ネットの話題
修理する神輿に「猫神様」が現れた! 「ありがたや」「降臨された」
手がけた宮大工が願ったことは……
修理中の神輿(みこし)の中に、突如として現れた「猫神様」の画像が話題です。投稿した宮大工に話を聞きました。
写っているのは古びた神輿に、ぴったりと収まって座る1匹のネコ。
まっすぐ見据えた瞳には光が入り、どこかほほえんでいるようにも見えます。
この投稿には、「神々しい」「ありがたや」「猫の身体を借りて降臨されたのでは」と驚きの声が国内外から集まり、9万件以上のいいねが集まりました。
神輿の修理中に中に入って堂々たる猫神様。ナイスショット! pic.twitter.com/appQ8HjKWU
— 木渼斗 KIBITO (@ShmCip) June 14, 2022
投稿したのは、木渼斗(きびと)として、徳島県で宮大工をしている、切中俊裕さん(42歳)です。
普段は神社やお寺の新築、修理工事などを請け負っています。
「猫神様」の画像を撮ったのは、昨年の10月末でした。
県内の神社から修理を依頼された、神輿(みこし)。昭和初期ぐらいに作られた、大人7~8人で背負うものでした。
ホコリまみれで、塗装もはがれて、ぼろぼろ。ちゃんと直すにはかなりの修繕が必要な状況でした。
でも、示された予算は「きちんと直すために必要」な30分の1程度。「なんとかこれで、直せる分でいいので直してくれないか」
目前に迫った、待ちに待ったお祭りに、なんとか神輿を出したい、との思いでした。
切中さんも事情を分かっていました。
コロナ禍の打撃や、物価の上昇は、社寺にも影響を与えていました。檀家や氏子さんからの寄付が集まりにくければ、修理に必要なお金も出せません。修繕が必要な状態でも修理できない社寺建築もありました。
仕事が減り、職を失う宮大工をたくさん見てきました。
やれるだけ、やろう。
神輿の修理を引き受けて作業場に運び込み、昼食のため一度、作業場を離れた切中さん。戻って来て目にしたのが、投稿した画像の光景でした。
神輿の中に収まっていたのは、切中さんが1年前に譲ってもらったキジトラの猫「ペペニャム」でした。臆病な性格で、普段は人がいるところに近寄りません。
狭いところが好きですが、人がいる作業場で、しかも神輿に入るなんて、これまでにはなかったこと。そして、いつもなら誰か来れば逃げてしまうのに、この時はぴったりと鎮座して、動く気配がありません。
いつもとは違う堂々たる姿に、思わずカメラを構えました。
「御利益がありそうだ」
その後は、ペペニャムも入れないようにきちんと囲いをして、修理に取りかかりました。
古い物の修理は、新しいものを作るより手間がかかります。まず全体を磨かないと、色がのりません。丁寧に磨いて、塗装し直し、修繕し、きれいになった神輿を、神社に戻しました。
「明るい話題になれば」とTikTokで昨年末に投稿していましたが、このたびツイッターでも投稿したところ、大きな反響がありました。
子どもの時、テレビで宮大工の特集を見たことが、宮大工を志すきっかけだったという切中さん。
一般住宅を建てていた大工の父をもうならせる、高度な技術を持つ宮大工になりたいと、18~24歳まで奈良県で修行に励みました。
そして25歳、独立しましたが、現実は厳しいものでした。受注が減る中でのさらなる打撃。
「技術の継承には、現場が必要なんです」
最近は、宮大工の技術を生かした、テーブルも作りました。天板はガラスのため、彫刻や、耐震性を高める宮大工の技術を見ることができます。
小さいテーブルなのになかなかできない💦 pic.twitter.com/Hs7lqWjvsH
— 木渼斗 KIBITO (@ShmCip) April 14, 2022
いつか海外にも技術や文化を認められ、三重塔、五重塔、多宝塔を建てるという夢があります。
話題になった「猫神様」の画像にあやかって、「試験の合格」などの願いをかける人もいましたが、切中さんなら、どんな願いをするのでしょうか。
質問に少し考えて、こんな思いを口にしました。
「もちろん、仕事の受注が増えるとか、個人的なものもそうですが……。まずは、世の中からコロナや戦争がなくなって、ひとつでも皆さんの不安が減れば、と思います」
広く世の中にある不安や余裕のなさが、回り回って、文化や技術の衰退につながっています。「ひとつでも不安が減って、明るい話題が増えてほしい」
「猫神様」、なにとぞ。
ヒバの木に彫った藤の花。 pic.twitter.com/S9tKaOFUKp
— 木渼斗 KIBITO (@ShmCip) June 13, 2022
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