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わたしと投票所の距離
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担当記者・宮坂奈津:1999年、長野県生まれ。2022年入社。千葉総局で1年目。

若い世代にとって、生活の中に政治や選挙はどう位置づけられているのだろう――。

選挙期間になると、どうしても「選挙」や「投票」が主語になりがちで、その背後にあるそれぞれの生活が見えにくくなると感じます。

「若い世代は政治に関心がない」と言われますが、外から見ても分からないだけで、本当はそれぞれ思うことがあるのでは……。

そんなもやもやを抱えて、千葉県浦安市で取材をしていると、3人のスケートボーダーたちと出会いました。

「投票行ったことない」「分からない」

6月下旬の日曜日。梅雨明け間近の炎天下、記者(23)が雑談相手を探して歩き回っていたのは東京ディズニーランド最寄りの舞浜駅、の隣にある浦安市運動公園。

「シュッシュッ」という軽快な音のする方に近づいていくと、何人ものスケートボーダーたちが太陽の下でさわやかな汗をかいていました。

珍しくて眺めていると、男の子に混ざって楽しそうに練習する女の子2人組が。

「休憩時間でいいので!」と柵の外から声をかけると、「あ、じゃあ今休憩にします!(笑)」と練習をやめて話を聞かせてくれました。


和田佳明奈さん(21):大学生(以下、かあなさん)

小原桃奈さん(19):フリーター(以下、もなさん)

2人とも都内在住。かあなさんはスケボーを始めて1年、もなさんは3カ月だそう。スケボーを通じて知り合ったといいます。

 

宮坂記者

かっこいいですね! もうどはまり?

 

もなさん

はまりましたね~。楽しいです!

いつかは大会とかにも出たい。

 

かあなさん

エッ!そうなの?

そこまでだとは……!
知らなかった。

かあなさんが努力の勲章であるたくさんのアザを見せてくれました。

痛々しい……けれど練習に打ち込む様子がうかがえます。

記者も誘われましたが満身創痍になるのが目に見えたため今回は遠慮しました……。

 

宮坂記者

7月に選挙があるんだけど、知ってました?

 

かあなさん

あー、あることは知ってました。

いっぱいポスター貼ってあるやつですよね。

 

もなさん

そうなの?

 

宮坂記者

投票に行ったことは……?

 

かあなさん

ない……?よく分からないです。

 

もなさん

ないですね……

 

かあなさん

でもそういえば、今日来る電車の中で一緒に来た人が参院選がナントカって話をしてました。

税金が?インボイスがナントカって……。それで知ってたんです。

 

宮坂記者

え、そうなの?もっと詳しく聞かせて欲しいです!

どんな流れでそういう話になったんでしょう。

 

かあなさん

お給料が増えたのに税金?も増えてて、とか……

 

宮坂記者

なるほど、自分のお給料が出発点だったんですね。

「投票行かないとやばくなる」危機感

その後、2人と「最近、生活まわりで困ったことはない?」という話題に。

一人暮らしで自炊をしているもなさんはスーパーのタマネギが高くなったことに気づいたと教えてくれました。

すると、「あ、一緒に来た人です。税金の話をしていた」とかあなさん。

スケボーを持って話の輪に入ってきてくれた男性。なぜ、かあなさんに選挙の話をしたのか聞いてみました。


池田一生さん(25):IT企業勤務の会社員(以下、いっせいさん)

都内在住。スケボーは高校生のころに始めたそう。

 

いっせいさん

6月から会社の給料がアップして手取りの額も上がるはずだったんですが、振込額はほとんど変わらずで。

明細を確認したら住民税のアップ分で相殺されていたんですね。

会社の仕事のほかに個人事業主でやっている副業の収入が、昨年は比較的良かったので住民税が上がっていたんです。

 

宮坂記者

副業もされているんですね!

個人事業主だったらお金に接することも多そう。

私なんか会社員で全部おまかせなので…。

 

いっせいさん

そこから所得税や住民税が決まる「所得」の話になって。

税金の話から直接税や間接税の話になって、消費税と言えば最近インボイスが話題だよね、となったんです。

「フリーランスや小規模事業者への実質的な増税」との批判もあるインボイス。4月に「#インボイスまだ止められる」で約7万人規模(全商連発表)のツイッターデモが起こり、訴えている政党も。

2023年に導入されようとしていますが、免税事業者はインボイス(適格請求書)を発行できません。

取引先は、インボイスが発行されないと仕入税額控除を適用できなくなるので、免税事業者を取引相手から外したり、価格の引き下げを求めたりする恐れがあります。
<課税売上高が年間1千万円以下の業者には、消費税の納税を免除する制度がある。零細事業者の事務負担に配慮するためで、約800万事業者のうち約500万事業者が免除対象だ。ただ、免税事業者はインボイスを発行できない>
<課税売上高が年間1千万円以下の業者には、消費税の納税を免除する制度がある。零細事業者の事務負担に配慮するためで、約800万事業者のうち約500万事業者が免除対象だ。ただ、免税事業者はインボイスを発行できない> 出典:朝日新聞デジタル

 

宮坂記者

それで参院選の話になったんですね。

いっせいさんはほかの友達とも政治の話とかするんですか?

 

いっせいさん

シェアハウスの同居人とかとは結構しますね。

僕が個人事業主なので、インボイス制度などは生活に密着していて関心を向けざるを得ません。

それで話題にあげるとみんな興味をもってくれ、話が広がります。

ほかの人に話すときは自分で理解しないと説明できないので、納得いくまで調べるようにしていますし、今回の選挙でもインボイス制度や税金まわりに関心をもっています。

個人事業主として自ら経費精算に携わるからこそ、税金に関する政策は生活に引きつけられる、と詳しく教えてくれたいっせいさん。

では、投票に対してはどのような考えをもっているのでしょうか。

スケボーパークへの心の距離が0メートルだとして、投票所までは何メートル?と聞いてみました。

 

いっせいさん

10メートルですね。

僕は投票に意欲的なわけでも、投票所に行きたいわけでもないんです。

 

宮坂記者

お、結構近いですね。

でも、そんなにいろいろ知っているのに投票に行きたいわけではないと。なんでなんでしょうか?

周りの雰囲気などはどうですか?

 

いっせいさん

同年代でも年々「投票に行こう!」という動きは強まっていると感じます。

でもその根底にあるのは投票に対する義務感などではなく、「自分らでしっかり意思表明をしないとこの国はやばくなる」という意識だと思います。ネガティブな動機なんです。

 

宮坂記者

義務感ではないんですね。

街で取材をしていると、「義務感で」という方も割と多くいます。

「義務」と感じずに行けるのはどうしてなんでしょうか。

 

いっせいさん

行かなくても幸せな生活が待っているなら投票には行きたくないですね。面倒くさいので。

でも今のこの「投票行こう!」の流れの中で投票率が上がったら、次は「あれはだめだ」「これはだめだ」って、政策中心の議論が若い世代の中で盛り上がるフェーズになるんではないかと思っています。

 

宮坂記者

基本的には面倒くさいものなんですね。

若い世代の投票率は低いと言われ続けていますが、「投票行こう!」の雰囲気は感じるんですね。

 

いっせいさん

難しいとは思いますが、マイナンバーとかも作ったので、オンラインでも投票できるようにして欲しいですね。

ふと、我が身を振り返ります。

記者は今まで、どちらかというと「選挙特番も楽しめるし、行った方がよくない?」というポジティブな感覚で投票に行っていたはずでした。

しかしそれは、「自分の一票で具体的な政策が左右されるんだ」という期待感からポジティブに感じていたのではなく、「どうせ変わらないかもしれないけれど」という諦め半分の無力感の裏返しだったのではないかと気づきました。

だからこそ、いっせいさんの「めんどくさいけど行かないとやばくなる」という正直な感覚に清々しさを感じました。

自由なスケボーと、息苦しい社会

練習に戻った3人の写真を撮りながらパークを眺めていると、4、5歳くらいの小さな子どもから大人まで、それぞれが思い思いにスケボーを楽しんでいる風景になんとなく居心地の良さを感じました。

必死に練習に励む小さい子がビュンビュン滑る熟達したお兄さんたちと一緒にいたら危ないのでは……? とも思いましたが、そこにはパークの居心地を保つ「暗黙のルール」があるといいます。

 

いっせいさん

スケボーって、誰にも強制されず自由で、正解がないんです。

好きなときに好きな人と好きなようにできる。それが居心地の良さなんですが、そのためにはそれぞれが最低限のマナーは守らないといけないと思っています。

 

宮坂記者

確かに、このパークにはスポーツ施設などによくある注意書きがあまり見当たらないですね。

 

いっせいさん

たとえば、自分たちで出したゴミはきちんと持って帰るとか。

誰かが「持って帰れ」と言うわけではなくても、お互い暗黙の了解で見合っているから、自然ときれいな状態が保たれます。

スケボー自体がもともとカウンターカルチャーの出なので、決まったルールはないんです。少なくとも僕はそう思っています。

 

もなさん

そうなんだ。知らなかった。

 

宮坂記者

なるほど~。

でもこれだけ自由なスケボーをやっていれば、一般社会で息苦しいと感じることも多いのではないですか?

 

いっせいさん

日本だと、「ルールは守ろう、ルールだから」とやってはいけないことのいけない理由を説明できないことが多いと思います。

 

いっせいさん

多様性を認められない人も多いと感じます。

スケートボードへの風当たりも、オリンピックで注目されたからといって弱くなったわけではありません。

多くの人にとってスケボーは堀米(雄斗選手)が大会で滑るものであって、道路でやるものではないからです。

 

宮坂記者

なるほど……。

 

いっせいさん

一時期ツイッターで、オリンピックに出るわけでもないのにストリート(道路)でスケボーをやっている迷惑者、という意味で「野良ボーダー」という言葉が流行りました。

暗黙のルールを分かっていて守らないような人はスケボーシーンから除外されます。スケボーそのものについては「そういうものなんだね」と理解して欲しいと思います。

 

宮坂記者

すごく面白いですね。

自由なスケボーから、社会の本質的じゃない部分があぶり出されているような気がします。
スケボーを「する」側から新たな視点を教えてもらい、スケボーに乗って見える社会の息苦しさの中に政治や選挙にもつながる部分があると感じました。

「投票に行かないとやばくなる」という感覚は同年代で強まっていると同時に、自由に自己表現ができるスケートボーダーだからこそより痛切に感じるものなのではないでしょうか。

「若者と政治には距離がある」と言われることはあっても、実際はそれぞれがどこかしらで接点を持っていて、自分なりの距離感を持っている。

どこどこにいたから政治に関心がある、や何々を見ていたから政治に関心がある、と客観的には判断できないような「正解のない」自分だけのスタンスで、投票所に足を運ぶU30世代は少なくないのではないかと思いました。
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