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話題

「休みがない」困りごと、政治と結びつく? わたしと投票所の距離

「自分が辞めたら解決かなって」

介護施設で働く内村さん。「自衛隊員の賃金が上がってほしい」といいます。その理由は……
介護施設で働く内村さん。「自衛隊員の賃金が上がってほしい」といいます。その理由は……

目次

もうすぐ参院選の投票日。「若者の投票率が低い」「政治に関心がない」といわれますが、そもそも「若者」たちは暮らしのなかでどんなことに問題意識を感じているのでしょうか。それは「選挙」で争点になっているのでしょうか。「あなたの心と、投票所の距離はどれぐらいですか――?」 同世代の記者が街を歩いて尋ねてみました。

福岡の球場前で話をしてくれたのは、介護施設で清掃の仕事をする男性。「休みが少ない」と転職を考えていますが、選挙で争点にしてほしいことは、全く別のことだといいます。

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わたしと投票所の距離
※クリックすると特集ページに移ります。
担当記者・杉山あかり:1998年、岩手県生まれ。2021年に入社し、福岡で勤務。

記者になって初めて、本格的に国政選挙を取材しています。選挙の争点を叫ぶ候補者の言葉と、若い世代の関心のある問題がズレている気がしてなりません。

自分の感覚を確かめるべく、6月末の日曜日に福岡の街で声をかけました。

この日はソフトバンクホークスが本拠地・福岡PayPayドーム(福岡市中央区)で北海道日本ハムと対戦。午後2時の試合開始前、ドーム付近でベンチで座っている男性を見つけました。

ドーム前ベンチに座っていたのは……


内村彰梧さん(26):福岡市、男性、介護施設の清掃員
 

内村さんと投票所の心の距離=10メートル

 

杉山記者

すみません、今U30の方に話しかけてるんですけど、もしかして20代ですか?

 

内村さん

26です。

 

杉山記者

ビンゴ!! 今日は試合を見に?

 

内村さん

そうです、友人と。待ち合わせ中です。

 

杉山記者

長らくファンなんですか?

 

内村さん

3~4年ですかね。

 

杉山記者

長いですね! ちなみに好きな選手は?

 

内村さん

今宮健太選手です。

肩が強くて足も速い。飛び込んでボールをつかむところとか、アクティブな動きが多いので、かっこいいんですよね。

 

杉山記者

なるほど。すみません、福岡出身じゃないのもあってホークスあまりくわしくなくて……

 

内村さん

どちら出身なんですか?

 

杉山記者

岩手です。だからどちらかというと、楽天かも(笑)

ちなみに、お休みの日はほかに何されてるんですか?

 

内村さん

バドミントンをやってます。スポーツサークル入ってて。

 

杉山記者

おぉ、アクティブですね。野球もされてたんですか?

 

内村さん

いや、野球はやってないです(笑)

身体を動かす事が好きで、フットサルとかバレーボールとか。休みの日とか、仕事終わりに友人とやってます。

 

杉山記者

お仕事はなにを?

 

内村さん

介護施設の清掃業です。最近転職することに決めたんですけど。

 

杉山記者

あ、そうなんですか。それはなんでまた

 

内村さん

今の職場は日曜と祝日しか休みがないんですよ。

友人ともなかなか休みがあわなくて遊べなくて。暦通りにも休めないので。

 

杉山記者

それはきついですね……。転職先は決まったんですか?

 

内村さん

いや、まだです。今月末で今の職場はやめて、有休消化して、転職活動しようと思います。

一応同じ業種がいいかなって。

投票所「行ってやろうかな」ぐらいの気持ち

 

杉山記者

実は今、参院選の取材の担当をしていまして。今年は投票いかれますか?

 

内村さん

ちょうど投票券がきてたので、いこうと思います。

まあ誰に入れるかはまだちょっと決めてないんですけど。

 

杉山記者

去年の衆院選も投票しました?

どうやって投票先を決めたんでしょうか。

 

内村さん

はい、行きました。

(投票先は)テレビで名前が出ている人だったかなぁ。

 

杉山記者

投票所との距離をみなさんに尋ねています。

心の距離的に何メートルくらいですか?

 

内村さん

心の距離かぁ。うーん、10メートルですかね。

 

杉山記者

近いですね!?!?

さっきお話を聞いた10代の子は、「30km」って言ってました。

福岡市外の方で、「自分の家からペイペイドームの距離ってどのくらいだろう」と言うので、調べて「40km」って答えたら、「それよりは近いから30kmですね」って。

 

内村さん

あ、物理的にもありますね。

家の目の前が小学校で、投票所なんで(笑)

 

杉山記者

なんだ(笑)

でも目の前に投票所があったら、遠いところよりは気楽に行けますよね。

 

内村さん

そうですね。「行ってやろうかな」くらいの気持ちです。

休みの日に家から遠い場所に設置された投票所に向かうのは、記者だってめんどくさい。

去年の衆院選は、取材先の目の前が期日前投票所だったので、取材終わりにふらっと投票しました。

買い物ついでに、学校や職場で、あるいは家にいても投票できるとなったら便利なのになぁって思います。

「自衛隊の賃金を上げてほしい」その理由は…

 

杉山記者

選挙で争点になってほしいとか、候補者に「こういうこと言っていてほしい」とかありますか?

 

内村さん

自衛隊員の賃金、ですかね。上がってほしい。少なすぎると思います。

上がれば、入隊希望者が増えるんじゃないかな。

 

杉山記者

(介護施設で働いているのに、なぜ自衛隊……!?)

身近な方が自衛隊にいらっしゃるんですか?

 

内村さん

自分、昔自衛官だったんですよ。

 

杉山記者

え!?!? そうなんですか!?

 

内村さん

はい(笑)高卒で入って、1年間くらい自衛官してました。

 

杉山記者

どうして自衛隊に入ったんですか?

 

内村さん

就職先を決めるころにちょうど東日本大震災が起きて。

ニュースとかで自衛官が被災地で活躍する姿を見て、かっこいいなって思ったんです。

 

杉山記者

なるほど。私も震災当時岩手にいたので、自衛隊の活躍は耳に入ってきました。

実際に入ってどうでしたか? きつくなかったですか。

 

内村さん

大変でした。訓練はめちゃくちゃきつかったです。でも、やりがいはありましたよ。

 

杉山記者

辞めようと思った理由はなんですか。

 

内村さん

対馬(長崎)に異動になったんですよ。行ったはいいんですけど、自然しかなくて。

ストレス発散になるようなはっちゃけて遊べる場所がなかったんです。

 

杉山記者

なるほど。

 

内村さん

お金はたまるんですけどね。

でも買い物いくところとかそういう遊べるところがなくて、辞めました。

 

杉山記者

今は自衛隊を離れていらっしゃるのに、賃金を上げてほしいと思うのはなぜですか。

賃金が高かったら自衛隊を離れなかったという気持ちですか?

 

内村さん

うーん。そういうわけではないんですけど、改めて争点とか言われてみればなっていう感じです。

ウクライナ侵攻とかみたら大変そうだし、日本にも影響があるのかなって。

防衛費を上げるって候補者が言ってますけど、そういう中に人件費とかが組み込まれてたらいいなぁって思います。

 

杉山記者

たしかに、防衛費についての話はあっても、自衛隊員の賃金について話している候補者はあまりみたことがないですね。

自衛隊を辞められたきっかけの一つが全国転勤だと思いますけど、それを変えてほしいという気持ちにはなりませんか?

 

内村さん

あ~そうですねぇ。

でも色々な場所で経験を積むのはいいことかなって。

 

杉山記者

私も全国転勤がありますが、知らない土地で生活して初めて分かることもありますよね。

なぜ多くの政治家は、自衛隊員の賃金についてふれないんだと思いますか?

 

内村さん

社会にはいろんな問題があるから、自衛隊の問題にも気づいていないのかなって。

 

杉山記者

なるほど……。
お話し聞かせてもらってありがとうございます!頑張って記事書きますね。
内村さんに話を聞いていざ原稿を書いていると、ふと疑問がわき上がってきました。5日後に、電話で再び話を聞きました。

「働き方」の話、政治とつながってない?

 

杉山記者

お忙しいところすみません。この間の試合、ホークス負けちゃいましたね。

 

内村さん

逆転負けだったので残念です。運が悪かった。

 

杉山記者

先日お話伺ったとき、「今の職場は休みが少ないので転職する」とお話されてましたよね。

それって、「政治」につながってるんじゃないかと思ったんですけど、その感覚はありますか?

 

内村さん

あ~~~~~……。特にないですね。

(「特にないですね」が出てくるまで、15秒くらい間がありました)

 

杉山記者

お休みの少なさについて、職場の方と話されましたか?

 

内村さん

しました。

やっぱり、土曜日に人が足りているなら休みにしてもいいんじゃないかって。

 

杉山記者

みなさん同じように思ってたんですね。

上司の方に、それを伝えたことはありますか?

 

内村さん

思っとっただけで、言ってないです。

 

杉山記者

あ~~~、会社への不満って、上司に言いづらいですよね。

内村さんだけでなく、若者に取材をしていると「選挙に興味がない。仕事やプライベートで忙しく、考えている余裕がない」「政治について考えたことがない」という声を聞きました。

「自分と関係のない話な気がする」という声も。

内村さんの政治との距離感は、若者のリアルなのかもしれません。

 

杉山記者

やや極端な話ですけど、政府や政治家が、週に2日しっかり休みましょうと呼びかけたり制度を作ったりしたら、内村さんの働き方が変わる可能性もあるかもって思ったんですが。

 

内村さん

そうですねぇ……うーん。

 

杉山記者

あまり政治には期待していない感じですか?

 

内村さん

制度ができるとか政治が動くには、時間がかかるのかなって。

そもそも政治と結びつくって、思いつかなかったです。

 

杉山記者

分かります、私もお話を聞いて、あとから政治と結びつくんじゃないかな?と思って。

選挙の争点になってほしいって思ったりしますか?

 

内村さん

あ~……。あんまり思わないです。

 

杉山記者

なにか理由はありますか?

 

内村さん

う~~~~ん……。

(電話の向こうで、悩む内村さん)

 

杉山記者

争点になるイメージがわかない感じですかね。

 

内村さん

そうですね。休みがないなってぼんやり考えてはいましたけど、争点とか政治とか、そこまで深く考えていなかったです。

今の職場をやめたらすぐ解決するかなって。

働く条件がいい職場は、ちょっと探せばいくらでもあると思うんです。

 

杉山記者

たしかに……。ネットで転職先も簡単に探せちゃいますもんね。

まだ投票先は決めてないってお話でしたけど、その後、どう決めるか考えたりしましたか?

 

内村さん

前は誰でもいいって思ってたんですけど、記者さんから声をかけられて、誰だったら社会をよくしてくれそうかなって、なんとなく考えるようになりました。

具体的に「こうしてくれたら社会が良くなる」っていうのはあまりないんですけど。

 

杉山記者

お話、ありがとうございました。
内村さんの、投票所との心の距離は、10メートル。物理的にも近い。

投票所が目の前にあっても、政治に働きかけるより自分の環境を変えた方が早い。社会にはいろんな問題があるから、政治は気づいてくれないと感じてしまう。

選挙の争点と、若い世代に関心のある問題ってずれているのでは……? 
そう考えて取材に臨みましたが、それ以前に「自分の困りごとが政治とつながると感じていない」のだと気づきました。

遠く感じてしまう政治をどう描けばいいのか……。その難しさを痛感しました。

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