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握手会から着想…「私を杉並区に引き留めて」 候補者取材した大学生

「候補者の言葉の中に私がいるんだと感じた」と振り返る出来事とは。

東京女子大学3年生で、「西荻のこと研究所」の伊藤花織さん
東京女子大学3年生で、「西荻のこと研究所」の伊藤花織さん

目次

当選者と次点の獲得票数が187票差の接戦だった、東京都の杉並区長選の候補者に告示前、インタビューした大学生がいます。インタビュー内容を、YouTube動画とテキストでの書き起こしで配信すると、その内容はツイッターなどで拡散され、多くの反響が寄せられました。インタビューをした大学3年生に、選挙や政治との距離について聞きました。

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ツイッターで拡散、アクセスが爆増

長野県出身で、東京女子大学でまちづくりについて学ぶ伊藤花織さん(20)は、杉並区西荻のまちづくりについて考えるコミュニティー「西荻のこと研究所」(以下、こと研究所)のメンバーとして、6月にあった杉並区長選の候補者3人に告示前、まちづくりの方針について取材をしました。

「進めたい施策」や「区民性へのイメージ」のほか、杉並区の魅力を引き出す目的で、「(都外から進学している伊藤さん自身を)杉並区に引き留めてください」などのユニークな設問など、計八つを3人に共通して聞きました。

6月、このインタビュー内容を「こと研究所」のホームページに掲載すると、関連するページがツイッターなどで広く拡散。3人のインタビューそれぞれのYouTube動画再生回数は、合計で1万8千回近くになりました。

「ホームページへのアクセス数がこれまでは一日平均50人くらいだったのですが、インタビューに関連するページへのアクセスが合計で9万ビューくらいになりました」

インタビューのまとめページ
インタビューのまとめページ 出典:西荻のこと研究所HPより
《伊藤さんの取材記事、動画はこちら》
https://nishiogi.org/220619kuchointerviews/

「東京に染まりたくて」参加したコミュニティー

伊藤さんが「こと研究所」に参加するようになったのは1年半前。動機は「東京に染まりたかったから」。

伊藤さんが大学に入学したのは2020年4月でしたが、コロナ禍の影響で、オンライン授業が続いたため、翌年2月までは実家からパソコンを使って講義を受けていました。

2021年2月に上京しましたが、オンライン授業は続き、友人がなかなかできない日々。このままではせっかく東京にいても、街になじめないまま――。「東京に染まりたい」と、伊藤さんが在籍する東京女子大学もある杉並区の中でも、西荻について考える「こと研究所」に参加するようになりました。

そして今年6月、杉並区の区長選にあわせて「こと研究所」では候補者へのインタビューを計画。「大人が行っても心を開いてくれないかもしれないから」と、インタビュアーは唯一の大学生である伊藤さんに決まりました。

「候補者と話ができる機会なんてそんなにないし、一回会ってみないとどんな人かもわからない」と考えたという伊藤さん。そして「区長になるかもしれない人に会える」と、インタビューの準備を始めました。

ただ、準備をする中で、不安が募っていったといいます。
「まだ杉並に住んで1年半の自分自身がインタビューしてしまっていいのか」。ですが、「こと研究所」の活動の中で、地域の課題を話し合ったり、困り事を抱えた当事者の話を聞いたりしてきた経験があったので、そこを起点に質問項目を組み立てていきました。

東京女子大学3年生で、「西荻のこと研究所」の伊藤花織さん
東京女子大学3年生で、「西荻のこと研究所」の伊藤花織さん

回答の裏側にある「バイアス」に気付いた

八つの質問の中には、「候補者が5秒くらい戸惑う」質問がありました。

それが「私を杉並区に引き留めてください」。

伊藤さんによると、この質問は、友人から聞いたという、「地下アイドル」の握手会関連の文化から着想したものなのだそうです。

伊藤さんいわく、ファンの中には握手会で「推し」のメンバーに対して、あえて心を揺さぶるような言葉をかける人もいるといいます。「担当おりちゃうよ(ファンをやめちゃうよ)、引き留めて」などの発言です。

アイドルからすると、理不尽な声かけに感じられるかもしれません。しかしファンとの間に、強い信頼関係があるからこそ、成り立つコミュニケーションと言えます。実際、ファンのために奮起するきっかけにもなっているそうです。

この文化が、選挙にも通じると感じたという伊藤さん。質問の趣旨について「私の立場にどこまで寄り添ってくれ、私の人生を考えた上で『ここは住みやすいよ』と言ってくれる話を引き出したかった」と語ります。

実際に候補者に問いを投げかけてみると、回答は、三者三様でした。

その中でも伊藤さんが「おもしろい」と感じたのは、候補者の中にある「女子大生バイアス」だったといいます。

「ハードな質問だったなとは思っています」とした上で、「回答の中で、結婚・出産ありきの答えが出てきた人もいたのですが、その人が潜在的に考えている『女の子の人生の中で大切にしているであろうこと』が見えたのがおもしろかった」

「候補者の言葉の中に、『私』がいた」

区長選立候補者(当時)3人と、インタビューという形でそれぞれ30分ほど話したことで、選挙と自分との距離感は「超変わりました」と伊藤さん。

伊藤さんが18歳で選挙権を得てから投票に行った選挙は二つ。一つは昨年の衆院選、もう一つは地元の市長選です。

「市長選のときは投票先は肩書で選んだし、衆院選はギリギリまで投票に行くかどうかも迷っていました」

インタビュー以前の選挙では、投票こそ行ったものの、候補者の政策をじっくり読んだり、街宣を聞きに行ったりするようなことはありませんでした。

ただ、それも今回のインタビューで変わりました。

これまでは候補者のパンフレットなどで字面だけ追っていた情報でしたが、直接候補者と話すことで、人柄や政策の深い中身を知ることができ、街宣にも足を運ぶようになりました。

「政策だけを見ているとみんな同じような『いいこと』を言っているように見える」と伊藤さん。でも、実際に話をしてみると、その人がどんな展望でその政策をやろうとしているのかをより詳しく知ることができたといいます。

候補者に自分の思いを伝える重要性も感じました。
区長選のインタビューでは、「家賃が高い。これからも家賃は高くなるか」という、伊藤さんの生活実感を込めた質問も。

すると、インタビュー後、ある候補者は街頭演説の内容の中に「家賃が高くて苦しんでいる学生さんがいる」という内容を追加してくれていたといいます。「その候補者の言葉の中に私がいるんだと感じました」

通行人にあいさつする参院選の立候補予定者(中央)=2022年6月15日、東京都港区、西岡臣撮影
通行人にあいさつする参院選の立候補予定者(中央)=2022年6月15日、東京都港区、西岡臣撮影 出典: 朝日新聞

インスタのストーリーに「街宣来ちゃった」

一方、友人に選挙の話をするハードルは高いと感じています。

杉並区長選の選挙期間中、伊藤さんは大学の友人に対して、区長選に興味を持ってもらいたいと、相手の関心に寄せて選挙や候補者について話そうとしたそうです。

具体的には、講義の前に直接声をかけたり、インスタグラムのダイレクトメッセージ(DM)で連絡したりしました。しかしどの友人も「うーん……」と、会話が続くような反応ではなかったといいます。

生活と選挙が地続きだと感じることができたら、友人たちとも選挙の話がしやすくなるかもしれないと伊藤さんは考えています。今年7月10日に投開票が行われる参院選についても、思いは同じです。

「これからも国外のアイドルに会いに行けますか?」――。これは、中国のアイドルにはまっているという伊藤さんが、参院選の候補者に質問したいことです。

外交交渉能力のない国会議員が誕生すると、外国との関係に悪影響が及ぶかもしれない。そうすれば、自分の「好き」が続けられなくなるのではないか。そんな危機感があるといいます。

「もし中国に行けなくなってしまうことがあると、推しに会えなくなり、困ります」

さらに、「選挙の楽しさ」が伝わることも必要だと話します。

伊藤さんは杉並区長選で、街宣をよく聞きに行きました。
その際、候補者とツーショットを撮り、「街宣聞きにきちゃった」などのテキストを入れて、インスタの「ストーリー」に頻繁に投稿。友人からは「なんか楽しそうだね」などのDMが来たりするようになりました。

「『投票に行こう』とかじゃなく、自分が選挙を楽しんでいるんだということが伝わればいいと思っていました」

伊藤さんは、参院選の投票にも行くつもりです。

東京女子大学3年生で、「西荻のこと研究所」の伊藤花織さん
東京女子大学3年生で、「西荻のこと研究所」の伊藤花織さん

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