エンタメ
「R-1」決勝進出、田上よしえがお笑いから距離を置いた理由
主な収入は…ハンドメイドとウーバー
芸歴2年目で、90年代を代表するネタ番組の「爆笑オンエアバトル」(NHK)に出演し、一躍人気芸人の仲間入りをした田上よしえさん。女性芸人で唯一ゴールドバトラーを受賞し、チャンピオン大会ファイナルにも進出しました。「爆笑オンエアバトル」終了後はネタ番組に出演したり、「R-1ぐらんぷり」で決勝進出も果たしましたが、少しずつ仕事が減っていったそう。現在、ハンドメイドを中心としたアルバイトがメインの生活になっている理由をうかがいました。(ライター・安倍季実子)
「本当はアイドルに憧れていた」という田上よしえさんは、芸歴24年目。コロナ以降、アルバイトがメインの生活を送っている理由は、「芸人になりたくてなったわけじゃないんで、お笑いをしていなくても精神的に問題ない」からだといいます。
「『オンバト』に出ているときは、毎日ネタ作りに明け暮れていましたね。まわりの芸人はみんな尖っていたし、女芸人は少なかったし、男社会の中でひとり戦うのは本当に大変で……。面白い芸人さんばかりの中でウケなきゃいけないから、女っぽさを感じさせないネタ、印象に残るような毒のあるネタを作らなきゃいけないって、ストイックに向き合っていました。あの頃は『オンバト』のほかに営業もありましたし、ライブも月に15本前後出ていました。恵まれていたと思います。」
毎月ライブで新ネタを下ろして、『オンバト』に出るというのを繰り返していた田上さんですが、2010年に『オンバト』が終わると、それまで張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったといいます。
「疲れが出ちゃったんでしょうか?『オンバト』が終わって、ライブも月に5~8本にくらいに減りました。」
その頃からスナックなどの水商売系のバイトをはじめました。
「高校生の時から飲食店でアルバイトをしていて、接客が好きだったんですよね。水商売系のバイトはライブが終わってから行けるんで、生活スタイルにも合っていました。」
さらに、2013年の「R-1ぐらんぷり」のファイナリストになったことで、ある種の達成感を得て、「呼ばれれば出る」というスタンスに。そして、2017年頃からハンドメイドをはじめたといいます。
「昔、芸能界に憧れながら、服飾系の学校に行こうと考えたこともありました。結局、芸人業が波に乗ってきたんで、服飾の方はそのままにしていましたが、YouTubeでアクセサリーや小物作りの動画を見ながら実際にやってみたら、めちゃくちゃ楽しくてハマってしまいました。」
そして、2020年の新型コロナウイルス感染拡大を受けて、20年以上続けていたスナックを辞めました。
「今は、『RakutenRakuma』でポーチやトートバッグ、ポケットティッシュカバーなどの布小物を売りつつ、コロナ中に太ってしまったんで、ダイエット目的でウーバーイーツもはじめました。今はウーバーイーツとハンドメイドが基本的な収入源です」
YouTubeで小物の作り方を学び、素材を購入してから作製に入ります。手作りのため、ひとつ完成させるのに時間がかかり、ひと月の出品数は10~15個。
「楽しいんで全然苦じゃないんですが、売れるのは月平均2万円前後なんで、収入としては微妙なラインです。ぶっちゃけ、やったらやった分だけ稼げるウーバーイーツの方が実入りはいいですね。でも、ハンドメイドは好きだから、やめられません。それに、コロナがはじまった当初、不織布シートで作ったエチケットマスクを売っていたことがあって、それにはずいぶん助けられました」
コロナ登場直後、一時期はマスクが世の中から消えてしまったような状態になりました。ネットでは、高額な値段で転売する業者も増えて社会問題にも発展。そのときに、マスク需要の恩恵を受けたのがハンドメイド業界です。
「あの時は、出品したら秒で完売するような感じでした。マスクの出品が禁止になるまで、毎日のように夜なべしながら、一人でマスクを作っていましたね。まさにマスクバブル!」
自宅で作れて、ラクマに出したらすぐに完売。アルバイトとしては理想的に思えます。
「ネタもそうなんですが、ゼロから何かを作ることが好きなんですよね。それに、細かい作業も好きなんで、パッチパークをたくさん繋ぎ合わせたりして、ほかでは売ってないような凝ったデザインを心掛けています。実はこれ、私のネタの作り方と共通点があるんです」
「私の場合、小ネタをまず量産して、それをひとつずつ設定に当てはめていきます。どうしたら自分の個性を反映できるのかも考えながら。だから、正直なところ、ネタ作りへの熱がハンドメイドで解消されているというのがあります……。」
田上さんには、お笑い活動に踏み込めない深い理由が、もうひとつあるそう。
「自分でいうのも変なんですが、私の芸風の持ち味 は、物事をななめから見たシニカルさだと思ってるんですが、 今の時代には合っていないと思うんですよね。求められているのは、誰も傷つけない、ホンワカした気分になれるような芸風で、実際にネタを作るんなら、今の時代に通用するものを作らないといけないはずです。でも、私の芸風はホンワカとは真逆にありますし、コロナになってライブもなくなって、ネタを作ることもなくなって、ぶっちゃけネタの作り方がわかんなくなったんですよね(苦笑)」
ネタの作り方がわからなくなるのは、芸人にとっては一大事です。しかし、田上さんにとっては、それほど大きな問題ではなかったそう……。むしろ、現在、直面している終活の方が大事だといいます。
「うちは家系的に短命で、 10年ほど前に、母も早くに亡くなりました。 母・兄・妹の母子家庭だったんで、本当にショックでしたね。その時、私は40歳手前で結婚もしていない。このまま何も考えずにいたら、そのうち詰むなと思ったんです。おばあちゃんになった時に、苦労しないためにはどうしたらいいのかって、人生を逆算して考えるようになりました。」
「幸い、自宅は私名義なんで、家の心配はありません。でも、いつ動けなくなるのかわからないので、健康管理やストレスには気をつけつつ、体が動ける間は動く仕事をしようと決めました。そして、数年前からつみたてNISAもはじめましたし、余剰預貯金は全部投資信託に入れています。」
「ウーバーイーツはわかりませんが、楽しくやれてるハンドメイドは、これからも続けていくつもりです。あと、芸人が嫌っていうわけではありません。今は、特技を前面に出した〇〇芸人も多いですし、テレビ以外にも活動できる場所はあります。」
「昔、芸人として伸び悩んだ時期があったんですが、ある先輩に『天職と適職は違うと思う』といわれたんです。『お笑いが天職だと思ってると、それで伸び悩むのはかなりキツイ。でも、適職だと思ったら気楽にできるんじゃないか』っていわれて、気持ちが楽になったんですよね。それに、適職がたくさんあることは素晴らしいことなんじゃないかと思えるようにもなりました。ネタ作りができなくなった今、このピンチをチャンスに変えたいですね」
1/21枚