話題
「休みがない」困りごと、政治と結びつく? わたしと投票所の距離
「自分が辞めたら解決かなって」

もうすぐ参院選の投票日。「若者の投票率が低い」「政治に関心がない」といわれますが、そもそも「若者」たちは暮らしのなかでどんなことに問題意識を感じているのでしょうか。それは「選挙」で争点になっているのでしょうか。「あなたの心と、投票所の距離はどれぐらいですか――?」 同世代の記者が街を歩いて尋ねてみました。
福岡の球場前で話をしてくれたのは、介護施設で清掃の仕事をする男性。「休みが少ない」と転職を考えていますが、選挙で争点にしてほしいことは、全く別のことだといいます。
記者になって初めて、本格的に国政選挙を取材しています。選挙の争点を叫ぶ候補者の言葉と、若い世代の関心のある問題がズレている気がしてなりません。
自分の感覚を確かめるべく、6月末の日曜日に福岡の街で声をかけました。
この日はソフトバンクホークスが本拠地・福岡PayPayドーム(福岡市中央区)で北海道日本ハムと対戦。午後2時の試合開始前、ドーム付近でベンチで座っている男性を見つけました。
ドーム前ベンチに座っていたのは……
内村彰梧さん(26):福岡市、男性、介護施設の清掃員
杉山記者
内村さん
26です。
杉山記者
内村さん
そうです、友人と。待ち合わせ中です。
杉山記者
内村さん
3~4年ですかね。
杉山記者
内村さん
今宮健太選手です。
肩が強くて足も速い。飛び込んでボールをつかむところとか、アクティブな動きが多いので、かっこいいんですよね。
杉山記者
内村さん
どちら出身なんですか?
杉山記者
ちなみに、お休みの日はほかに何されてるんですか?
内村さん
バドミントンをやってます。スポーツサークル入ってて。
杉山記者
内村さん
いや、野球はやってないです(笑)
身体を動かす事が好きで、フットサルとかバレーボールとか。休みの日とか、仕事終わりに友人とやってます。
杉山記者
内村さん
介護施設の清掃業です。最近転職することに決めたんですけど。
杉山記者
内村さん
今の職場は日曜と祝日しか休みがないんですよ。
友人ともなかなか休みがあわなくて遊べなくて。暦通りにも休めないので。
杉山記者
内村さん
いや、まだです。今月末で今の職場はやめて、有休消化して、転職活動しようと思います。
一応同じ業種がいいかなって。
投票所「行ってやろうかな」ぐらいの気持ち
杉山記者
内村さん
ちょうど投票券がきてたので、いこうと思います。
まあ誰に入れるかはまだちょっと決めてないんですけど。
杉山記者
どうやって投票先を決めたんでしょうか。
内村さん
はい、行きました。
(投票先は)テレビで名前が出ている人だったかなぁ。
杉山記者
心の距離的に何メートルくらいですか?
内村さん
心の距離かぁ。うーん、10メートルですかね。
杉山記者
さっきお話を聞いた10代の子は、「30km」って言ってました。
福岡市外の方で、「自分の家からペイペイドームの距離ってどのくらいだろう」と言うので、調べて「40km」って答えたら、「それよりは近いから30kmですね」って。
内村さん
あ、物理的にもありますね。
家の目の前が小学校で、投票所なんで(笑)
杉山記者
でも目の前に投票所があったら、遠いところよりは気楽に行けますよね。
内村さん
そうですね。「行ってやろうかな」くらいの気持ちです。
去年の衆院選は、取材先の目の前が期日前投票所だったので、取材終わりにふらっと投票しました。
買い物ついでに、学校や職場で、あるいは家にいても投票できるとなったら便利なのになぁって思います。
「自衛隊の賃金を上げてほしい」その理由は…
杉山記者
内村さん
自衛隊員の賃金、ですかね。上がってほしい。少なすぎると思います。
上がれば、入隊希望者が増えるんじゃないかな。
杉山記者
身近な方が自衛隊にいらっしゃるんですか?
内村さん
自分、昔自衛官だったんですよ。
杉山記者
内村さん
はい(笑)高卒で入って、1年間くらい自衛官してました。
杉山記者
内村さん
就職先を決めるころにちょうど東日本大震災が起きて。
ニュースとかで自衛官が被災地で活躍する姿を見て、かっこいいなって思ったんです。
杉山記者
実際に入ってどうでしたか? きつくなかったですか。
内村さん
大変でした。訓練はめちゃくちゃきつかったです。でも、やりがいはありましたよ。
杉山記者
内村さん
対馬(長崎)に異動になったんですよ。行ったはいいんですけど、自然しかなくて。
ストレス発散になるようなはっちゃけて遊べる場所がなかったんです。
杉山記者
内村さん
お金はたまるんですけどね。
でも買い物いくところとかそういう遊べるところがなくて、辞めました。
杉山記者
賃金が高かったら自衛隊を離れなかったという気持ちですか?
内村さん
うーん。そういうわけではないんですけど、改めて争点とか言われてみればなっていう感じです。
ウクライナ侵攻とかみたら大変そうだし、日本にも影響があるのかなって。
防衛費を上げるって候補者が言ってますけど、そういう中に人件費とかが組み込まれてたらいいなぁって思います。
杉山記者
自衛隊を辞められたきっかけの一つが全国転勤だと思いますけど、それを変えてほしいという気持ちにはなりませんか?
内村さん
あ~そうですねぇ。
でも色々な場所で経験を積むのはいいことかなって。
杉山記者
なぜ多くの政治家は、自衛隊員の賃金についてふれないんだと思いますか?
内村さん
社会にはいろんな問題があるから、自衛隊の問題にも気づいていないのかなって。
杉山記者
お話し聞かせてもらってありがとうございます!頑張って記事書きますね。
「働き方」の話、政治とつながってない?
杉山記者
内村さん
逆転負けだったので残念です。運が悪かった。
杉山記者
それって、「政治」につながってるんじゃないかと思ったんですけど、その感覚はありますか?
内村さん
あ~~~~~……。特にないですね。
杉山記者
内村さん
しました。
やっぱり、土曜日に人が足りているなら休みにしてもいいんじゃないかって。
杉山記者
上司の方に、それを伝えたことはありますか?
内村さん
思っとっただけで、言ってないです。
杉山記者
内村さんだけでなく、若者に取材をしていると「選挙に興味がない。仕事やプライベートで忙しく、考えている余裕がない」「政治について考えたことがない」という声を聞きました。
「自分と関係のない話な気がする」という声も。
内村さんの政治との距離感は、若者のリアルなのかもしれません。
杉山記者
内村さん
そうですねぇ……うーん。
杉山記者
内村さん
制度ができるとか政治が動くには、時間がかかるのかなって。
そもそも政治と結びつくって、思いつかなかったです。
杉山記者
選挙の争点になってほしいって思ったりしますか?
内村さん
あ~……。あんまり思わないです。
杉山記者
内村さん
う~~~~ん……。
杉山記者
内村さん
そうですね。休みがないなってぼんやり考えてはいましたけど、争点とか政治とか、そこまで深く考えていなかったです。
今の職場をやめたらすぐ解決するかなって。
働く条件がいい職場は、ちょっと探せばいくらでもあると思うんです。
杉山記者
まだ投票先は決めてないってお話でしたけど、その後、どう決めるか考えたりしましたか?
内村さん
前は誰でもいいって思ってたんですけど、記者さんから声をかけられて、誰だったら社会をよくしてくれそうかなって、なんとなく考えるようになりました。
具体的に「こうしてくれたら社会が良くなる」っていうのはあまりないんですけど。
杉山記者
投票所が目の前にあっても、政治に働きかけるより自分の環境を変えた方が早い。社会にはいろんな問題があるから、政治は気づいてくれないと感じてしまう。
選挙の争点と、若い世代に関心のある問題ってずれているのでは……?
そう考えて取材に臨みましたが、それ以前に「自分の困りごとが政治とつながると感じていない」のだと気づきました。
遠く感じてしまう政治をどう描けばいいのか……。その難しさを痛感しました。