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ネットの話題

女王アリが羽を捨てた……なぜ? 話題の動画「ドレスを脱ぐよう」

「結婚飛行」後の行動の意味がすごかった

ベランダで見つけた小さなアリの話です
ベランダで見つけた小さなアリの話です 出典: マッツォ@smile_mammyさん( @matuda_morikazu )のツイート

目次

ベランダで、一匹の小さなアリが羽を落とそうとしている――。「女王アリだ……」とっさに撮影した動画が、ツイッターで話題になっています。専門家に解説してもらうと、その行動の本当の意味が分かりました。

「カッコいい年のとり方」を考えたら、見えにくいモノが見えてきた(PR)

ハラハラと光りながら

ツイッターで話題になったのは、マッツォ@smile_mammyさん( @matuda_morikazu )が投稿した30秒の動画です。
ベランダに出たら結婚飛行を終えた女王蟻が、もう使う事のない羽根を落としてる場面に遭遇した。

ネットによじ登る一匹のアリ。ほどなくして、透明の羽を、足を使いながら、自らもぎ取り出しました。自分の体と同じぐらい大きな羽が、ハラハラと光りながら落ちて行きます。


この動画には「美しい」「なぜか泣けてくる」「自ら飛ぶことを捨てるんだ」などと驚く声が集まり、12万件以上のいいねがつきました。

「まいっちゃう」

撮影したマッツォさんこと、松田守和さんに伺いました。

普段はsmile_mammyという名前で「ニヤリとするような」シルバーアクセサリーを作っているという松田さん。

6月18日の早朝4時半。制作が一段落したので、いつものようにベランダに出て、植物や景色を眺めようとしました。

丘の中腹にある自宅。ベランダは2階部分ですが、気持ちの良い風が吹いていました。

ふと、ベランダに張ってあるネットに小さな虫がとまっているのを見つけました。

「女王アリが、羽を落とそうとしている」

ベランダのネットにとまっていた小さなアリを見つけました
ベランダのネットにとまっていた小さなアリを見つけました 出典: マッツォ@smile_mammyさん( @matuda_morikazu )のツイート

昔から、虫をはじめとした生き物が好きで、よく本や番組を見ていたという松田さんは、そのアリが何をしようとしているかを察しました。

とっさにスマホを向けて、撮影すること1分30秒。キラキラと落ちていった羽を、拾い上げて指に乗せました。

ただ在るだけで胸を打つほど美しいんだからまいっちゃう
マッツォ@smile_mammyさん( @matuda_morikazu )のツイート
マッツォ@smile_mammyさん( @matuda_morikazu )のツイート

「感情のその先」を感じ取って表現する人たち

毎年、この時期になると、街灯にたくさんの羽アリが群がったり、大きな羽を付けたアリの姿を見たりして、松田さんは「もうそんな季節なんだなぁ」と、アリの「結婚飛行」に思いを馳せていました。

「結婚飛行」は、それぞれの巣で育った女王アリとオスのアリたちが出会い交尾をすること。

普段から小さな生き物に向けていた目が、「アリが羽を落とす」珍しい場面に遭遇させてくれました。

「シルバーアクセサリーという形を創る者として、虫や動物、植物など自然の造形や生態の美しさには毎回、心を打たれます。同時に、自然の美しさにはやっぱりかなわないという気持ちにさせられます」

投稿への反響は予想外に広がりました。動画を見て、羽アリの生き様に思いを重ね、イラストを描いたり、漫画で表現したりする人も現れました。

「私はただ美しいとだけしか感じなかった感情のその先を感じ取って表現していて、人によって見えるものの違いを垣間見られたのが興味深かったです」

「優雅ではない」女王の暮らし

ところで、松田さんが気になっていたのは、このアリの種類でした。動画のリプライに「クロクサアリですね」と指摘する人がいて、調べていたところだったといいます。「クロクサアリだったら、面白いなと思っています」

筆者は、アリ研究している甲南大学理工学部生物学科の「細胞学研究室」に問い合わせをしました。

回答してくれた後藤彩子さんによると、「クサアリの一種のように見えます」とのこと。これが、結婚後の生活を知る上での重要なキーワードでした。後藤さんに聞きました。


 ◇  ◇  ◇

――女王アリはなぜ、羽を落としてしまうんですか?

アリは、翅(ハネ=昆虫学的には羽ではなく、翅と表記します)を落とした後に、巣を建設します。

これから地中や朽木の隙間などの狭い空間で巣を作るので、その際に邪魔になるのと、一般的なアリでは翅を羽ばたかせるのに必要な飛翔筋をエネルギーに変えて、飲まず食わずで子育てするためです。


ただ、今回の動画の「クサアリ」は社会寄生をする種です。だから、女王アリが単独で子育てをすることはしません。

「社会寄生」をする種は、交尾をして翅を落とした後、他の種のアリの巣に忍び込みます。そして、その巣の女王を殺して、その巣の働きアリたちを騙し、自分が女王になり変わって、自分の子を育てさせます。


――想像以上に、したたか! 「切ない」「ウェディングドレスを脱ぐよう」など、人間社会に重ねて共感する人も多いようですが、アリの研究者は動画をご覧になって、どう感じますか。

私にとっては、「これから一仕事だぞ」という気概を感じます。社会寄生種の場合は、「これから寄生するぞ」というところですし、そもそも女王にとって交尾は長い寿命のまだまだ初期段階なので。あまり繊細で美しいイメージはないです。

「死ななければラッキーな世界」

同研究室では、女王アリの暮らしについて、ブログで「決して優雅ではない」と解説しています。

女王アリ生活はサバイバル : 研究室日記 

「社会寄生種」ではなく、普通の「結婚飛行」をするタイプの女王場合を、こう表現しています。

ぬくぬくと育った家から追い出される。
見知らぬ土地で、自分を食べようと攻撃してくる者をかわしながらの「結婚飛行」。
運良く羽アリのオスと交尾できても、オスとはそこでお別れ。
なんとか自分の居場所を見つけ、空腹のままで子育てしても、途中で力尽きたり、子どもに殺されることも。

松田さんがベランダの鉢で、以前見つけた「翅」
松田さんがベランダの鉢で、以前見つけた「翅」 出典: マッツォ@smile_mammyさん( @matuda_morikazu )のツイート


後藤さんは「社会寄生」の女王アリの現実も、付け加えました。

「『社会寄生』の生き方は、確かにしたたかに聞こえるのですが、実際の寄生成功率はかなり低いと考えられており、ほとんどの女王は忍び込んだ先の働きアリに返り討ちにあってすぐに殺されます。いずれにしても、どの種の女王も、死ななければとてもラッキーな世界で生きています」


アリには、それ以外の脅威もあります。ヒトです。

「特に夏前に大量発生するアリは、嫌われがちな存在。数年前にヒアリの侵入が騒がれてから、さらに忌み嫌われて、ヒアリではないのに無駄に殺されているように感じます」

アリに良い印象をもっていなかった人に「少しでも響く内容になると、嬉しいです」と話しました。

「美しさ」に含まれていたもの

さて、松田さんに「クサアリの可能性が高い」との取材結果を伝えました。

社会寄生する「クサアリ」の生態は、あの動画から多くの人が抱いた「はかなさ」よりも、ずっと「したたか」でした。

見方が変わるのかと思いきや、松田さんは「クサアリと知って動画を見ても、初めてこの光景を見た時と変わらず、ただ『美しい』と思います。『美しい』と思った要因には、強さも含まれているからかもしれません」と答えました。


あの羽を落とした女王アリがどうなったのかは、分かっていません。でも、ベランダに出る楽しみが一つ増えました。

「しばらく後になって、今まで見かけなかった種類のアリをベランダで見かける事があったなら、あの動画の女王アリはうまく自分の国を作れたんだなぁ、と思うと思います」

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