若い人はなぜ選挙に行かないのでしょうか――。全国の学校で、政治を身近に伝える授業をしてきたこの6年間、記者たちから「なぜ若者は投票しないのか」と聞かれたのは100回以上になります。一方で「どうすれば政治に参加するか」という質問はあまり受けません。6万人以上の子どもたちに出張授業を届けてきた私から、「若者の政治参加を促す三つの提案」をしたいと思います。(笑下村塾・たかまつなな)
毎回選挙の度に、メディアは「若者の低投票率は問題だ」「若者はなぜ政治参加しないのか」など特集を組む。
そして現役大学生にカメラを向け、その理由を聞いて紹介するだけという一連の流れは、「若者を消費して終わり」のように感じてしまう。
国政選挙の度に同じことを取り上げているが、積み上がっていかないのだ。もっと抜本的に仕組みを変えていかないといけないと考え、「若者の政治参加を促す三つ」を提案したい。
若い人からよく聞くのは、「ネット投票があればするのに」という声だ。それなのになぜ、インターネット投票は実現されないのだろうか?
インターネット投票が実現すると、投票する人数が増え、今までとは選挙で誰が勝つかが変わってくることが予測される。そのゲームチェンジを政治家が恐れているのではないか。
そう考え、私は「インターネット投票を2025年の参議院選挙で導入してください」という署名活動を始めた。
この署名で「インターネット投票を望んでいるひとがこんなにもいる」という「声」を政治に伝え、「2025年」とゴールとなる期限をハッキリとさせることで、具体的な実現に向けての取り組みを加速させたいと考えている。若者が声をあげ、社会を変えた成功体験にしたい。
では、どうやってインターネット投票などの実現を目指せばいいのか。私たちが声をあげることも大事だが、実行にうつす政治家が必要だ。やはり政治の仕組みも変えなければいけないだろう。
まずは若者議員を増やすことが重要だと思う。
選挙の争点に、若者が直接関わる問題があがりにくく、政治を自分ごと化できないでいるからだ。
たとえばイギリスやアメリカでは、「気候変動」「奨学金」「若者の賃金」などを直接訴えかける政治家が出てきたことで、若者が左傾化するという現象が起こった。
日本は、若者に向けた政策を訴える政党や政治家がなかなか現れない。どの政党も人口ボリュームが大きい高齢者に向きがちであり、そうでなければ選挙に勝てないからだ。
だからこそ、若者の声が反映されやすくなるように、「若者議員が生まれやすい仕組み」にする必要がある。
ひとつの提案は「政治家に立候補できる被選挙年齢を18歳に引き下げること」だ。いまは衆議院議員で25歳、参議院議員で30歳からしか立候補できないのを、18歳にすることだ。
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28歳の私でさえ、今回の参議院選挙には立候補もできない。
しかし、それでも現役の高校生とは10歳以上離れていて、「若者の代弁者としてふさわしい」という自信はない。私の高校時代にSNSによるいじめなどはあまりなかったし、TikTokはまだ生まれてもいないからだ。
目まぐるしい時代の移り変わりの中で、コロナによる学校の休校問題や奨学金への対応など、当事者不在で議論が進むこともあった。そのような際に若者議員がいるのといないのでは大いに違う。
加えて、若者議員の数の多さも大切になる。
現在も、30代の若手議員は若者政策に力を入れ、与野党で奮闘している。超党派で連携し、若者のために政策を進めようとしている。
しかし、若者政策を進める主要6政党の若手議員に取材したところ、多くの方が「党内での優先順位をあげるのが大変だ」と話していた。
ある程度の数がいないと、政策として進めにくい――。だからこそ「若者パリテ」を掲げたい。
「パリテ」とは、議席の一定数の割合を割り当てることであり、女性議員を増やそうと取り組んでいる国もある。それを若者でもやるべきだと思う。
例えば「政党は、35歳以下の議員を3割以上、立候補させないと、政党助成金を1割カットする」といった決まりを作る。若手議員の数が増えれば、人口が少ない若者の意見も反映されやすくなるのではないか。
そして、政治に参加するために欠かせないのは、参加したことによる成功体験だ。だからこそ、私は、社会にどう参画するかを教える「主権者教育」が大事だと考える。
主権者教育が盛んなフランスやイギリスなどを取材すると、学校の中に仕組みがたくさんあり、「社会を変える成功体験」を積み重ねていることに驚いた。
フランスでは、「学校管理評議会」とよばれる議会があり、最終的な意思決定の場に生徒や保護者、地域、校長などが参加する。生徒代表も所属し、生徒に権限が与えられているのだ。
イギリスでインタビューすると、多くの子が「制服の着方を変えた」など、学校のルールを変えたことがあると答えてくれた。
日本では、校則を決めるのは学校側であることが多い。
校則の改訂を生徒会ができるようにする、生徒会が自由に使えるお金の予算を増やすなど「金と権限を与える」ことで、小さな「変える経験」を通して、社会を変える成功体験を生み出せるのではないか。
そして、その目的ももう一度考え直す必要があるだろう。
イギリスで主権者教育の研究を長年しているデイビッド・カーに取材すると、主権者教育のゴールは「権力がどこにあるのかを知ることだ。そうすれば、若者の声をどうやって実現するのか分かる」と語った。
権力は、汚いもの・監視するものというニュアンスで捉えられることが日本では多い。それも大事ではあるが、権力を知り、どうすれば社会を変えられるか知ることはたしかに大事だと思う。
社会を変える場、権力を知る場があることも特徴だ。ヨーロッパには「若者議会」がたくさん存在する。EUでも、各国の若者の代表者が、各国を背負って利益を主張する取り組みをしている。
日本でも子ども議会は存在するものの、「子どもが話すだけ」という形骸化したものが多いと感じる。「若者議会」では、若者の直接の利害に関わることを議論する。
例えばイギリスでは、気候変動、若者のメンタルヘルス、若者の貧困、立候補できる年齢を引き下げること……が扱われ、それが議会で実際に話されるのだ。政治家と話す場があったりして、それが形だけではなく、効果がもたらされているのだ。
このような活動を支えるための団体が持続可能であることも欠かせない。
日本では、若者向けの主権者教育の団体はお金にならず撤退していくことが多い。全国規模で主権者教育をやる団体は、笑下村塾のみになってしまった。
若者の政治参加が活発なスウェーデンでは、1年間で若者団体に税金で30億円ほど支援されている。
日本の学校でも、9割超の学校で主権者教育が実施されている。にも関わらず、選挙に半分以上の生徒が行かないということは国だけの力では足りないのだ。若者の政治参加を促す団体を国が支援していくことが大切だと考える。
若者の投票率をあげるだけなら、投票所の数を増やすなどが有効だろう。だが、根本的に社会をよくするためには、教育から変え、その実行力をもたせ、社会を変えられる成功体験が必要だ。これは1年ではできない。
だからこそ、選挙の度に、若者の投票率が低いと嘆くだけではなく、根本的に若者の政治参加を見直す必要があるだろう。