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お金と仕事

「社会人芸人」のリアル プロあきらめた人?だけじゃない可能性

異色の漫画作者が語った新しい「笑い」の舞台

久保田之都『週末芸人』(講談社)から。主人公の渋谷は、芸人を引退して社会人として働きながら再びお笑いの世界へ挑戦する
久保田之都『週末芸人』(講談社)から。主人公の渋谷は、芸人を引退して社会人として働きながら再びお笑いの世界へ挑戦する

目次

第七世代、おじさん芸人、学生お笑いと新しい波が訪れているお笑い界。そんな中で、今、注目を浴びつつあるのが、現役会社員の芸人です。2020年には、社会人を対象にした賞レース「社会人漫才王」が誕生し、今年の「NSC大ライブOSAKA」では、現役サラリーマンのいるコンビが主席に輝きました。現在、「good!アフタヌーン」で、漫画『週末芸人』を連載している作者の久保田さんに、知られざる社会人芸人のリアルについて聞きました。(ライター・安倍季実子)

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元学生芸人の漫画家・久保田之都さんの初コミックス『週末芸人』
元学生芸人の漫画家・久保田之都さんの初コミックス『週末芸人』

お笑いに没頭した学生時代

漫画『週末芸人』は、芸人を引退して社会人として働く主人公の渋谷が、元相方の高峰から、アマチュアの社会人限定のお笑いイベントに出演しようと誘われたことからはじまります。 平日は社会人、週末は芸人という生活がスタートし、 元芸人であることを隠して生活していた渋谷が、新しい出会いや出来事に戸惑いながらも乗り越えて行く成長物語です。

話を聞いたのは、『週末芸人』作者の久保田之都(ゆきと)さんです。

――お笑いを好きになったのはいつ頃ですか?

「ちゃんと好きになったのは、大学のお笑いサークルに入ってからですね。明治大学の『木曜会Z』というサークルで、部員は70人くらいいたと思います。半分くらいは裏方志望の人でしたね。ほかにもいろいろなサークルに入っていて、『木曜会Z』には2年生から途中入部したんですが、このサークルだけは続けてました」


――『木曜会Z』ではどんな活動を?

「大きなイベントとしては、春と冬に開催される関東のお笑いサークルの大会です。ほかには、学祭やサークルライブなどもありました。大会前は合宿もありましたし、ライブ前はネタ見せや練習に力を入れてましたが、そういったものがないときは、それぞれが自由に活動していました」


――芸人ではなく漫画家になったのは?

「子どもの頃から漫画が好きで、小学生のときから将来は漫画家になろうと思ってました。通信教育の漫画講座も受けていて、友達と一緒にコンテストに投稿したりしていました。2019年から1年ほど『ゲンロン ひらめき☆マンガ教室』に通っていたときに、社会人お笑いをテーマにした作品を課題として提出したら、いい評価をいただけて、それに手を加えて完成したのが『週末芸人』の第1話になります」

久保田之都『週末芸人』(講談社)から
久保田之都『週末芸人』(講談社)から

「プロではない」ことへの壁

――ストーリーには芸人さんの実体験も盛り込まれているのですか?

「まわりには社会人お笑いをしている友人が多いので、会ったときに聞いた話をエッセンスとしてストーリーに落とし込むことは、けっこうあります。ただし、友人の話をそのままストーリーにするということはないです」


――第3話で、主人公の渋谷たちが大学のお笑いサークルのOBとして招かれたけど、プロじゃないと分かった途端、後輩の態度が豹変(ひょうへん)します。プロの芸人ではないことへの壁を感じる場面が印象的でした。

「芸人の中にはいろいろな考えの人がいて、プロやプロの芸人を目指している人からしたら、週末だけ芸人をすることを遊びだと思う人もいると思うんです。その考えや気持ちを漫画にしてみたら、ああなりました」

久保田之都『週末芸人』(講談社)から
久保田之都『週末芸人』(講談社)から

――芸人のプロとアマチュアの違いは何だと思いますか?

「難しいですね……。何を軸に考えるのかで答えが変わると思うんですが、僕的には事務所に所属しているか、していないかだと思います。お笑いを好きな気持ちや頑張りとか、細かく見れば違うんでしょうが、そんなに差はないと思います」

――では、学生芸人と社会人芸人との違いとは?

「大きな違いは、属しているコミュニティーだと思います。学生芸人の場合はタイムリミットが決まっていて、4年間の中でどれだけできるのか。これが青春感の強い理由で、甲子園を目指す高校野球と似ていると思います。僕も、学生芸人をしているときは、コンビを組んでコンテストに参加していました。大学最後の大会では、いい所までいったんですが、賞には手が届かず、めちゃめちゃ泣きましたから(笑)」

「今のお笑い業界を見ると、同時期に活動していた、真空ジェシカさん、サツマカワRPGさん、おるたなChannelさんといった人たちが活躍していますし、大学のお笑いサークルに目をやると、部員が100名を越えるところもあります。着実に関東の大学お笑いが成長していて、お笑い好きとしてもOBとしても嬉しいです」

「社会人芸人の場合はタイムリミットがないんで、自分のペースで進められます。ただし、平日は会社員だから、芸人活動に費やす時間が少ないのがネックですよね。ほかにも、会社員芸人ならではのメリットやデメリットはありますし、個人的には、お笑い業界の常識を変える可能性を秘めている存在だとも思っています。ただ、これまでは、会社員をしながら芸人を続ける選択肢が、学生芸人のメインストリームにはなかったので、一言では言い表せないです」

社会人芸人にしかないメリット

――学生芸人のメインストリームとは?

「僕たちの時代の学生芸人の主流は、お笑いをやめて就職することです。そして、1割にも満たないプロ志望の学生芸人が養成所に通います。養成所に通う人の中には、大会で好成績を残して、養成所の学費免除あるいは減額されて入学する人もいました。ただ、これはプロ志望の多くの学生芸人が目指す理想であって、そうした恵まれた環境で芸人生活をスタートできるのは、さらに選ばれたほんの一握りの人たちだけです。養成所期間なしで直接事務所にスカウトされるということは稀で、伝説級の逸話みたいなものでした」

「そして、就職せずに芸人になる道を選んだ少数の人たちは、オーディションやライブが生活の中心になるんで、自然とアルバイトをすることになります。だから、大学を卒業して会社に就職しながら芸人を続けるという選択肢はありませんでした」

――芸にかけられる時間が少ない一方、社会人芸人にしかないメリットとは?

「生活の安定が確保されていることです。会社員という立場や責務もありますし、自由には行動しづらいでしょうし、会社内で公にしてもしなくても、それがストレスになるケースもあると思います。でも、会社員であるから週末に芸人活動の時間を確保できるとも言えるわけですから、その面はメリットだと思います。生活が破綻してしまったら、会社員も芸人も何もないですし」

「それに、会社員はひとつの個性にもなります。『週末芸人』の中でも、渋谷が会社員をネタにするくだりもありますし、そういうところは大きなメリットと言えるでしょう」

「舞台の上で笑いを取る快感もあれば、反対にスベッたときの恐怖感もあります。彼らは、恐怖感よりも、お笑いを好きな気持ちが上回っているから続けられるんでしょう」
「舞台の上で笑いを取る快感もあれば、反対にスベッたときの恐怖感もあります。彼らは、恐怖感よりも、お笑いを好きな気持ちが上回っているから続けられるんでしょう」

それでも続けられる理由

――では、社会人芸人の人たちは何を糧に続けられているんでしょうか?

「単純に、『お笑いが好き』という一言に尽きるんじゃないでしょうか。もちろん学生芸人も、プロになるために4年間で結果を出そうとして純粋にお笑いに励んでいるんですが、大学という枠が外れてもなお続けたいっていうのは、それだけお笑いに対する愛情が深いからだと思います。社会人芸人の中には、賞レースに参加するコンビもいれば、『社会人芸人を盛り上げたいから』といって、賞レースには参加せずに、社会人芸人のためのライブやコンテストを開いている人もいます。こんな話をすると、変わってると思ったり、心配したりする人もいるかもしれませんが、彼らはお笑いに魅せられて、プロや学生っていう大義名分がなくても、芸人を続けられることが幸せなんだと思います」


――今後、社会人芸人はどんな影響を与えると思いますか?

「お笑い人口の増加は考えられるんじゃないでしょうか? 学生芸人には、大学を卒業しても続けられる方法のひとつとして選択肢を与えたと思います。あと、これまでは音楽や漫画は会社員になっても趣味として続けられるのに、お笑いだけはそういう場所がなかったんで、『趣味:お笑い』を可能にしたという意味でも、功績は大きいと思います」

「それに、東京に限らず、事務所に所属していない実力者はたくさんいます。今は、プロとアマチュア関係なく、誰もが参加できる大喜利ライブも熱いですし、社会人芸人としてメディアに出て来る日も、そう遠くないのかもしれません」

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